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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)8285号 判決

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり。

主文

一  原告等(但し、原告甲野花子及び原告丙田五江を除く。)と被告との間において、同原告等がいずれも課長職の地位にあることを確認する。

二  被告は別表1認容金額一覧表記載の原告等に対し、左記金員を支払え。

1  右表記載の「合計」欄の各金員及び「差額賃金(1)」の各金員に対する昭和六二年六月二六日から、「差額賃金(2)」の各金員に対する平成元年一〇月一八日から、「差額賃金(3)」と「退職金差額」との各金員に対する平成六年七月二日から、「差額賃金(4)」の各金員に対する平成七年二月一五日から、「差額賃金(5)」の各金員に対する平成八年二月一六日から、「差額賃金(6)」の各金員に対する同年七月一五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による各金員

2  平成八年七月以降毎月二〇日限り、別表1月額差額賃金一覧表記載の「月額差額賃金」欄の各金員及びこれらに対する毎月二一日から支払済みまで年五分の割合による各金員

三  原告丙田五江の請求及びその余の原告等のその余の請求をいずれも棄却する。

四  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

五  訴訟費用は、原告丙田五江と被告との間においては、被告に生じた費用のうち一三分の一を同原告の負担とし、その余は各自の負担とし、その余の原告等と被告との間においては、これを三分し、その一を同原告等の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

(主位的請求)

一  原告等(但し、原告甲野花子を除く。)と被告との間において、同原告等がいずれも課長職の資格及び課長の職位にあることを確認する。

二  被告は原告等に対し、左記金員を支払え。

1 別表2の(1)請求金額一覧表(一)(主位的請求)記載の「合計」欄の各金員並びに同一覧表「差額賃金(1)」及び「慰謝料」欄の各金員に対しては昭和六二年六月二六日から、同一覧表「差額賃金(2)」欄の各金員に対しては平成元年一〇月一八日から、同一覧表「差額賃金(3)」欄及び「退職金差額」欄の各金員に対しては平成六年七月二日から、同一覧表「差額賃金(4)」欄の各金員に対しては平成七年二月一五日から、同一覧表「差額賃金(5)」欄の各金員に対しては平成八年二月一六日から、同一覧表「差額賃金(6)」欄及び「弁護士費用」欄の各金員に対しては平成八年七月一五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による各金員

2 平成八年七月以降毎月二〇日限り、別表2の(1)月額差額賃金一覧表(一)(主位的請求)記載の「月額差額賃金」欄の各金員及びこれに対する毎月二一日から支払済みまで年五分の割合による各金員

(予備的請求)

但し、原告戊田及び同甲田についての主位的請求二について

被告は原告戊田及び同甲田に対し、左記各金員を支払え。

1  別表2の(2)請求金額一覧表(二)(予備的請求)記載の「合計」欄の各金員並びに同一覧表「差額賃金(1)」欄及び「慰謝料」欄の各金員に対しては昭和六二年六月二六日から、同一覧表「差額賃金(2)」欄の各金員に対しては平成元年一〇月一八日から、同一覧表「差額賃金(3)」欄の各金員に対しては平成六年七月二日から、同一覧表「差額賃金(4)」欄の各金員に対しては平成七年二月一五日から、同一覧表「差額賃金(5)」欄の各金員に対しては平成八年二月一六日から、同一覧表「差額賃金(6)」欄及び「弁護士費用」欄の各金員に対しては平成八年七月一五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による各金員

2  平成七年七月以降毎月二〇日限り別表2の(2)月額差額賃金一覧表(二)(予備的請求)記載の「月額差額賃金」欄の各金員及びこれに対する毎月二一日から支払済みまで年五分の割合による各金員

第二事案の概要

本件は、被告の職員である原告等(但し、原告甲野は平成五年九月二九日定年により退職)が被告に対し、女性であることを理由に同期同給与年齢の男性職員と比較して昇格及び昇進において著しい差別的処遇を受けたと主張し、主位的にはこの差別的処遇の是正措置として雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律(以下、「男女雇用機会均等法」という。)、就業規則三条又は労基法一三条等に基づいて同期同給与年齢の男性職員(但し、原告等と同じ組合に所属する男性職員を除く。)のうちで最も遅く副参事又は課長職に昇格した男性職員と同時期に課長職に昇格し、最も遅く課長に昇進した男性職員と同時期に課長に昇進したと主張し、課長職の資格と課長の職位にあることの確認を求めるとともに、右のとおり昇格・昇進していたとするならば支給を受けたはずの賃金と現実に支給を受けた賃金との差額等の支払を求め、予備的には不法行為(民法七〇九条)に基づき右差額賃金相当の損害金等の支払を求めた事案である。

なお、被告は、平成二年四月一日以降新人事制度を導入し、これが導入されるまでの人事制度との間で資格制度が異なり、これに伴って資格及び職位の呼称も変更となったので、便宜上新人事制度が導入されるまでについては当該人事制度下の資格及び職位の呼称を使用し、新人事制度が導入されて以降については新人事制度下の資格及び職位の呼称を使用することとする。

一  争いのない事実(但し、一部証拠上の認定事実を含む。)

1  当事者関係

(一) 被告

被告は、大正一四年六月に設立され、肩書地に本店を、東京都及び神奈川県に二八の支店(但し、本店営業部をも含む。)を有する出資金一九億八九八七万円の信用金庫である。

従業員数は、昭和六二年三月末当時で九二〇名(但し、男性職員六六二名、女性職員二五八名)、平成八年三月末当時で七九〇名(但し、男性職員五八九名、女性職員二〇一名)である。

なお、被告には、労働組合として、被告の職員をもって昭和二八年七月に結成され全国信用金庫信用組合労働組合連合会に加盟している芝信用金庫従業員組合(組合員数は、昭和六二年八月当時で三三名、平成八年三月当時で二四名である。以下「従組」という。)と、右組合から脱退した被告の職員によって昭和四三年九月に結成された芝信用金庫労働組合(以下「労組」という。)とが併存している。労組の組合員数は、昭和六二年八月当時で七九〇名、平成八年三月当時で六四六名であり、労組が圧倒的な多数組合となっている。

(二) 原告等

原告甲野は昭和二八年四月に、同戊田は三一年四月に、同乙山、同丙川及び同丁原はいずれも三三年四月に、同甲田は三五年四月に、同乙野は三七年四月に、同丙山は四〇年四月に、同丁川及び同戊原はいずれも四一年四月に、同甲川及び同乙原いずれも四二年四月に、同丙田は四三年四月にそれぞれ被告に入職した。

原告戊田は中学卒業後、その余の原告等はいずれも高校卒業後、被告に入職し、原告等の入職後の職務歴は、別表3の(1)ないし(13)に各記載のとおりであり、そして、原告等はいずれも従組に所属している。

2  被告における人事制度

(一) 職能資格制度の導入

被告は、昭和四三年四月から職能資格制度を導入した。

右制度は、職員について「資格」付けを行い、職員を資格ごとの賃金体系によって処遇することにあった(但し、職員の右「資格」付けについては、被告は、当該職員の職務遂行能力に対応して行った旨の主張をし、原告は、年功序列によって行われていた旨の主張をしている。)。

右制度を機能面からみると、第一は、資格によって賃金体系が決まり(被告は、これを「能力主義」と呼んでいる。なお、昭和五六年からは、原則として下位資格者の最高号俸額は上位資格者の初号俸額を超えないこととなった。)、第二は、部長、室長、副部長、店舗長、課長、相談室長、次長、特別出張所長、店舗長代理、係長、推進役等原則としてライン上の「職位」(役職)に就くことができるためには、特定の職位(役職)ごとにある一定以上の「資格」を要するということにあった。

そして、右の「資格」付与は、昭和五三年一〇月の昇格試験制度導入以前においては人事考課に基づいていた。

なお、資格制度については、後記新人事制度が導入された平成二年四月以降とその導入前とでは異なり、次のとおりとなっている。

すなわち、新人事制度導入以前の平成二年三月までは、資格が参与、副参与、参事、副参事、主事、書記一級、書記二級、書記三級の八等級に分かれており、そして、この資格に対応した職位は、参与資格については部長、室長、副部長、副室長、店舗長、課長、相談室長であり、副参与資格については部長、室長、副部長、副室長、店舗長、課長、相談室長、次長であり、参事資格については小型店舗長、課長、相談室長、次長、特別出張所長、店舗長代理であり、副参事資格については機械化店舗(出張所)長、店舗長代理、係長であり(但し、副参事資格を取得した者は、当初「認定副参事」としての辞令を受け、認定副参事に対しては係長の職位を命じられることがあったものの、機械化店舗(出張所)長、店舗長代理の職位を命じられた例はなかった。)、主事資格については係長である。

なお、別に「推進役」の職位があるが、その職位の性質上、推進役の職位を命じられている職員は、参与資格を有する職員から主事の資格を有する者まで、その間の全資格に及んでいた。

新人事制度が導入された平成二年四月一日以降は、資格が部長職(新設資格である。)、副部長職(但し、平成二年三月以前の呼称は参与及び副参与)、次長職(但し、平成二年三月以前の呼称は参事)、課長職(但し、平成二年三月以前の呼称は副参事)、係長職(但し、平成二年三月以前の呼称は主事)、上級職員(但し、平成二年三月以前の呼称は書記一級及び書記二級)、初級職員(但し、平成二年三月以前の呼称は書記三級)の七等級に分かれ、そして、この資格に対応する代表的職位は、部長職については部長、店舗長、室長であり、副部長職については支店長、副支店長、副部長、副室長であり、次長職については副支店長、課長等であり(被告は、以上の外に主席(融資・営業)担当、上席が次長職に対応した職位であると主張し、原告等は職位ではないと反駁するが、乙一九六によると被告の主張するとおりであることが認められる。)、課長職については課長等であり(被告は、以上の外に、上席(事務・融資・営業)担当も課長職に対応した職位であると主張し、原告等は職位ではないと反駁するが、乙一〇〇及び一九六によると被告の主張するとおりであることが認められる。)等であり、係長職については係長(但し、平成四年四月一日をもって廃止された。)、上級(事務・融資・営業・外為)担当等である。

(二) 昇格試験制度の導入

被告は、昭和五三年一〇月、「資格」の付与につき昇格試験制度を導入した。

右制度は、昇格試験制度運用規程(以下「運用規程」という。)に基づいて運用され、これによると、昇格試験の受験資格は、「各級満二年を経験したもので自己申告がなされた者」と「書記一級から参事在級のもので、満一年経験し、人事考課の決定評語が一回目A以上のもので自己申告がなされた者」とに与えられる(同規程三条)。そして、具体的な受験者の確定は、まず人事部から送付された受験資格者一覧表に基づき、所属長が該当者に受験の意思を確認し、受験希望者から「昇格試験自己申告表」により自己申告を受け、所属長は、昇格試験受験希望者から提出された昇格試験自己申告表に適性調査表を添えて、人事部長宛送付することとなる(運用規程六条)。

なお、昭和五七年度の昇格試験までは、所属長が受験希望者の昇格を推薦する場合には昇格試験自己申告表の推薦欄にその旨を記入することとしていたが、昭和五八年度の昇格試験からは右の「推薦」制度を中止している。

(1) 昇格試験の評価項目とその配点

昇格試験の評価項目は、運用規程四条一項によると、①人事考課(当該年度を含む最終三か年の能力考課と業績考課)、②推薦、③学科試験(業務知識と専門知識)、④論文試験、⑤面接とされているが、昭和五八年度実施の昇格試験以降は、右のうち推薦と面接とが中止され、人事考課、学科試験、論文試験の三項目となった。

そして、昭和五八年度以降実施された副参事への昇格試験の評価項目の比重は、全体を一〇〇パーセントとすると、人事考課五〇パーセント、学科試験三〇パーセント、論文試験二〇パーセントである(なお、昭和五八年度から推薦および面接を中止したため、評価項目の比重は、運用規程五条記載のとおりではないが、被告は変更された右の比重を昇格試験の実施前に発表している。)。

① 人事考課

人事考課は、職員の職務遂行能力、執務態度、仕事の実績を客観的・組織的かつ定期的に観察記録し、配置・異動・昇進・昇格・賃金等人事管理の公正な運営を促進し、かつ職員の能力向上と公正処遇を図ることを目的とする(昭和五五年九月一二日制定人事考課規程一条)。そして、人事考課の比重は、昇格試験全体の五〇パーセントを占める。

人事考課の評価項目には、過去三年間の能力考課と業績考課とが含まれ、さらに、前者は人事考課評価項目の八割、後者は二割の比重を占めることとしている(従って、評価項目全体を一〇〇パーセントとした場合、全体に対する比重は能力考課が四〇パーセント、業績考課が一〇パーセントとなる)。

能力考課の点数化は、当該職員が取得した具体的な能力考課の決定評語について、人事考課係数(Sは六点、Aは五点、Bは四点、Cは三点、Dは二点)によって点数化し(但し、過去三年間に三回の能力考課が行われるので、その合計の最高点は一八点、最低点は六点)、その三年分の合計点数に一八分の一〇〇を乗じて一〇〇点満点中の得点に換算し、その得点の四〇パーセントの数値をもって全体の評価項目中の能力考課の得点とする。

業績考課の点数化は、当該職員が取得した具体的な業績考課の決定評語について、右に述べた人事考課係数によって点数化し(但し、例年、夏期、年末、期末と三回業績考課がなされるが、昇格試験受験年度の期末の業績考課は未だ決定されていないため、これを除き、過去三年間における合計八回の業績考課による。その合計の最高点は四八点、最低点は一六点)、その合計点数に四八分の一〇〇を乗じて一〇〇点満点中の得点に換算し、その得点の一〇パーセントの数値をもって全体の評価項目中の業績考課の得点とする。

このような人事考課は、人事考課規定に則って実施されており、この運用の概要は、次のとおりである。

人事考課は定期昇格の実施及び夏期、年末、期末の各臨時給与の支給のために実施され、定期昇給と期末臨時給与の人事考課は毎年二月から三月にかけて、また夏期臨時給与の人事考課は毎年五月に、さらに年末臨時給与の人事考課は毎年一一月に各実施される。

そして定期昇給の考課は「参事(次長)」用、「副参事・主事(係長・代理)」用、「書記一級・書記二級・書記三級」用の三種類があり、臨時給与の考課は「参事」用、「副参事・主事(役職についている者)」用、「主事(一般職)」用、「書記一級・書記二級・書記三級」用の四種類がある。

原告等は、全員が主事であるから、定期昇給の考課の場合は右のうち「副参事・主事(係長・代理)」用、臨時給与の考課の場合は同じく、「主事(一般職)」用にそれぞれよることとなる。

そして、各評価項目の評定に当っては、S、A、B、C、Dの五段階の評定ランクを設けており、第一次評定者から最終評定者までの三者によるそれぞれの評定がなされ、この集約されたものが決定評価(これを「決定評語」と呼んでいる。)となる。

② 学科試験

学科試験の比重は、昇格試験全体の三〇パーセントであり、さらに次のとおりに区分される。

ア 業務知識(但し、全体に対する比重は二〇パーセント)

事務編、融資編、得意先編の三分野から出題され、この三分野の配点については、当該受験者が平素担当している職務分野の配点を高くして多少なりとも負担を軽くするように配慮している。すなわち、店舗在勤者については担当している職務編の配点を高くして四〇点、他の二編をそれぞれ三〇点として合計一〇〇点満点とする。したがって、事務係または融資係に配属されている職員については、担当している事務編あるいは融資編が四〇点の配点となる。他方、本部在勤者については、その職務は、業務知識分野として出題される事務、融資、得意先とは関係のない総務、経理、総合企画、コンピューター等を担当しているため、店舗在勤職員に比較すると出題される業務知識に接する機会が少ないので、この点を配慮して、それぞれが任意に選択する編を六〇点とし、他の二編をそれぞれ二〇点として合計一〇〇点満点とする。

このようにして、当該受験者の取得した得点の二〇パーセントの数値をもって、全体の評価項目中の業務知識の得点とする。

イ 専門知識(但し、全体に対する比重は一〇パーセント)

金融法務編、税務編、財務分析編の三分野から出題され、この三編をそれぞれ三〇点として、合計九〇点満点とする。

このようにして、当該受験者が取得した得点に九〇分の一〇〇を乗じて一〇〇点満点中の得点に換算し、この一〇パーセントの数値をもって全体の評価項目中の専門知識の得点とする。

③ 論文試験

論文試験の比重は、昇格試験全体の二〇パーセントとする。具体的には、論文試験の採点は一〇〇点を満点として行い、当該受験者の取得した得点の二〇パーセントの数値をもって、全体の評価項目中の論文の得点とする。出題については、被告において各等級毎にテーマを決定している。

(2) 試験の実施、採点及び集計作業

原告等は試験の採点及び集計作業については知らない旨答弁している。

試験の実施時期については、運用規程七条一項の定めによるが、昭和五八年以降の実施状況は、概ね一〇月から翌年二月までの間に実施されている。

学科試験の具体的な実施方法は、各等級毎に会場と日時とを指定し、試験時間として一時間二〇分を与えて解答させている。

論文試験の具体的な実施方法も各等級毎に会場と日時を指定し、その場でテーマを開示のうえ、出題し、試験時間として一時間三〇分を与えて論述させている。

(3) 合格者(昇格者)の決定と結果の発表

① 合格者(昇格者)の決定

選考委員会は、例年理事長、人事担当理事を含む役員で構成されているが、合格者の決定は、副参事への昇格に関しては、最終的に人事部長に決定が委ねられており、人事部長が合格者を決定する。

② 結果の発表

合格者については原則として四月一日付けの辞令交付をもって結果の発表、すなわち昇格の意思表示を行っている。

3  被告と従組との和解協定の締結

原告等の所属する従組は、東京都地方労働委員会に対し、昭和五三年、従組員の賃金・昇格差別是正を求める不当労働行為の救済を申し立てたところ、被告と従組とは、昭和五五年一〇月一五日、同労働委員会の立会いの下で、左記のとおりの和解協定(以下「本件和解協定」という。)を締結した。

第一章労使の基本姿勢

一条(正常な労使関係への努力)

被告は、本件紛争の原因となった行為が発生したことに対し、遺憾の意を表明し、今後、不当労働行為と疑われるような行為を行わない。

労使双方は、正常な労使関係の確立のために誠実に努力する。

第二章解雇処分について

二条(職場復帰)

被告は、丁野太郎、戊山松夫、甲山竹夫、乙川梅夫に対する昭和四九年一二月二六日付け、丙原春夫に対する昭和五〇年二月一四日付け、丁田夏夫に対する昭和五〇年一〇月一七日付け、戊野秋夫に対する昭和五一年五月一四日付け、甲原冬夫、甲野花子、乙田一郎、丙野二郎、丁山三郎に対する昭和五一年八月一六日付け、戊川四郎、甲本五郎、乙沢六郎、丙林七郎、丁谷八郎に対する昭和五二年二月一八日付けの各懲戒解雇を各発令日に遡って撤回し、後記の定めに従い、職場に復帰させる。

被告は、職場復帰者に対し、解雇処分があったことを理由に、今後、不利益な差別扱いを行わない。

三条(就労日)

職場復帰者の就労日は、昭和五五年一二月一〇日とする。

四条(特別休暇)略

五条(特別研修)略

六条(健康診断)略

七条(職場復帰者の取扱い)

復帰後の賃金、身分については、後記第四章による。

なお、職場復帰者の配属部署については、特別研修終了後、直ちに決定する。

2  解雇期間中の賃金相当額を支払う。

3  職場復帰者の賃金、身分是正にともなう過去の是正賃金相当額を支払う。

八条(解雇期間中の諸取扱い)

解雇期間は、勤続年数として通算する。

2ないし7 略

第三章解雇以外の処分について

九条(処分の撤回)

被告は、左記の懲戒処分を各発令日に遡って撤回し、人事記録から抹消する。

①及び② 略

③ 昭和四九年一二月二六日付け戊海九郎、丙野二郎、甲野花子に対する出勤停止処分並びに同日付け戊川四郎に対する減俸処分。

④及び⑤ 略

一〇条(その他の処分の取扱い)

被告は、左記の懲戒処分を理由に今後不利益取扱いはしない。

① 略

② 昭和四六年三月一日付け、丙山冬子、丁田夏夫に対する寮利用禁止処分。

③及び④ 略

一一条(丙原に関する判決の履行)略

第四章賃金、身分の是正について

一二条(調整給)

本和解による賃金是正の方法としての「調整給」の算出のために、A、B、C、Dの各テーブルを設ける。

2  各対象者が、現在支給されている本人給金額(解雇されていた者については、これに準ずる金額)と、適用される各テーブルの該当する金額との差額を調整給として、以下各条に従い支給する。なお、この調整給は、臨時給与、残業手当、退職金算定基礎本給の各計算基礎に算入する。

3  後記是正方法により昇格した場合、昇格直前の本人給と調整給との合計額を現行給与体系上の直近の号俸に移行させる。また、期限内に昇格しなかった場合は、直近の号俸に移行させ、調整給を消滅させる。

一三条(男子の取扱い)

給与年齢三三歳以上の者に対し、本件和解成立日をもって、現在支給されている本人給金額(解雇されていた者については、これに準ずる金額)とAテーブルの給与年齢に該当する金額との差額を調整給として支給する(但し、甲村十郎、戊川四郎、乙石一夫を除く。)。

2  給与年齢三三歳以上で、同三七歳以下の者に対し、本件和解成立後三年以内に、被告所定の昇格試験受験のうえ、段階的に主事資格を付与する。

3  給与年齢三八歳以上の者に対し、本件和解成立後二年以内に、被告所定の昇格試験受験のうえ、段階的に主事資格を付与する。

4  前三項によって、主事資格を取得した者に対しては、その取得した段階からCテーブルと本人給金額との差額を調整給として支給する。

5  前三項による主事資格取得者のうち、本件和解成立後五年以内に、被告の人事制度により適格と認定された者に副参事資格を付与する。

6  現在主事資格を有する甲村十郎、戊川四郎、乙石一夫の三名については、本件和解成立日をもって、Cテーブルの給与年齢に該当する金額と本人給金額(解雇されていた者については、これに準ずる金額)との差額を調整給として支給し、本和解成立後三年以内に、被告所定の昇格試験受験のうえ、段階的に副参事資格を付与する。

一四条(女子の取扱い)

女子については、二項の者を除き、Bテーブルの給与年齢に該当する金額と本人給金額との差額を調整給として支給し、昭和五六年四月一日をもって、現行給与体系に位置づけ、調整給を消滅させる。

2 三八歳以上の者六名に対し、Dテーブルの給与年齢に該当する金額と本人給金額(解雇されていた者については、これに準ずる金額)との差額を調整給として支給する。

3 前項の適用を受ける者が、本件和解成立後三年以内に主事に昇格しない場合、その時点での本人給と調整給との合計額を現行給与体系上の直近の号俸に移行させ、調整給を消滅させる。

第五章労使関係の正常化

一五条(団体交渉)略

一六条(賞罰審議委員会)略

一七条(組合役員の異動)略

一八条(組合掲示板)略

一九条(施設利用)略

二〇条(組合事務所)略

二一条(ビラ配付)略

二二条(時間内組合活動)略

二三条(組合専従)略

二四条(職場環境の改善等)

組合員から職場環境等について、所属長に意見が出されたときは、所属長は十分意見を聞き、改善すべきものは改善する。

二五条(機構改革等の事前協議)略

二六条(永年勤続表彰)略

二七条(職員慰安旅行)略

二八条(住宅資金にかかわる登記の抹消)略

二九条(年金等についての協定)略

三〇条(始末書、顛末書の破棄)

被告は、本件和解によって撤回される解雇、その他の処分の前提となった始末書、顛末書については破棄する。

なお、被告は、これら破棄した始末書、顛末書を理由に、組合員を不利益に取扱わない。

第六章職業病罹患者の取扱いについて

三一条(職業病対策)略

三二条(甲川(旧姓丙内)三江の取扱い)略

第七章研修について

三三条(研修)

研修は、業務上の必要に基づき、「研修規定」により行う。

2 本件和解協定に基づき必要となる研修については、組合員が適正に能力を発揮して職務を遂行できるように、被告は特別な職務ローテーションを組んで行う。

第八章解決金について

三四条(解決金)

被告は、従組に対し金一封を支払う。

三五条(解決金で処理する内容)

左の内容については、解決金を含めて処理する。

① 七条二項、三項に表示するもの。

② 八条七項に表示するもの。

③ 在籍者の過去の賃金、身分是正に伴う是正賃金相当分。

④ 九条に表示する処分撤回にともなう賃金相当分。

⑤ 昭和四七年、四九年、五三年及び五五年度賃上げ分差額遡及相当額。

⑥ 三二条二項に表示するもの。

⑦ないし⑨ 略

第九章係争事件の処理について

三六条(労働委員会関係)

従組は左の各事件を取下げる。

①ないし⑩ 略

2 被告は、中労委昭和五一年不再第一一号事件を取り下げる。

三七条(裁判所関係)

被告、従組並びに関係者は、左記の各事件を取り下げるものとし、各当事者はこの取下げに同意する。

①ないし⑦ 略

三八条(その他)略

三九条(取下げの履行)略

四〇条(請求権の消滅)

被告、従組並びに関係当事者は、本件紛争に関し、本件和解協定で定めたもの以外について、一切の請求権が消滅したことを確認し、今後争わない。

4 給与年齢三三歳主事自動昇格制度の導入

(一) 給与年齢三三歳主事自動昇格制度の導入

被告は、本件和解協定締結後の昭和五六年四月一日、同日付で「書記一級で給与年齢三三歳になった者」を昇格試験の合否とは関係なく自動的に主事に昇格させることを制度として採用した。

(二) 右制度の導入による原告等の処遇

給与年齢三三歳主事自動昇格制度が導入された結果、女性職員についてもその適用がなされ、原告等は次のとおりの処遇を受けることとなった。

(1) 本件和解協定一四条一項関係

同項の適用を受けた原告は、乙野、丙山、丁川、戊原、甲川、乙原、丙田の七名であったが、このうち、昭和五六年四月一日で給与年齢が三三歳以上であった乙野、丙山、戊原、丁川の四名は、右同日付で主事資格を付与され、同日付で従来受給していた書記一級の本人給額と調整給額の合計額に直近の主事賃金テーブル上の号俸・賃金に移行されて調整給が消滅した。

なお、昭和五六年四月一日現在給与年齢三三歳に達していなかった甲川、乙原、丙田の三名は、同条一項後段の適用によって調整給の消滅が図られるものの、資格は依然書記一級に止まったが、その後、給与年齢三三歳に達したことにより、甲川と乙原とは、昭和五七年四月一日付で主事に昇格し、丙田は、昭和五八年四月一日付で主事に昇格した。

(2) 本件和解協定一四条二項関係

同項の適用を受けた原告は、甲野、乙山、丙川、丁原、戊田、甲田の六名であるが、同原告等は、本件和解協定締結時において既に給与年齢が三八歳以上であったので、昭和五六年四月一日付けで全員主事資格を付与され、同日付で従来受給していた書記一級の本人給額と調整給額を合計した額に直近の主事賃金テーブル上の号俸・賃金に移行させて調整給を消滅させた。

(3) 本件和解協定一四条三項関係

給与年齢三三歳主事自動昇格制度が導入されたことにより、右(2)のとおり本件和解協定一四条二項該当者全員が昭和五六年四月一日付けで主事に昇格したため、一四条三項はその適用の前提を失った。

5 新人事制度導入(平成二年四月一日)

被告は、平成二年四月一日から新人事制度を導入した(但し、従組は新人事制度の導入について協議が尽くされていないこと等を理由に右制度の導入に反対している。)。

新人事制度の導入により従来の資格「主事」を「係長職」に、「副参事」を「課長職」に呼称を変更したことは前述のとおりである。

もっとも、新人事制度導入後の平成四年四月一日付で係長の職位は廃止された。

なお、平成二年四月一日からそれまで支給されていた役職手当は全役職において撤廃し、全額本人給に組入れた。

6 被告における職員研修制度

被告は、昭和三八年二月二〇日に研修規程を定め、同年八月一日には人事部に研修課を設置し、組織的に次のとおりの研修を実施している。

(一) 入職前の研修

(1) 昭和五九年以前

昭和五九年以前の入職前研修については、男性職員については三浦市に所在する被告の上宮田保養所において宿泊のうえ研修を行い、女性職員は被告本店において集合のうえ研修を行っていた。

(2) 昭和六〇年三月以降

昭和六〇年三月以降の入職前研修については、被告は入職予定の男性職員、女性職員全員を被告本店に集合させて研修を行っている。

(二) 入職後一定期間の配属と研修

(1) 昭和六一年三月以前

① 男性新入職員

ア 原告等主張「職務ローテーションによる研修」

昭和五八年度入職男性職員は、同年四月一日から同年六月末日まで資金方(但し、具体的職務は資金方補助)、同年七月一日から翌五九年三月末日まで預金係(但し、具体的職務はカウンター後方で預金通帳作成、端末機操作等を行うオペレーター)、同年四月から同年九月末日まで融資係(具体的職務は融資受付補助)に順次配属された。

昭和五九年度入職男性職員も前年度と同様の部署に配属されている。

イ 右配属中の職場内研修(O・J・T)

被告は、右の男性新入職員に対し、融資係に配属中に限ってその業務遂行途中において別途用意したチェックリストの挙げる項目について、職場内研修(O・J・T)を実施している。

その他、研修のための職務ローテーション配属中、各部署において職場内研修を実施している。

ウ 右配属中の集合研修

被告は、右男性新入職員に対し、集合研修を実施している。

エ 通信教育

右の期間中男性新入職員は、FMC(フレッシュマンコース)、簿記講座の各通信教育を受けている。

② 女性新入職員

昭和五九年度入職女子職員は、同年四月一日から各店舗の預金係(具体的職務はオペレーター)に配属され、同年八月四日付けの人事発令(但し、それまでは人事部付)がなされるまでの間に、必要な職場内研修を受け(為替係に配属された場合はそれ相当の職場内研修を受ける必要がある。)、かつ端末機操作訓練のため「新職員端末研修会」(二日間)の集合研修を受けた。このことは男性職員が預金係配属中に実施される「新職員端末研修会」に対応するもので、女性職員がその後多くの場合オペレーター業務に配置されるので、男性職員の場合以上に入念に二日間にわたり研修が実施された。

なお、右の期間中女子職員には「新入行員基礎コース」の通信教育が実施された。

(2) 昭和六一年四月以降

被告は新入職員に対し、男女雇用機会均等法九条、これを受けた、同年一月二七日労働省令第二号一条一号に鑑み、昭和六一年四月以降、男性女性の性別で区分する研修を実施せず、大学卒業者(書記二級として入職)、高等学校卒業者(書記三級として入職)に区分してそれぞれ集合研修を実施している。

(三) その他の研修

被告は、以上のほか各種の業務上の必要性を充たすために研修を実施している。

(1) 渉外能力開発講座

被告は、昭和五九年から翌年一一月までの間に六回にわたり非定期的な単発の研修として渉外能力開発講座を実施した。

(2) 証券業務外務担当者研修

証券業務外務担当者研修は、社団法人全国信用金庫協会が主催する証券業務外務担当者研修修了試験を受験する者のための七時間にわたる研修を加盟各金庫が行うこととされるものである。

右研修の実施状況は次のとおりである。

① 昭和五七年度

男性職員は、受講受験を義務づけ、女性職員に対しては希望者を受講・受験させた。

② 昭和五八年ないし六〇年度

男性職員は義務制とし(但し、昭和五七年度に男性職員は全員受講し合格したので、新入男性職員のみ受講し合格した。)、女性職員は希望者を受講・受験させた。

③ 昭和六一年度

新入職員については男性女性を問わず義務制とし、過去年度入職女性職員については希望者とした。

④ 昭和六二年度

男性女性とも義務制として受講・受験させた。

(3) 年金夜間講座

年金夜間講座は、昭和五九年五月一六日に得意先係員全員を対象者として年金の仕組、セールスの方法等の習得を目的として、同日に一回限りで実施された。

(4) 金融法務夜間講座、財務分析夜間講座

金融法務夜間講座及び財務分析夜間講座は、いずれも就業時間修了後の夜間に希望者を募って実施している。

(四) 効果測定

被告は、業務上の必要性を充足するため、個々的な業務分野毎に職務・職能別の研修を実施しているが、これら職務・職能別研修とは別に職員の業務知識を含めた業務遂行能力全般の向上を図るための定期的な研修として「効果測定」を実施している。

右効果測定は、右に述べたとおり職務・職能別の研修とは別個に、全職員の一般的業務遂行能力の向上を図るため昭和五一年度から導入され、今日まで定期的に実施されてきたが、本件和解協定が成立した昭和五五年当時の効果測定は、初級コース、上級コースの二コースに分かれて年四回実施されていた(但し、昭和五六年度のみ年三回)。この当時の店舗在勤者の書記一級の者は、必須科目として担当職務、金融法務、財務分析の三科目、選択科目として融資、得意先、内部事務から一科目を選択することとされており、主事の場合は右の全科目が必須科目とされていた。

昭和五七年度以降は、効果測定を担当職務習熟効果測定(但し、対象者は書記三級から書記一級まで)、資格別知識習得効果測定(但し、対象者は、新入職員を除いた書記三級から無役主事まで)、理解度測定(但し、対象者は新入職員)の三種類に区分した。

もっとも、原告等の所属する従組は、効果測定が団交付議事項である等と主張してこの実施に反対し、従組に所属する原告等従組員は効果測定を受けることを拒否している。

7 原告等の最終学歴、勤怠、人事考課及び昇格試験の結果等

(一) 原告甲野花子

(1) 最終学歴

昭和二八年三月 丁岡市立女子高等学校(商業科)卒業

入職後、戊森大学二部法学部に入学、昭和三七年同校卒業

(2) 能力

珠算 三級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・無断早退・無断欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 一 〇 〇

三年度 一 〇 〇

四年度 〇 〇 〇

五年度 〇 一 〇

③ 懲戒処分の有無

昭和五一年八月一六日 懲戒解雇

昭和五二年一月二五日 地位保全仮処分事件で申請認容

昭和五五年一〇月一五日 本件和解協定による解雇撤回

昭和五五年一二月一〇日 職場復帰

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

生理休暇取得日に婦人集会のビラ配付を手伝い、顛末書を提出した。

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

イ 平成元年ころ、梅屋敷支店において資金方を担当当時、現在二万円の不足を発生させ、規定の報告書を提出した。原因は不明である。

ロ 平成四年ころ、大井支店において資金方を担当当時、現金一万円の過剰金が発生したが、翌日原因が判明し解決した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、三〇年、三五年、四〇年の六回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 D C C C

六〇年度 C C C C

六一年度 D C C C

六二年度 C C C C

六三年度 C C C C

平成元年度 C C C C

二年度 C C C C

三年度 C C C C

四年度 C C C C

五年度 C C

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 一七・八点

業績考課 五・〇点

学科試験 専門知識 二・六点

業務知識 七・四点

論文 七・三点

合計 四〇・一点

(二) 原告乙山松子

(1) 最終学歴

① 昭和三三年三月 都立甲石高等学校卒業

② 同年の女性入職者募集は二回あり、応募者は一次、二次を合わせて約四〇〇名。女性合格者は四〇名。大卒男性の入職者は八名。

(2) 能力

珠算 二級(日本商工会議所)(但し、この点に関し被告は知らないと答弁している)。

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・無断早退・無断欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 三 三 〇

三年度 二 二 〇

四年度 四 二 〇

五年度 二 一 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

イ 昭和六二年、上井草支店の資金方補助業務に従事中、三〇万円余の違算を発生させ始末書を提出した。

ロ 平成二年、不動前支店資金方業務に従事中、五〇〇〇円の違算を発生させ、過不足金報告書を提出した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年、三五年の計六回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 B B B B

六〇年度 B B B B

六一年度 B B B C

六二年度 B C C C

六三年度 B C B B

平年元年度 B C C C

二年度 C C C C

三年度 B C C C

四年度 C C C C

五年度 C C C C

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考果 能力考果 二六・七点

業務考果 六・〇点

学科試験 専門知識 一・八点

業務知識 一〇・八点

論文 七・六点

合計 五二・九点

(三) 原告丙川竹子

(1) 最終学歴

① 昭和三三年三月 都立乙内高等学校卒業

② 同年の女性入職者の募集は二回あり、第一次募集に応募。受験者は約二〇〇名。試験は筆記試験と面接試験で、うち約二〇名が合格した。

二次募集も同様の試験で採用。合計四〇名が合格し入職した。

男性の大学卒では八名が採用された。

(2) 能力

珠算 三級(日本商工会議所)

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

平成二年度から同五年度までの間、遅刻、早退及び欠勤はない。

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

イ 平成四年五月一五日 高輪支店で資金方業務に従事中、一万八〇〇〇円の違算を発生させ過不足金報告書を提出したが、翌日、現金が発見されたので違算が解消した。

ロ 平成六年三月二五日 高輪支店で資金方業務に従事中、六〇〇〇円の違算を発生させ過不足金報告書を提出した。原因は不明である。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年、三五年の六回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 D D D D

六〇年度 D D D D

六一年度 D D D C

六二年度 C C C C

六三年度 C C C D

平成元年度 D C C C

二年度 C C C C

三年度 C C D C

四年度 C C C C

五年度 C C C C

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考果 能力考果 一五・六点

業績考果 四・〇点

学科試験 専門知識 三・〇点

業務知識 一二・一点

論文 九・一点

合計 四三・八点

(四) 原告丁原梅子

(1) 最終学歴

昭和三三年三月、都立丙岡高等学校卒業

同年の女性入職者の募集は一次、二次を合わせて約四〇〇名で、うち女性合格者は四〇名。同じ高校から一〇数人が受験したが、合格者はうち二名。

男性の大学卒は八名が採用された。

(2) 能力

珠算 三級(日本商工会議所)

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 一 〇 〇

三年度 二 〇 〇

四年度 〇 〇 〇

五年度 一 〇 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

イ 昭和五〇年頃、田村町支店(現新橋支店)テラーを担当していた時、一万円の不足金により規定の過不足金報告書を提出した。

ロ 平成三年、荏原町支店資金方を担当していた時、五万円の出納不足金を発生させ規定の過不足金報告書を提出した。

ハ テラー・資金方合わせて一二年間で数回、規定の報告書を提出した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年、三五年の六回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C C C C

六〇年度 C C C C

六一年度 C C C C

六二年度 C C C C

六三年度 C C C C

平成元年度 C C C C

二年度 C C C C

三年度 C C C C

四年度 C C C C

五年度 C C C C

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 五・〇点

学科試験 専門知識 二・八点

業務知識 一〇・六点

論文 一一・六点

合計 五〇・〇点

(五) 原告戊原春子

(1) 最終学歴

昭和三一年三月 東京都江東区立丁森中学校卒業

入職後 東京都立戊村高校(定時制)及び戊森大学二部卒業

(2) 能力

中学校教諭一級普通免許、高等学校教諭二級普通免許

珠算 三級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 一 一 〇

三年度 一 〇 〇

四年度 〇 〇 〇

五年度 一 〇 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

昭和四七年に西小山支店でロビー事務担当中に違算を発生させ出納不足金報告書を提出したが、後日原因が判明し現金は回収された。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年、三五年の六回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C C C C

六〇年度 C B B B

六一年度 C B C C

六二年度 C B B B

六三年度 C B B B

平成元年度 C B B B

二年度 C B C C

三年度 C C C C

四年度 C B B B

五年度 B B B B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 六・二点

学科試験 専門知識 三・〇点

業務知識 一二・一点

論文 一〇・九点

合計 五二・二点

(六) 原告甲田夏子

(1) 最終学歴

昭和三五年三月 私立甲内高等学校卒業

(2) 能力

珠算 三級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

(2) 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 〇 五 〇

三年度 一 三 〇

四年度 〇 〇 〇

五年度 一 〇 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

平成三年一二月一二日、西小山支店の資金方担当当時、オープン出納の機械(機械の使用は資金方だけでなく営業課も使用していた。)の間から三万円の現金が発見されたが、原因は判明しなかった。機械の管理は資金方が担当であったことから規定の過不足金報告書を提出した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年の五回。

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C D D C

六〇年度 C C C C

六一年度 C C C C

六二年度 C C C C

六三年度 C C C C

平成元年度 C C C C

二年度 C C C C

三年度 C C C C

四年度 C B C B

五年度 C B B B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 五・〇点

学科試験 専門知識 四・三点

業務知識 一〇・四点

論文 九・八点

合計 四九・五点

(七) 原告乙野秋子

(1) 最終学歴

昭和三七年三月 私立乙岡高等学校(現私立乙岡女子学院)卒業

(2) 能力

和文タイプ 三級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 一一 四 〇

三年度 五 四 〇

四年度 三 三 〇

五年度 四 一 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

なし

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年、三〇年の五回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C C C C

六〇年度 C C C C

六一年度 C C C C

六二年度 C C C B

六三年度 C B B B

平成元年度 C B B B

二年度 C B B B

三年度 C B B B

四年度 C B B B

五年度 B B B B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 五・〇点

学科試験 専門知識 三・九点

業務知識 一一・三点

論文 一〇・四点

合計 五〇・六点

(八) 原告丙山冬子

(1) 最終学歴

昭和四〇年三月 丙森女子高等学校卒業

第二次の入職試験を受けたが、入職試験は第三次まであった(同じ高校生が第三次で受験した。)。同じ高校からは一〇名以上が受験し、うち同原告を含む六名が合格した。

(2) 能力

証券業務外訪担当者研修終了認定(社団法人全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 一 一 〇(通院のため)

三年度 三 二 〇(〃)

四年度 二 四 〇(〃)

五年度 二 一二 〇(〃)

③ 懲戒処分の有無

昭和四六年三月一日付で寮利用禁止処分を受けた(但し、同原告は懲戒処分を受けたことはない旨答弁している。)。

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

なし

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年の四回。

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 B B B B

六〇年度 B B B B

六一年度 C B B B

六二年度 B C C C

六三年度 C C C C

平成元年度 C C C C

二年度 C C C C

三年度 C C C C

四年度 C C C C

五年度 C C C C

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二四・四点

業績考課 六・二点

学科試験 専門知識 三・〇点

業務知識 一〇・一点

論文 八・〇点

合計 五一・七点

(九) 原告丁川一江

(1) 最終学歴

昭和四一年三月 東京都立丁村商業高等学校卒業

同年度の入職者は大学卒男性一八名、高校卒男性四名、高卒女子五〇名

(2) 能力

珠算 三級(実務検定二級)

簿記 三級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 〇 二 〇

三年度 一 一 〇

四年度 二 三 〇

五年度 一 一 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

梅屋敷支店勤務当時、印鑑の偽造による融資申込印の印鑑照合をしたことについて「顛末書」を提出した。なお、この時には、当座預金の印鑑もその偽造印鑑で払い出されていたため、かなりの人が「穎末書」を提出した。

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

なし

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年の四回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C D D C

六〇年度 C C C C

六一年度 C C C C

六二年度 C C C C

六三年度 C C C C

平成元年度 C C C C

二年度 C C C C

三年度 C B C C

四年度 C C C C

五年度 C C C C

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 五・〇点

学科試験 専門知識 一・九点

業務知識 九・六点

論文 一一・〇点

合計 四七・五点

(一〇) 原告戊原二江

(1) 最終学歴

昭和四一年三月 秋田県立戊石商業高校卒業

高校卒の女性として初の地方採用であった。この年度の入職者は、大学卒一八名(男性のみ)、高校卒男性四名、高校卒女性五〇名。

(2) 能力

珠算 三級

簿記 三級

和文タイプ 四級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 六 三 〇

三年度 一 〇 〇

四年度 一 〇 〇

五年度 三 〇 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

昭和五九年ころ、荏原町支店でテラー担当当時、裏書が連続していない手形を入金した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年の四回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C C C C

六〇年度 C C C C

六一年度 C C C C

六二年度 C C C B

六三年度 B B B C

平成元年度 C C C C

二年度 C C C C

三年度 C C C C

四年度 C C C C

五年度 C C C B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 五・〇点

学科試験 専門知識 二・八点

業務知識 八・三点

論文 一〇・三点

合計 四六・四点

(一一) 原告甲川三江

(1) 最終学歴

昭和四二年三月 都立甲岡商業高等学校卒業

同年の入職者は高校卒男性三名、高校卒女性四六名、大学卒男性一七名の合計六六名であった。

(2) 能力

商業簿記 二級(全国商業高等学校連盟)

珠算 二級(〃   〃)

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

全信協上級実務試験合格(平成二年度)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 二 二 〇

三年度 二 二 〇

四年度 二 五 〇

五年度 二 二 〇

昭和四五年に頸肩腕症候群・背腰痛症で通院をするようになり、昭和四七年に業務上疾病として労災認定されたが、被告から職場復帰を認められず、八年八ケ月間休業した。

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

昭和四三年、不動前支店においてテラー担当時に一万円の違算を二回発生させ過不足金報告書を提出したが、原因は不明。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年の四回。

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C D D D

六〇年度 C D D D

六一年度 C D D D

六二年度 C C C C

六三年度 C C C C

平成元年度 C C C C

二年度 C C B C

三年度 C C C C

四年度 C C C C

五年度 C C B B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度の副参事昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二〇・〇点

業績考課 三・七点

学科試験 専門知識 三・二点

業務知識 九・八点

論文 九・七点

合計 四六・四点

(一二) 原告乙原四江

(1) 最終学歴

昭和四二年三月 都立丁村商業高等学校卒業

同年度の入職者は、高校卒男性三名、高校卒女性四六名、大学卒男性一七名の合計六六名。

(2) 能力

簿記 三級(実務検定)

珠算 二級(日本商工会議所・実務検定)

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 一 一 〇

三年度 〇 〇 〇

四年度 〇 〇 〇

五年度 〇 一 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

昭和五四年一一月、新城支店に勤務中、乙森商事株式会社の通帳を他人に返却してしまい、「今後気をつけていきたい」との文書を提出した。

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

昭和五四年から五八年にかけて新城支店でテラー担当当時、何回か違算を発生させ、過不足金報告書を提出した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年の四回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 B B B B

六〇年度 B B B B

六一年度 B B B B

六二年度 B B B B

六三年度 B B B B

平成元年度 B B B B

二年度 B B C C

三年度 B B B B

四年度 B B B B

五年度 B B B B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度 六三年度 平成元年度

人事考課 能力考課 二六・七点 二六・七点 二六・七点

業績考課 六・七点 六・七点 六・七点

学科試験 専門知識 二・八点 五・三点 八・三点

業務知識 一二・七点 一一・九点 一四・九点

論文 八・四点 一二・五点 一〇・五点

合計 五七・三点 六三・一点 六七・一点

(一三) 原告丙田五江

(1) 最終学歴

昭和四二年三月 丙村学園女子商業高等学校卒業

(2) 能力

珠算 二級(実務検定二級)

簿記 二級

証券業務外訪担当者研修終了認定(全国信用金庫協会主催)

(3) 勤怠関係

① 無断遅刻・早退・欠勤の有無

なし

② 勤務状況

遅刻 早退 欠勤

平成二年度 〇 〇 〇

三年度 〇 〇 〇

四年度 〇 一 〇

五年度 〇 〇 〇

③ 懲戒処分の有無

なし

④ 懲戒処分以外の始末書・顛末書提出の有無

なし

⑤ 出納過不足金報告書提出の有無

尾山台支店において資金方担当当時、一〇万円超の不足金を二回発生させ、規定の不足金報告書を提出した。なお、この他にも過不足金の違算(五〇〇円から一万円の範囲)があり規定の報告書を提出した。

⑥ 表彰

永年勤続表彰 一〇年、一五年、二〇年、二五年の四回

(4) 人事考課

定期昇給 夏期臨給 年末臨給 期末臨給

昭和五九年度 C C C B

六〇年度 B B B B

六一年度 B B B B

六二年度 B B B B

六三年度 B B B C

平成元年度 B C C C

二年度 B C C C

三年度 B B B C

四年度 B C B B

五年度 B B B B

(5) 副参事昇格試験の点数

昭和六二年度昇格試験の点数

人事考課 能力考課 二六・七点

業績考課 六・七点

学科試験 専門知識 二・一点

業務知識 七・九点

論文 一一・八点

合計 五五・二点

8 被告の給与体系及び賃金計算

(一) 新人事制度導入以前(平成二年三月以前)

被告の普通職員の給与体系は、定例給与と諸手当とによって構成されていた。

(1) 定例給与(支給対象期間は毎月一日から当月末日までであり、支給日は当月二〇日である。)

定例給与は、「本給」と「責任加給」等から構成され、右の「本給」はさらに「本人給」と「資格給」によって構成されていた。

① 本人給

本人給は、各年度ごとに各資格別に「普通職員本人給表」が定められている。

仮に昇格した場合(主事、副参事)の初任号俸の決定は次の算式により行われる。(前級における最終三か年の平均考課係数)×(新等級でのみなし在級年数)+一=新等級初任号俸)

その後の昇給については、原則として「人事考課の決定評語」に対応して昇給号俸数が定められている(例えば、Sの場合は六号俸、Bの場合は四号俸、Dの場合は二号俸各昇号する。)。

② 資格給

資格給は、昇格基準に基づき取得した職能資格等級者に対し支給する本給であって、本件争点との関連では、主事は七〇〇〇円、副参事は一万二〇〇〇円である。

③ 責任加給

責任加給は、役付の職員に対しその所属及び責任の種類・程度に応じて支給される定例給与であって、その仕事の実績に応じて変更及び上下する。

本件争点との関連では、主事であっても無役の者には責任加給がなく、主事資格の推進役には三五〇〇円、四九〇〇円、六三〇〇円、七〇〇〇円の四種類の責任加給があり、主事の係長には七〇〇〇円の責任加給がある。副参事のうち認定副参事には七〇〇〇円の責任加給があり、副参事資格の推進役には、八〇〇〇円、一万一二〇〇円、一万四四〇〇円、一万六〇〇〇円の四種類の責任加給がある。副参事で係長、店舗長代理、機械化店舗(出張所)長には一万六〇〇〇円の責任加給がある。

(2) 臨時給与

被告においては、夏期、年末、期末の三回、臨時給与を支給する。その金額は毎年労使の協定によって定められる。その内容は、定率部分と考課部分に分けられている。

定率部分は、各人の本人給と家族手当の合計額を被乗数とし、一定の数値を乗じた金額である。

考課部分は、各人の本人給と資格給の合計額を被乗数とし、人事考課の決定評語に対応する一定の数値を乗じた金額である。

なお、役付者については、さらに責任加給と資格給の合計額を被乗数とし、一定の数値を乗じた金額が付加される。

(二) 新人事制度導入以降(平成二年四月以降)

(1) 移行措置及び新賃金体系

平成元年三月時点での「本人給+資格給+責任加給」の合計額を増減させないで新制度における「基本給+資格手当+(移行手当……移行期間のみ)」に移行させる。

本件争点との関連では、主事であった職員の移行時の資格手当は二万円、移行手当は三万円である。

なお、右の移行手当は、毎年六〇〇〇円ずつ減額するものとし、満五年で移行手当は消滅させる。したがって、新賃金体系においては、従前主事であった職員は、「本人給+資格給+責任加給」の合計額から五万円を控除した額が新たな基本給額となる。

例えば、移行時に副参事であった職員は、資格手当及び移行手当はそれぞれ四万円である。右の移行手当は、毎年八〇〇〇円ずつ減額され、満五年で消滅させる。

(2) 昇給計算方法

右(1)で述べた新たな基本給額を新体系の「基本給規準額表」(移行用)の直近上位の号俸の数値をもって新体系における基本給とする。

「基本給基準額表」は、毎年改訂するのを原則とする。

具体的な昇給額の決定は次のとおり行う。

人事考課の決定評語ごとに昇号数が定められている(SAは四号俸、Bは三号俸、CDは二号俸)。

次いで、右の昇号後の新たな基本給基準額表上の号俸金額から昇給前の基本給額を控除して得た金額(要調整額)に対し労使で協定した一定の数値を乗じた額を調整昇給額とする。

さらに、別途人事考課の決定評語に基づいて決定される普通昇給額を右の調整昇給額と合算した額が具体的な昇給額となる。

(3) 昇格した場合の賃金計算

仮に、係長職の職員が課長職に昇格した場合、右(2)に述べた具体的昇給額の決定の計算を行い、従来の基本給額と二つの昇格額及び係長職としての移行手当(消却後のもの)の合算額を課長職の基本給基準額表上の直近上位の号俸をもって新たな基本給とする。

右に加え、課長職としての移行手当(その時点での消却後のもの)及び課長職の資格手当(四万円)の支給を受ける。

(三) 平成七年四月分以降の賃金計算

(1) 従来の「基本給基準額表」を「基本給支給額表」に改定し、昇給額の決定は、人事考課の決定評語に対応する昇号数を加算した号数の「基本給支給額表」の金額をもって、新たな基本給とすることとした。

(2) 従前の資格手当は資格給と呼称が変更されたが、金額は従来どおりであり、係長職は二万円、課長職は四万円である。

(四) 退職金の計算方法

被告の「退職金支給規程」に基づいて定年による退職金額は次のとおり計算される。

定年による退職金額は、退職当時の退職金算定基礎本給号俸に該当する金額に対し退職者の勤続年数ごとに定められた支給率(退職金支給率表、掛け率及び年金一本化調整率表の各数値)を乗じた金額と特別加算金の合計額となる。

二  争点

1  男女格差の存否

(一) 原告等の主張

(1) 原告等女性職員全員についての男女格差の存在

原告等と同期同給与年齢の男性職員で係長、副参事に最も早く昇格・昇進した職員の年齢及び勤続年数と最も遅く昇格・昇進した職員の年齢及び勤続年数は、それぞれ別表4の(1)のとおりとなり、そして、これをさらにまとめて昇格・昇進の最短及び最長を整理すると、別表4の(2)のとおりとなる。

以上のところから明らかなとおり、まず、男性職員の係長への昇進は、最短の者は勤続一一年(但し高校卒の場合であり、大学卒の場合は七年となる。以下同様。)、年齢二八ないし二九歳であり、最長の者でも勤続一四ないし二〇年、年齢三二ないし三八歳であり、特段の事情によって昇進が遅れた例外を除けば、遅くとも勤続一六年、平均すると勤続一二年から一三年、年齢三〇歳八か月である。

次に、副参事への昇格は、最短の者は勤続一三年から一四年、年齢三一ないし三二歳、最長の者で勤続二〇年から二九年、年齢三八ないし四七歳であり、特段の事情によって昇格が遅れた例外を除けば、遅くとも勤続二三年で、平均すると勤続一七年から一八年、年齢三五歳一か月である。また、係長昇進から副参事昇格までの年数は最短で一年、最長で一五年であり、特段の事情によって昇格が遅れた例外を除けば、遅くとも六ないし七年であって、平均すると四年五か月である。

さらに、店舗長代理へは、副参事昇格後二年が経過すると、特段の事情がない限り、昇進しており、遅くとも勤続二五年である。

原告等の入職した年度ではない昭和三六年、三八年、三九年入職の男性職員の昇格・昇進状況をみても、遅くとも昇格・昇進する勤続年数は同様である。

男性職員は、右のように少なくとも係長、副参事までは全員昇進・昇格しているのに比し、女性職員は、昭和二五年から六三年までの三八年間の延べ在籍者は概算でも二〇〇〇名以上に及ぶが、その間に係長に昇進しているのは僅か九名、副参事に昇格しているのは更に少なく一名(但し、外に三名は本訴提訴後に昇格した。)にすぎない。原告等と同期同給与年齢の男性職員が全員係長に昇進し、全員副参事に昇格した年度と平成五年現在の昇格・昇進状況は別表4の(3)のとおりとなる。

被告は、係長出現率が男性職員二二・九パーセント、女性職員二〇パーセントで男性職員と女性職員との間に格差は存しないと主張しているが、この主張はまやかしである。被告の主張では、昭和六二年度の三三歳以上の人数中「係長」の割合を比較しているが、男性職員は店舗長代理、次長、店舗長に昇進しているのであるから、「係長以上」の人数の割合を出さなければ男性職員と女性職員との間の格差の比較の意味はない。

以上のとおり、被告にあっては昇格・昇進につき、男性職員と女性職員との間に著しい格差が存する。

(2) 原告甲野・乙山・丙川・丁原についての特有の格差の存在

被告は、副参事昇格は昇格試験に合格することが条件であると主張するが、原告甲野・乙山・丙川・丁原は、昇格試験導入時の昭和五三年には同期同給与年齢の男性職員は全員副参事に昇格していたのであるから、同原告等が副参事に昇格するについて昇格試験は関係がない。

(二) 被告の答弁・反論

被告においては「同期同給与年齢」という基準で人事管理を行っておらず、別表4の(1)及び(2)の内容はすべて争う。

そもそも女性職員は勤続年数が短いので、比較することはできないし、係長出現率をみても男性職員二二・九パーセントに対し、女性職員は二〇パーセントであり、ほぼ同じであるから、男性職員と女性職員との間に格差は存しない。

2  男性職員と女性職員との間における格差の存在の原因

(一) 原告等の主張

(1) 男性職員全員についての年功的人事運用

被告は、男性職員の昇格・昇進を全員年功で運用している反面、女性職員をこの運用から排除している。

すなわち、男性職員は一定の年数の経過とともに全員が係長に昇進している。ところが、女性職員については、昭和二五年から六三年までの三八年間に在職していた女性は約二〇〇〇名に達しているのに、このうち係長に昇進したのは僅か九名という極めて例外的事例であった。このようなことから、男性職員については、一定の年数を経過することによって全員が副参事に昇格している反面、女性職員については、副参事昇格から排除されており、本訴提起時の昭和六二年当時の女性職員の副参事在職者は一名だけであった。

ところで、被告は、昇格については昇格試験に合格することが条件であるとしながらも、男性職員については、年功的に見て著しい不均衡が生じた場合とか矛盾が露呈した場合には、昇格試験に合格していないにもかかわらず昇格させてきた。例えば、被告は、昭和六二年一二月、従組員男性職員一四名、労組員男性職員一名合計一五名を昭和五九年一〇月一九日付けをもって昇格試験の合否に関係なく主事から副参事に昇格させた。もっとも、この昇格については、当時、従組員の男性職員について本件和解協定に基づく、いわゆるアフターケアによるものではあったが、このことについては、従組から従組員を年功で昇格させず本件和解協定を守らないのは差別であると指摘され、これに抗し切れずに労組員との差別是正をせざるを得なかったためであった。仮に、被告において、当時、男性職員等について、年功的な運用をしていなかったのであれば、いくらでも弁解できたはずであるのに、被告がこのときに男性職員だけを年功を基礎として是正したのは、そもそも男性職員について年功的昇格・昇進を行っていたからに外ならない。

その他、明らかになっているだけでも四名の男性職員について未受験でも昇格させている事実があり、被告はこれを「抜擢人事」であると説明している。しかし、試験制度を設けながら抜擢人事ということは矛盾である。

また、被告は、昭和五七年の団体交渉において、受験成績が合格点に達しなかった男性職員について「政治的配慮」で昇格させたことを認めている。

能力の点からみても、原告等が求めている資格・職位には特別の能力を要するものではないのであるから、被告は男性職員を年功で昇格・昇進させてきたのであり、不都合もなかったのである。

(2) 意図な女性差別政策

被告は、これまで次の四点にわたる女性差別政策をとりつづけ、このために原告等は男性職員との間で不当な差別を受けてきた。

① 基幹的業務からの排除(職務配置差別)

被告は、原告等女性を各人の能力や適性を考慮することなく被告の基幹的業務である融資受付及び得意先係に配置することをせず、単純反復労務を内容とする担当職務にのみ配置してきた。

このことから、原告等女性は、融資受付及び得意先係に必要な業務知識を得ることができないばかりか、このような基幹的業務を経験していないことが理由となって人事考課査定・係長昇進・副参事昇格試験等の面においてのすべての差別を合理化する手段として利用され、昇格・昇進からも排除され、更には賃金格差を生ずる原因ともなっている。

② 職務配置の差別を通じての研修差別

被告は、研修を重視しており、その研修規程においても、「職場内研修」(O・J・T及び集合研修)が中心に位置づけられ、職務ないし職務配置に連動して多くの研修が実施されている。

したがって、女性職員が融資受付及び得意先係の職務から排除されると、当然それらの分野の研修を受ける機会も与えられない。

また、被告においては、その業務の必要上多数の通達が出されているが、とりわけ融資受付及び得意先係の業務に関しては通達の量が多く、これらの業務に従事していれば、通達を通じて業務知識を身につけることができるが、これらから排除されている女性職員にはその機会がない。

③ 管理職にしないための差別的職務配置

被告は、管理職となるためには被告の基幹的業務である得意先係及び融資受付等一定の職務経験を必要とするという建前をとっており、男性職員については原則としてすべての職務に配置し、例外的にすべての職務に配置することが無理でも融資受付又は得意先係のいずれかには必ず配置するのに対し、女性職員についてはそのいずれにも全く配置していない。このことは、被告には、そもそも女性職員を係長をはじめとする管理職に昇格・昇進させる意思がないからである。

④ 係長への昇進差別

係長に昇進するには昇進試験はなく、被告の裁量による。ところが、係長に昇進することで差別され、無役のままに据えおかれると、その後勤続年数が長期になっても一切の昇格・昇進から排除されるという仕組みになっている。

前述したとおり、男性職員は個々によって多少の相違があるものの、最短で勤続一〇ないし一一年、年齢二八ないし二九歳、最長で勤続一四ないし二〇年、年齢三二ないし三八歳、平均して勤続一二ないし一三年、年齢三〇歳八か月で係長に昇進しているのに比し、原告等女性職員については女性であるという理由のみで全く昇格・昇進から排除されている。

ア 係長昇進差別の仕組み

被告の主張によれば、係長昇進は、部門長や店舗長等上司の進言に基づき、人事部で人格・識見・統率力等を総合的に検討して決定されるというのである。

ところで、新人事制度導入以前である平成二年三月以前の主事に対する人事考課の評定項目は、業務管理能力(目標設定計画能力、組織化能力、問題解決能力、業務遂行能力、判断力、企画力、折衝力)、人事管理能力(伝達能力、部下育成能力、統率力)、執務態度、基本的能力(業務知識、技能)、専門的知識、識見とされる。

しかし、同じ主事でありながら男性職員と女性職員とでは職務配置の差別が行われているため、右の評定項目についても有利不利が生じ、その結果これが人事考課についての男性職員と女性職員との間の差別に不可分に連動している。

右のような評価項目との関係で、男性職員が融資受付や得意先係を含め原則として全ての職務に配置され、その経験の積み重ねの上で仕事をしているのに比して、事務係、融資係のうちでも融資事務や担保・督促という、定型的な仕事しか与えられていない原告等女性職員の評価が低く評定されるのは必至である。そして、係長昇進の要件である上司の進言は、管理職になるためには融資受付や得意先係の経験が必要とされているのであるから、これらの経験のない原告等女性職員を進言することは考えられない。

イ 係長昇進と副参事昇格との関係

昭和五三年一〇月に昇格試験制度が導入されて以降、新人事制度が導入される平成二年四月までの間に昇格試験に合格したとして副参事に昇格した者は一五七名であるが、これら全員が係長である。

副参事への昇格試験は係長でなければ合格しないというのは、被告の職場においては公知の事実であり、実際の試験の内容も係長でなければ合格することができない。

(3) 不公正・不公平な副参事昇格試験

① 不公正・不公平な試験制度及び運用

副参事昇格試験は、係長でない無役の主事(いわゆるヒラ主事)が受験しても合格しない制度となっているばかりか、運用面においても同様であるから、無役の原告等が合格しないのもこのような制度と運用の結果による。すなわち、被告においては、係長であることが副参事昇格試験合格の絶対的条件となっている運用を行っている。

ところが、女性職員は、女性であるが故に不合理な差別的取扱いを受け、年功的運用から排除され、原則として係長に昇進していないのであるから、昇格試験受験の有無及びその結果を問題にするまでもなく副参事には昇格できない仕組みとなっているのであり、このようなことは男女平等の基本的人権を侵害し、人間の尊厳に反する。

② 不公正・不公平な人事考課

副参事昇格試験においては人事考課の占める割合が五〇パーセントとなっていることから、人事考課が昇格試験の合否に決定的な意味をもつ。ところが、係長ではない女性職員は、評定要素、評定者、評定の在り様等あらゆる点からみて、係長である男性職員に比して圧倒的に不利な立場に置かれている。この根本原因は、被告においての女性差別労務政策にある。例えば、副参事昇格試験に合格するためには、人事考課の占める割合が五〇パーセントであることから、人事考課がA以上でなければ合格できない。ところが、被告は、女性職員の人事考課の評定が上がらないように幾重もの差別のからくりをつくり、あるいは放置し、不公正、不公平な評定をなしている。

ア 不公正・不公平な評定要素

評定要素は女性職員にとって明白に不利となっている反面、男性職員に有利となっている。能力考課は、管理者用の評定要素表を使用し、管理者として部下がいることを想定した評定要素となっており、無役の者にとってはそもそも縁のない要素であるから、この評定要素によって評価すれば、係長は圧倒的に優位に立ち、無役の主事は低く査定され圧倒的に劣位に立たざるを得ない。

また、業績考課も評定要素に管理職の立場からのものが含まれており、係長に有利となっている。

したがって、能力考課、業績考課いずれの評定要素も、係長の職務と密接に関連し、係長は非係長に比して圧倒的に有利な立場に置かれている。

イ 不公正・不公平な評定者

主事に対する第一次評定者が、同じく副参事昇格試験を受ける職務にある係長であることはいわばライバル的立場にある者が評定者となるということであり、このことは不公正、不公平な評定がなされることを意味する。

さらに、原告等の評定者は、別表5の(1)及び(2)のとおりであり、従組員に対して過去に暴力をはじめとする人権蹂躙を重ねつづけ、現在においても従組員に一線を画して対抗し攻撃を加えている労組の元幹部であり、公正・公平な人事考課は行われていない。

ウ 不公正な職務配置のもたらす影響

女性職員はいずれも単純・定型的な仕事が中心の職務に配置されているのに比し、男性職員の大部分は職務ローテーションにより順次職務について幅広い能力を身に付けていく。

このように女性職員は、差別的な職務配置により職員としての知識や技能の習得、経験を積む上で圧倒的に不利な状況に置かれており、原告等がどんなに努力しても、得意先係からも融資受付からも排除され、長期間にわたって事務的・定型的な仕事の繰り返しを強いられているので、日常の仕事の中で「問題解決能力」、「企画力」、「折衝力」や基本的能力の部分の融資受付や得意先係の業務知識や専門知識等を習得することは不可能である。

③ 不公正・不公平な論文試験

論文試験の内容は、管理者の立場での回答を求めるものが多く、無役の主事であり、係長でない女性職員にとって明らかに大きな差別要素があり、到底公正・公平とはいえない。

被告の論文試験は、問題が抽象的で採点者の主観により採点が大きく左右されやすく、もともと客観性に乏しい試験である。

また、論文試験内容は管理者としての立場での回答を求めるものが多く、係長の職務と権限そのものあるいはそれに密接な関係のある出題内容となっているから、係長が非係長に比して圧倒的に優位に置かれている。

のみならず、係長は事前に研修を受けている。係長に昇進すれば新任係長研修が行われ、さらに融資係長、事務係長、得意先係長を対象とした研修が行われ、論文試験問題はこの研修内容と密接に関連しているので、係長にとって極めて有利となっている。

④ 不公正・不公平な学科試験

男性職員は、融資係、得意先係、事務係の各係の仕事を通じて学科試験に必要な業務知識を習得するとともに、特に融資受付及び得意先係の仕事をとおして専門知識を習得する。そして、習得した知識を日常の業務で駆使し、能力を伸ばしていくことができる。他方、原告等女性職員は、職務配置の差別によって融資受付及び得意先係の職務に配置されていないので、学科試験の業務知識のうち融資受付及び得意先係の職務に関する問題については不利な立場に立たされるばかりか、専門知識については日常業務で関与していないために知識習得の上で決定的な差が生じるし、知識を習得する機会をも奪われている。

このうえに、被告の研修、通達類の配布は職務配置に連動して行われているので、融資受付及び得意先係に配置されていない原告等女性職員は、それらに関する知識を習得する機会をも奪われていることも前記職務配置を通じての研修差別において述べたとおりである。

また、学科試験の問題のうち、係長の職務(とりわけ融資係長及び得意先係長)に関連する問題が圧倒的に多いうえに、前述の係長研修として新任係長、各職場ごとの係長研修が行われ、学科試験においても係長にとって圧倒的に有利になることはいうまでもない。

なお、これらの職務配置差別、研修差別、係長昇進差別によって受ける女性職員の学科試験の不利益は、事前に配布される範囲の広い項目だけのガイダンスや担当職務の配点のわずかの調整ではいささかも回復しない。

(二) 被告の答弁及び反論

(1) 男性職員全員についての年功的運用について

被告において採用している職能資格制度の下では、当該職員の職務遂行能力を基準として昇格をなしているのであって、年功的要素を基準としていない。もっとも、昇格試験制度導入当初は、書記三級から書記一級までの昇格につき補助的に年功的要素を昇格基準として加味したり、昭和五六年一月から主事への昇格についても昇格試験の合格を原則としつつ給与年齢三三歳主事自動昇格制度を導入したりした。しかし、副参事への昇格については、昇格試験に合格することが要件であり、年功的要素は要件とされていない。したがって、副参事への昇格についていうならば、被告の職員はいかに自己と同期同給与年齢の多くが昇格した場合でも副参事昇格試験に合格しない限り昇格できないのである。

原告等は、いずれも、副参事(課長職)への昇格のために必要とされる昇格試験を受験せず、あるいは受験しても不合格であったために昇格しないのであり、仮に、昇格試験制度を度外視しても、本件にあっては昇格あるいは特定の資格を前提とする昇進をさせないことが不当と評価される特段の事情は存しない。原告等が求めている昇格・昇進に値する職務能力を有しているとの立証はなされていないし、そもそも、「原告等が平均的能力を有することの立証までは不要であって、同期同給与年齢の男性職員のうち最も遅くに昇格・昇進した男性職員より能力が劣っていないことを立証すれば足りる」という原告等の主張は主張自体失当であるし、具体的な個別立証においても原告等が求めている資格及び職位を求めるに必要な立証をなし得ているとはいえない。

被告は、昭和六二年一二月、五九年一〇月一五日付けをもって従組員男性職員一四名、労組員男性職員一名を昇格試験の合否とは関係なく副参事に昇格させたが、このことは、本件和解協定一三条五項に関して従組が昇格を要求したことに端を発したことによるのであり、資格に対応しない特別号俸の受給者を消滅させる処理をしたのであって、同人らが男性職員であるがゆえに昇格させたのではない。

また、被告は、丁石二夫を昭和五六年二月二日付けで副参事から参事に、戊内三夫を六一年一〇月一日付けで参事から副参与に、甲森四夫及び乙村五夫を六三年四月一日付けで副参事から参事にそれぞれ昇格させるという抜擢人事をなしたが、丁石は、五九年一二月に白金支店開設が予定されたことに伴い、その開設準備委員会委員長、支店長として予定され、次長を経験させるためであったし、戊内は、三田支店次長から白金支店長への抜擢であり、同人はその後、西小山支店、新橋支店などの各支店長を経て現在本店営業部長兼理事の職(理事には平成七年五月就任)にあり、甲森は、平成三年五月に被告の理事に選任され、五年五月から常務理事に就き、その後七年一一月に被告の理事長に就任しており、また、乙村は、三年五月に梅屋敷支店長となり、五年五月に被告の理事に選任され、現在融資一部長、融資二部長、管理部長、外国部長を兼務している。

以上の抜擢人事は、被告の有する人事権の行使として、副参事以上の資格者の中から被告が必要とする職務遂行能力を有する職員に対し、昇格試験によらないで上位資格を付与したのであり、この抜擢人事は、副参事資格以上の資格を有する者の中から極めて例外的に行われているのであり、原告等の昇格請求とはそもそも資格を異にし、「抜擢人事」の名称が示すとおり、その対象者が抜群の職務能力を有することからなしているのである。

本件和解協定一三条六項の三名については、昇格試験を受験することを要求されているものの、和解協定成立後三年以内に段階的に副参事資格を付与すべきこととされていた。したがって、右三名の職員は副参事昇格試験を受験して合格点に達しなくとも順次副参事に昇格させることとなっており、その順序は被告の判断に委ねられていたのである。甲村十郎は副参事昇格試験に合格点をとることができなかったが、被告は、同人を昭和五七年四月に副参事に昇格させた。

(2) 意図的な女性差別政策について

① 基幹的業務からの排除(職務配置差別)について

原告等の職務配置を決定する権限を有するのは、各支店の支店長であり、各支店の支店長は、当該店舗に課せられた目標役割を大前提とし、原告等職員各人の能力・適性等を考慮して配置してきた。

② 職務配置の差別を通じての研修差別について

被告における研修が職務ないし職務配置に連動して実施されているとの主張は概ね認めるが、被告における職務配置は前述したとおり適正になされているのであるから、被告が研修差別を行っているとの主張は争う。

③ 管理職にしないための差別的職務配置について

原告の主張する男性職員についてのみローテーションによる職務配置をしているとの点は、事実に反する。被告は、職務ローテーションを採用しようとしたが、実現できなかった。男性職員で融資受付に配置されたことなく課長(店舗長代理)になった職員も多数存する。

④ 係長への昇進差別について

被告は、職員を係長という管理者として適任か否かを人物・識見から総合的に判断して昇進させるべきか否かを決定してきたのであり、男性・女性という性的理由によって決定してきたのではない。

(3) 副参事昇格試験について

① 副参事昇格試験制度及び運用について

係長に就任していることは副参事昇格試験合格の要件となっておらず、このような運用もしていない。能力・識見・統率力等の優れた職員が係長等の役職に就任しているのであるから、これらの職員が副参事昇格試験に合格しているのである。

② 人事考課について

原告等は、係長に就任していない職員は不利である旨主張するが、被告は、主事資格者の職員の中から能力・識見・統率力等の優れた職員を係長等の役職に就任させてきたのであるから、これらの職員の人事考課が相対的に良好となるのはむしろ当然である。原告等の評定結果をみても女性職員であるが故に一律の評定をしているのではなく、各人別にその結果は異なっており、女性職員であることを理由に低い評価がなされているとの主張は根拠がない。

ア 評定要素について

評定要素が女性職員にとって不利であり、男性職員にとって有利であるとか、能力考課、業績考課のいずれの要素も係長が圧倒的に有利な立場にあるとの主張は争う。

イ 評定者について

第一次評定者が係長であることは認めるが、組合の方針が対立することと管理者としての評定者訓練等の結果もふまえたうえでの人事考課とは全く別個独立のことであり、況や現在非組合員である者が不公平な人事考課をすると主張することは全く根拠を欠く。

ウ 職務配置について

原告の「不公正・不公平性」の主張は争う。

運用については、前述したとおり公正・公平に行われている。

人事考課、論文試験及び学科試験についても、前述したとおり、いずれも公正・公平に行われている。

③ 論文試験及び学科試験について

論文試験及び学科試験についても、事案の概要に掲記されているとおり、いずれも公正・公平に行われている。

3  原告等の能力

(一) 原告等の主張

(1) 入職当時の能力

被告の採用試験は、男性女性同一の試験であり、入職当時、女性職員も男性職員も同等の能力を有していた。原告等は、金融機関の採用試験の競争率が極めて高かった当時、採用試験に合格したのであり、いずれも学校時代の成績も優秀であった。このように学校時代の成績が優秀で、男性職員と同じ能力を有していた女性職員が、その後一貫して全体として低く評定されているということは評定それ自体が不公正・不公平であったからというべきである。なぜなら、入職当時の能力は、適正な人事政策が採られていたならばその能力が伸びてゆくのが通常だからである。

(2) その後の勤務実績

原告等は、その後も与えられた仕事を意欲的にまじめに、的確に行ってきており、その仕事ぶりについては、上司も評価し、また顧客も評価している。

また、勤怠状況についても、特段問題とすべき点はない。

以上に対し、被告は、原告等の仕事ぶりについて縷々主張するものの、いずれも悪意に満ちた客観的根拠に乏しい事柄ばかりである。

以上のとおり、原告等はいずれもその求めている職位及び資格に相応しい能力を有している。

(二) 被告の答弁・反論

原告等の主張は争う。

(1) 原告甲野について

原告甲野は、事案の概要に掲記された顛末書及び出納過不足金報告書の各提出以外に、梅屋敷支店で事務係として勤務中の平成二年三月二三日に一〇万円の、同年五月一六日に二万五〇〇〇円の、同年一二月二〇日に一一万四〇〇〇円の各不足金を発生させ、前二者については原因不明に終わった。

(2) 原告乙山について

原告乙山は、前記事案の概要掲記の違算を発生させての始末書の提出及び過不足金報告書の提出の外に、不動前支店で事務課(資金方)として勤務中の平成元年六月一二日と同年一二月六日にも違算を発生させている。

(3) 原告丙川について

原告丙川は、事案の概要に掲記された出納過不足金報告書の提出の外に、高輪支店で事務課に勤務中の平成四年一二月二八日にも一万円の違算を発生させている。

(4) 原告丁原について

原告丁原は、三田支店で融資課勤務中の平成六年四月の昇給考課のフィードバックの際、丙石支店長から、「丁内課長は仕事は平均的と評価している、与えられた仕事はきちんとこなしているが、キャリアとして物足りない」と、その結果平均のCとなった旨告げられている。

(5) 原告戊田について

原告戊田は、大森支店で融資課(事務)として勤務中のフィードバックの際、日常勤務は間違いが少なく安心して任せられるが、自分さえよければという面が見られ全体の業績、業務面への配慮に欠けている旨告げられたことがある。

(6) 原告甲田について

原告甲田は、西小山支店で事務課に勤務中の平成五年の夏期臨給考課のフィードバックの際、事務課長から担当職務についてはとくにミスもなく処理できるようにもなっているが迅速性に欠ける、係長職として要求される職務要件を満たすよう業務に対する積極性、意欲を出して欲しい旨述べられている。

(7) 原告乙野について

原告乙野は、雑色支店で融資課に勤務中の平成五年一二月の年末臨給支給の際、甲島支店長から「長い経験を生かして仕事も早いし、遺漏なくやっていると課長から聞いています、期待しています。」と述べられたが、この際、「チームワークの点では休みが多いため欠ける面があると課長から聞いている」旨告げられている。

(8) 原告丙山について

原告丙山は、西小山支店で融資係(担保)として勤務していた昭和五五年の臨給支給に際し、同支店長乙塚から「日常業務は一応無難に遂行しているが、自己啓発、協調性に欠ける」旨指摘を受けている。

(9) 原告戊原について

原告戊原は、事案の概要に掲記された出納過不足金報告書を提出した外に、尾山台支店で預金係(資金方)として勤務中の昭和五四年五月二九日、五〇四五円の過剰金を発生させ、同年六月二二日に一万〇一〇〇円、同年七月一二日に二万円、同年一一月一〇日に一万円、同月一三日に六万円、同年一二月七日に一万円、五五年三月一五日に一〇万円、同年五月二一日に一〇万円、同年一一月一日に五万円、五七年三月六日に一万円、同年四月二日に二万五〇〇〇円の各不足金をそれぞれ発生させ、日本橋支店で事務課に勤務中の平成三年四月一五日に一四万円の不足金を発生させた。

(10) 原告甲川について

原告甲川は、新城支店で融資課に勤務中の平成四年の臨給支給時に丙沼支店長から「仕事でのミスは特になく処理の速さ、能力という点では経験年数が長いので水準に達していると思うが、日常業務の処理のみに終始しており、係長職という資格を十分理解しておらず不十分な結果であった」と指摘されている。

(11) 原告乙原について

原告乙原は、事案の概要に掲記のとおり、新城支店でテラーとして勤務中、出納過不足金報告書を提出したが、この具体的内容は、昭和五四年四月九日に一万円と同年五月四日に八〇〇円の各過剰金の発生、同年五月七日に五万円、同年七月二日に五〇円、同年八月二日に一万円の各不足金の発生、五五年一月一四日に一〇〇〇円の過剰金の発生、同年五月一四日に四〇万円の不足金の発生、同年九月四日に四万円、五六年五月三〇日に五万円の各過剰金の発生、五七年三月二六日に一〇〇〇円、同年一〇月二九日に一万円の各不足金の発生である。また、原告乙原は、西小山支店で事務係(資金方)として勤務中の平成元年一一月七日に五〇〇〇円、二年三月二三日に四五〇〇円の各過剰金を発生させ、三年五月一三日に四〇〇〇円の不足金を発生させた。

また、原告乙原は、西小山支店勤務当時、戊内支店長から常々「出納事務を正確にやるだけでなく上級事務担当として期待されている仕事をもっとやって欲しい、そういう点が不十分である」旨告げられていた。

(12) 原告丙田について

原告丙田は、事案の概要に掲記されたとおり出納過不足金の報告書を提出しているが、この具体的内容は、西小山支店でテラーとして勤務中の昭和六〇年一一月二日に四〇〇〇円の過剰金を発生させ、六一年七月二八日に五五〇円、六二年二月一七日に一〇〇〇円、同年八月一〇日に一〇〇〇円の各不足金を発生させ、同年一〇月二〇日に一万円、六三年三月一四日に一〇〇〇円の各過剰金を発生させ、尾山台支店でテラーとして勤務中の同六三年六月三〇日に二万円の過剰金を発生させ、同年一二月二六日に二万円、平成元年一月一二日に一万九九〇〇円の各過剰金を発生させ、同月三一日に一万円、二年四月二五日に三〇〇〇円の各過剰金を発生させ、三年三月二六日に一万円の不足金を発生させ、同年九月三〇日に五〇〇〇円、同年一二月一〇日に二〇万円、同月三〇日に三一万円の各過剰金を発生させた。

4  本件和解協定の効力

(一) 被告の主張

本件和解協定においては、原告等の賃金をも含めた資格に関し男性職員の水準に比し低く合意されてはいるが、このことは本件和解協定の締結された昭和五五年一〇月一五日当時の男性職員と女性職員との賃金水準等の諸要素を考慮に入れ、解決金等他の条件とのかね合いのもとに合意されたことによる。

したがって、原告等は、本訴において本件和解協定締結前の男性職員との差別を主張するが、本件和解協定による賃金・資格の位置づけ(格差)は本訴の判断において当然の前提となるのであり、原告等女性職員と他の男性職員との間に格差が存するとしても、このことをもって直ちに男性職員と女性職員との間における差別を意味することにはならない。

なお、原告等は、本件和解協定締結に至るまでの被告との間における紛争(原告等は本件和解協定締結交渉過程で男性職員と女性職員との同一水準の賃金・資格をも求めており、この点も紛争の一つとなっていた。)に関し、本件和解協定を締結することによって協定で定めた事項以外については一切の請求権が消滅したことを確認している。したがって、原告等が現時点になって本件和解協定の合意を無視して男性職員と当然同一資格及び同一賃金であるべきであると主張することは失当であり、また、被告において原告等を男性職員に比して特に有利に処遇することを求めることに等しい。

(二) 原告等の答弁・反論

(1) 本件和解協定の効力

本件和解協定は、解雇された従組員一七名の職場復帰を最優先させるため、性別を理由とした男性職員と女性職員との間に存した差別の是正は今後の問題とすることとし、この旨を条項上も明らかにしたうえで(本件和解協定四〇条)締結されたのであって、本件和解協定は右の男性職員と女性職員との差別を是認するものではないし、そもそも本訴請求は、本件和解協定以前にさかのぼっての金員等を請求しているのではないから、本訴請求は、本件和解協定の趣旨に反しない。

(2) 男性職員と女性職員との差別を是認する協定は無効

仮に、本件和解協定が被告の主張するとおり将来においても性別を理由とした男性職員と女性職員との差別を争わない旨を約したとすれば、これは公の秩序に反するから、本件和解協定中の当該部分は無効である。

5  昇格・昇進確認請求

(一) 確認の利益の有無

(1) 原告等の主張

本件においては、本来認められるべき資格と職位を基礎として、そこから賃金、退職金、年金等長期間かつ他方面にわたる数多くの法律関係が発生している。そのため、原告等にとっては、金銭的給付を求めるだけではその権利ないし法律的地位についての危険と不安を除去することはできない。したがって、これらの多数の法律関係の共通の基礎となっている資格と職位とを確認することは、原告等にとって不可欠であり、有効適切であるから、本件確認請求には確認の利益がある。

(2) 被告の反論

原告等には本件昇格・昇進を求める権利はないから、これの確認の利益もない。

(二) 原告等の副参事又は課長職昇格・係長及び店舗長代理又は課長昇進の時期

(1) 原告等の主張

原告等が、副参事又は課長職に昇格し、係長及び店舗長代理又は課長に昇進した時期は、別表6の(1)記載の「資格・職位目録(一)(主位的請求)」のとおりであり、仮にこれが認められないとしても同表(2)記載「同目録(2)(予備的請求)」のとおりである。

以上のことを詳述すると次のとおりである。

(主位的請求について)

原告等と同期同給与年齢の男性職員の全員(但し、例外的に昇格・昇進が遅れている男性職員が存する場合には全員が昇格・昇進している場合に準じる。)が昇格・昇進した時期に原告等も昇格・昇進すべきであった。

原告等と同期同給与年齢の男性職員の全員が既に昇格・昇進しているのに、女性である原告等が昇格・昇進していないことは女性であることを理由とした差別的取扱いであることは疑う余地がないからである。

以下、各原告につき昇格・昇進が認められるべき時期について述べる。

① 係長昇進

ア 原告甲野・乙山・丙川・丁原・戊田・甲田・乙野・丙山

同原告等がいずれも主事に昇格した昭和五六年四月一日以前に同期同給与年齢の男性職員の全員が係長に昇進していたから、翌年の五七年四月一日に係長に昇進すべきであった。

イ 原告丁川・戊原

同原告等と同期同給与年齢の男性職員の全員が係長に昇進した昭和六一年四月一日に同原告等も係長に昇進すべきであった。

ウ 原告甲川・乙原

同原告等が主事に昇格した昭和五七年四月一日に同期同給与年齢の男性職員一四名のうち一名を除いた一三名が係長に昇進したので、同年月日に男性職員の全員が係長に昇進したと評価すべきである。

そこで、同原告等も右年月日に係長に昇進すべきであったが、本訴においては原告丁川・戊原との均衡上、同原告等と同年月日である六一年四月一日の係長昇進を求める。

エ 原告丙田

同原告と同期同年齢の男性職員二九名のうち二二名(七五パーセント)が係長に昇進した昭和六二年四月一日に男性職員の全員が係長に昇進したと評価すべきであるから、同原告も同年月日に係長に昇進すべきであった。

② 副参事昇格

ア 原告甲野・乙山・丙川・丁原・戊田・甲田

同原告等と同期同給与年齢の男性職員の全員が副参事に昇格した昭和五九年一〇月一五日に同原告等も副参事に昇格すべきであった。

イ 原告乙野

同原告と同期同年齢の男性職員一八名のうち一七名(九四パーセントであるから一〇〇パーセントに準じた場合と評価できる。)が昭和六一年四月一日に副参事に昇格し、残る一名も平成三年四月一日に課長職に昇格した。

同原告も右年月日に課長職に昇格すべきであったところ、同原告より給与年齢が三歳下である原告丙山が平成二年四月一日に課長職に昇格すべきであったので、同原告との均衡上同年月日に課長職に昇格すべきであった。

ウ 原告丙山

同原告と同期同給与年齢の男性職員の全員が副参事に昇格した平成二年四月一日に同原告も課長職に昇格すべきであった。

エ 原告丁川・戊原

同原告等と同期同給与年齢の男性職員の全員が課長職に昇格した平成四年四月一日に同原告等も課長職に昇格すべきであった。

オ 原告甲川・乙原

同原告等と同期同給与年齢の男性職員一三名のうち一二名(九二・三パーセントであるから、一〇〇パーセントに準じた場合と評価すべきである。)が平成二年四月一日に課長職に昇格したので、同原告らも同年月日に課長職に昇格すべきであったが、同原告らよりも給与年齢の上である原告丁川との均衡上平成四年四月一日の課長職昇格を求める。

カ 原告丙田

同原告と同期同給与年齢の男性職員二八名のうち二〇名(七一・四パーセントであるから、一〇〇パーセントに準じた場合と評価すべきである。)が平成四年四月一日に課長職に昇格したので、同原告も同年月日に課長職に昇格すべきであった。

③ 店舗長代理又は課長

原告等が副参事又は課長職に昇格すべきであった時期に同期同給与年齢の男性職員の全員(又は評価の上で全員)が店舗長代理又は課長に昇進したので、原告等も同様に昇進すべきであった。しかし、被告は認定副参事制度を設けて二年間は従前の職位のまま据え置いているので、これを前提として二年経過後に店舗長代理又は課長に昇進したことを求める。

(予備的請求)

原告等と同期同給与年齢の男性職員の全員(あるいは評価の上での全員)が昇格・昇進し、かつその後原告等が昇格試験を受けたことを前提として(要件として)その翌年の四月一日に昇格・昇進したものとして請求する。

昇格試験制度はその内容においても運用においても破壊しているので、このような試験制度は原告等の求めている昇格・昇進とは無関係であるが、予備的に原告等が副参事昇格試験を受験した年の翌年の四月一日の昇格を求める。

もっとも、原告等のうち原告甲田・戊田以外はすべて右の主位的請求において主張した副参事又は課長職昇格時期の前年度の昇格試験を受験しているので、主位的請求と異なる時期を主張するのは右原告二名のみである。原告甲田が昇格試験を受験したのは昭和六一年、戊田が昇格試験を受験したのは昭和六二年であるから、予備的請求においてはそれぞれその翌年の四月一日に副参事に昇格したこと及びそれぞれその二年経過後に店舗長代理に昇進したことを求める。

(2) 被告の答弁・主張

原告等には本件昇格・昇進を求める権利はないし、また、そのような昇格・昇進もしていない。

(三) 昇格・昇進確認請求権の法的根拠

(1) 原告等の主張

原告等は、本件昇格・昇進請求権の法的根拠を次の①ないし⑤のとおり主張している。

なお、原告等は、本件昇格・昇進請求を債務不履行すなわち、被告には本件昇格・昇進をなすべき履行上の債務が存すると主張しているが、この債務の発生原因として右①ないし⑤と同旨の主張をしているので、原告等の主張する債務不履行に基づく本件昇格・昇進請求権を独立の主張として構成しない。

① 公序に基づく請求

ア 国際人権法の適用

女性労働者の昇格・昇進等の労働条件の平等取扱いは、基本的人権であり、その権利性は極めて高い。それは世界人権宣言をはじめとして国際連合や専門機関が採択した国際条約や決議、宣言及び勧告によって裏付けられている。これらの国際人権法は、我が国の裁判所において司法的判断をする場合に尊重されるべきである。とりわけ、日本が批准している昭和四一年一二月一六日第二一回国連総会採択にかかる国際人権規約(昭和五四年八月四日条約第七号/市民的及び政治的権利に関する国際条約)、ILO一〇〇号「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」及び女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約はいずれもいわゆる自動執行力を有する(セルフ・エクセキューティング)から、明白に法規として直接適用される。女性労働者の昇進(昇格を含む。)における男性との取扱いの平等を規定しているこれらの条約は、国際的に確立した公序・法規範として国内においても遵守されなければならず、私人間に直接適用される。

イ 憲法一四条、労基法三条、四条及び民法九〇条

憲法一四条は、法の下の平等を定め、憲法二七条二項を受けて制定された労基法三条は、国籍、信条、社会的身分を理由とする労働条件の差別的取扱いを禁止し、同法四条は、女子であることを理由とする賃金の差別的取扱いを禁止している。もっとも、同法等は賃金以外の労働条件について性別による差別的取扱いを明文をもって禁止していないが、このことは女性労働者については母性保護及び実質的平等の確保という観点から、労働時間、産前産後休暇等につき特別の規定が設けられているからであり、性別を理由とする不合理な差別的取扱いを認容する趣旨ではない。すなわち、労基法は、労働条件について性別を理由とする合理的な差別を許容する一方、憲法の男女平等の根本原理から性別を理由とする合理性を欠く差別を禁止している。そしてこの禁止は、民法一条の二の解釈原理にも支えられて民法九〇条の公序として確立している。

ウ 二重の公序違反と司法的救済

以上のことは男女雇用機会均等法及び我が国が批准した「女子に対するあらゆる形態の差別に関する条約」によって一層明確となった。そうすると、原告等は、少なくとも主位的請求一で求めているとおりの地位になければならなかったのに、被告が、原告等を女性であることのみを理由として係長昇進、副参事昇格、店舗長代理昇進で差別し、無役の主事に止め置いていることは、以上に述べた国際的ならびに国内的公序に違反した措置である。

昇進・昇格における女性労働者の男性との平等取扱いの原則は、国際的にも国内的にも確立した強い公序であり、それに対する違反については公序に即した権利関係の回復が認められるべきである。本件のような明白重大な差別にあっては、民事訴訟法上の即時確定の利益は顕著である。したがって、被告は、少なくとも原告等と同期同給与年齢の男性が一〇〇パーセントあるいはこれに近い比率で係長に昇進し、副参事に昇格し、店舗長代理に昇進した時期に、原告等をそれぞれ同様の資格に昇格させ、職位に昇進させるべきであった。

② 労働契約

被告は、職員の処遇につき、前述したとおり、職務成績について昇格・昇進の妨げとなるべき特段の事情がなく、健康状態について昇格・昇進後の職務に耐えられないような特段の障害がない場合には、勤続一六年で係長に昇進し、勤続二三年で副参事(課長職)に昇格し、勤続二五年で店舗長代理(課長)に昇進するという運用をなしており、この運用は原告等と被告との間の明示又は黙示の労働契約の内容となっている。原告等は、いずれも以上を充たしている。

原告等が本訴で求めている昇格・昇進は、男性全員が昇格・昇進した時期に原告等も昇格・昇進したとしての請求であり、この請求が認容されたとしても、被告には何ら不利益を課すことにはならない。

③ 就業規則三条

就業規則三条は、「職員は、人種、思想、宗教、政治的信条、門地、性別または社会的身分等を理由として、労働条件について差別的取扱いを受けることはない。」と定めており、右の労働条件には、配置、賃金、昇格・昇進等のすべての労働条件が含まれる。

このように就業規則三条は、被告の職員に対する差別的取扱いを禁止しているのであるから、原告等は被告に対し、就業規則三条に基づき(または、就業規則が労働者と使用者との契約内容となって労働契約関係を規律するとの契約説の立場に立った場合には同条と同内容の労働契約に基づき)、本件のような原告等に対する女性職員であることを理由とした昇格・昇進差別についての是正措置をなす義務があり、原告等は被告に対し、右是正措置を求める権利がある。

④ 就業規則三条及び労基法九三条

被告は、原告等を女性であるというだけの理由で、同期同給与年齢の男性と比較して、係長昇進、副参事昇格、店舗長代理昇進から排除してきた。このことは、明らかに就業規則三条に違反した差別的取扱いであり、この差別的取扱いを内容とする労働契約は、その部分につき無効である。

このように就業規則三条は、被告の職員に対する差別的取扱いを禁止しているのであるから、原告等は被告に対し、就業規則三条に基づき、又は就業規則が労働者と使用者との契約内容となって労働契約関係を規律するとの契約説の立場に立った場合には同条と同内容の労働契約に基づき、本件のような原告等に対する女性であることを理由とした昇格・昇進差別についての是正措置をなす義務、反面、原告等の被告に対する右是正措置を求める権利がある。

労基法九三条により無効となった場合は、同条は「無効となった部分は就業規則で定める基準による。」と明記している。つまり、男性と平等な昇格・昇進をしたものとして取扱われるというのがこの法理に外ならない。

したがって、原告等が女性であるというだけの理由で昇格・昇進させなかったことは無効であり、性的差別のない労働条件、すなわち、原告等を少なくとも原告等と同期同給与年齢の男性が一〇〇パーセントか、あるいはこれに近い比率で係長に昇進し、副参事に昇格した時期に原告等をそれぞれ同様の資格に昇格、あるいは同様の職位に昇進したものとして取扱われるべきであり、それに基づく現在の地位が確認されるべきである。

⑤ 労基法一三条

被告は原告等に対し、女性職員であるということのみを理由にして差別している。被告は、原告等を同期同給与年齢の男性職員と同様に処遇しなければならず、これを下回る処遇は労基法一三条により無効となり、同法四条、一三条の類推適用により、性差別のない基準、つまり男性職員について定められたものと同一となる。

したがって、原告等は被告に対し、労基法一三条により、男性職員と同様に昇格・昇進したものとしての地位の確認を請求する権利がある。

(2) 被告の答弁・反論

原告等の主張するような昇格・昇進請求権なる権利は認められない。そもそも労働者は使用者に対し、昇格・昇進請求を有しないからである。

客観的要件を満たせば当然に昇格・昇進することが就業規則等で明示されている場合を除いて、使用者による評価と判断を内容とした評定の結果を基にして使用者自身が決定する昇格の場合は、昇格請求権なるものを認めることはできない。また、昇進に関しても、労働者の管理職としての能力適性を総合的に評価して行われる使用者の裁量的な判断であり、企業業績を左右する重要な決定であるから、特定労働者の特定管理職への昇進を使用者に強制するための昇進請求権は認められない。

以下、被告の制度をふまえて説明すると、次のとおりである。

① 昇格(資格付与)

被告は、職員の昇格について、昇格試験制度を導入し、本件で争点となっている主事から副参事への昇格(但し、新人事制度導入後の平成二年四月以降は係長職から課長職への昇格)については昇格試験に合格することを昇格の要件としている。

なお、昇格試験の合格を要件とするといっても、合格者の範囲(すなわち、合格最低点の決定)は被告が決定せざるを得ないから、少なくとも昇格につき被告の具体的意思表示(昇格の辞令交付がこれに当たる。)が必要であることについては、昇格試験制度を導入していない企業と何ら変わるところはない。

原告等の求めている本件昇格確認請求は被告の原告等に対する昇格の意思表示を前提とするのであるから、この意思表示の存しない本件にあっては、本件昇格確認請求部分は失当である。

② 昇進(職位付与)

職員の昇進(職位の付与)については、被告が一定の資格を有する職員の中から被告の判断において組織上の役職に職員を充てることであって、これまた被告の具体的な意思表示(昇進の辞令交付がこれに当たる。)が必要である。

しかるに、本件にあっては、被告は原告等に対し本件職位を命ずる旨の意思表示を何らしていないのであるから、本件職位確認請求部分も失当である。

6  差額賃金請求権の存否―昇格・昇進が認められた場合

(一) 差額賃金請求権の存否

(1) 原告等の主張

原告等は、前述したとおり、別表6の(1)(予備的に同(2))記載の年月日に副参事又は課長職に昇格し、係長及び店舗長代理又は課長に昇進した。

そうすると、原告等の実際に支給を受けた賃金と支給されるべき賃金及び差額賃金は別表「賃金支給実態と仮定賃金計算との対比」記載のとおりとなる。

右計算方法は、前記争いのない事実に基づき次のとおりとした。

① 新人事制度導入まで

ア 昇給について

原告等は、既に主張したとおり、被告から女性であることを理由とした不当な差別的取扱いを受け、組合分裂後は組合間差別をも受けることによって、人事考課についても二重に不当な評定を受けてきた。原告等は、被告が公正な評定をしたならば、本来AないしSの評定がなされるべき能力を有し、また良好な勤務状況にあったが、本件訴訟においては、人事考課における決定評語を平均的な「B」、すなわち「昇給号俸数」を4とした昇給金額を請求することとする。

したがって、各原告とも昇給後一年毎に四号俸ずつ昇給することになる。

イ 責任加給

責任加給は、「責任加給表」によれば、副参事で店舗長代理ないし係長の職位にある者は、いずれも一万六〇〇〇円が支給される。しかし、被告は、規定には存しない「認定副参事制度」を導入し、副参事昇格後最低二年間は「認定副参事」として遇し、店舗長代理に昇進するまでは責任加給として七〇〇〇円のみを支給する運用をしている。原告等は、かかる認定副参事制度を許容するものではないが、あえてこれを前提として責任加給の金額を算定する。

ウ 臨時給与(賞与)

原告等は、前述の理由からここでも人事考課における決定評語を「B」として算定した。

② 新人事制度導入以降

新人事制度の導入に伴って賃金体系も変更されたが、原告等はここでも人事考課における決定評語を「B」として算定した。

そうすると、原告等の求めている課長職の場合は、移行時における資格手当は四万円、移行手当は四万円である。

③ 平成七年四月分以降の賃金

平成七年四月分以降の賃金は、原告等の所属する従組と被告とが平成七年四月一八日に締結した「人事諸制度の改訂にともなう給与等に関する協定」(以下「新協定」という。)によって、計算方法が変更させれた。変更後の計算方法は以下のとおりである。

ア 従来の「基本給基準額表」を「基本給支給額表」に改定する。

これに伴い、従来の「調整昇給」「普通昇給」の加算はすべて廃止され、基本給についてはこの「基本給支給額表」の金額がそのまま支給されることとなった。

イ 改訂後の各人の資格に応じた基本給の支給額と号俸(移行用)は、新協定添付の「資格別基本給支給額表(移行用)」のとおりとする。但し、この表の適用においては、それぞれの資格に応じて、従前の基本給額の直近上位に該当する金額及び当該金額の号俸が新たな号俸と基本給額とされる。

ウ そのうえで、実際に支給される平成七年四月以降の賃金については、従組と被告が平成七年四月二八日に締結した「平成七年度給与改定に関する協定」(以下「七年度賃上げ協定」という。)によって賃金の引上げが協定されたので、これによって新賃金が算出される。

平成七年四月の昇給にあたっては、新協定添付の「資格別昇号基準」に従い、原告等については、人事考課における決定評語が「B」とされるべきであり、いずれも三号の昇号となるので、右イに述べた号俸に三号を加算した号俸に基づき、七年度賃上げ協定添付の「資格別基本給支給額表(平成七年度)」によって基本給額が決定される。

エ 従来の「資格手当」は、新協定によって「資格給」と呼称が変更されたが、金額は新協定添付の表のとおり変化はなく、原告等の求めている課長職については四万円である。

④ 差額退職金―原告甲野

原告甲野は、在職中女性であることを理由とした不当な差別を受け、このため、退職金においても本来支給されるべき退職金と実際に支給を受けた退職金との間に差額が生じている。

右協定によって原告甲野が実際に支給を受けた退職金額は、一四五七万八五〇〇円(算式は、退職金額算定基礎本給×勤続年数に伴う支給率×掛率×調整率+特別加算金、二一万三四一五円×五一・〇×一×一・二〇一六+一五〇万〇〇〇円=一四五七万八五〇〇円)であるが、同原告は、昭和五九年一〇月一五日に副参事に昇格し、その後の人事考課における決定評語も「B」であったから、退職金額は、一六五〇万四〇〇〇円(算式は、退職金額算定基礎本給×勤続年数に伴う支給率×掛率×調整率+特別加算金、二三万六六七五円×五一・〇×一×一・二〇一六+二〇〇万〇〇〇円=一六五〇万四〇〇〇円)となる。

そこで、右の差額は一九二万五五〇〇円となる。

(2) 被告の答弁・反論

原告等は、いずれも副参事又は課長職に昇格していないし、係長及び店舗長代理又は課長に昇進していないのであるから、この昇格又は昇進を前提とした差額賃金請求権は発生していない。

① 新人事制度導入まで

ア 昇給について

否認する。

原告等の人事考課における決定評語は「B」ではないから、これを前提とした賃金計算は根拠を欠く。

イ 責任加給について

争わない。

ウ 臨時給与(賞与)について

原告等の人事考課における決定評語は、「B」ではないから、これを前提とした臨時給与(賞与)の算定はその根拠を欠く。

② 新人事制度導入以降

原告等の人事考課における決定評語は「B」ではないから、これを前提とした算定はその根拠を欠く。原告等は主事であるから、移行時の資格手当は二万円、移行手当は三万円である。

③ 平成七年四月分以降の賃金について

ウのうち、原告等の人事考課における決定評語が全員「B」とされるべきであるとの点は争う。

④ 差額退職金―原告甲野について

原告甲野が在職中女性であることを理由とした不当な差別を受けたことは否認する。人事考課における決定評語が「B」であるべきこと、原告甲野が昇格すべきであったことは争う。原告甲野が支給を受けた退職金は、その算式を含めて認める。

(二) 消滅時効の成否

(1) 被告の主張

仮に、原告等の主張する差額賃金請求権が存するとしても、本訴提起の二年以前の部分、すなわち、昭和六〇年五月二〇日支給の賃金を含めそれ以前に支給日が到来した賃金請求については、労基法一一五条により時効により消滅している。被告は右時効を援用する。

(2) 原告等の答弁・主張

① 被告は、原告等が女性職員であることを理由に長年にわたり不当な差別をしてきた。

原告等は、少なくとも同期同給与年齢の男性職員が係長に昇進した時期以降一貫して差別を受けてきたのであり、賃金差額は明白に拡大してきた。現在の差別状況は、こうした被告の差別意思による一連の行為に基づくものであって、その行為は継続した行為である。

したがって、差別が提訴時まで一貫して継続していたのであるから、消滅時効は進行しない。

② 仮に、原告等の請求権について、時効が進行しているとしても、これについて被告が時効を主張することは権利の濫用に該当し、許されない。

すなわち、被告は、長年にわたって原告等を差別し、その差別は研修から職務配置、そして、昇格・昇進に及ぶ構造的・徹底的なものであり、しかも試験制度を悪用して差別を糊塗しようとする巧妙・悪質なものであった。しかも、原告等は、従組に対する組合差別の対象とされていたから、原告等の受けてきた差別は、二重のものであった。このような状況の中で、原告等はやっと本訴を提起し、ここまできたのである。

また、原告等は、差額賃金債権を行使しないできたのではない。原告等は、被告の不当な差別を明らかにし、立証することができて初めて差額賃金を請求することのできる困難な地位にあったことが重視されるべきである。

被告は、まさにこのような差別を行ってきた張本人である。この差別は、明確な差別意思に基づく意図的なものであった。このような差別を行い、その結果として差額賃金の支払義務を負うに至った被告が、自らの責任を棚に挙げて消滅時効を援用することは、著しく正義に反するものであって、権利の濫用として許されない。

7  損害賠償請求権の存否

(一) 慰謝料請求権の存否

(1) 原告等の主張

原告等は、前述したとおり、女性であることを理由に長年にわたり不当な差別を受けてきたために、本件昇格・昇進確認請求が認容され、差額賃金が支払われたとしても、被告の原告等に対してなした女性であることだけを理由としての明らかな人権侵害によって、回復されない精神的苦痛を被ってきた。

右精神的苦痛を慰謝するためには、別表2の(1)「請求金額一覧表(一)(主位的請求)」記載又は同表(2)「請求金額一覧表(二)(予備的請求)」記載の各「慰謝料」欄の額を下らない。

(2) 被告の答弁・主張

原告等の主張は全部争う。

(二) 弁護士費用請求権の存否

(1) 原告等の主張

原告等は、その権利の回復のために本件を提訴せざるを得なかったが、弁護士を訴訟代理人として本件訴訟を追行せざるを得なかったことは本件訴訟の全過程に照らして明白である。そして、こうした事態を招いた責任はすべて被告にある。

よって、原告等は、別表2の(1)「請求金額一覧表(一)(主位的請求)」記載の「弁護士費用」欄の額又は同表(2)「請求金額一覧表(二)(予備的請求)」記載の「弁護士費用」欄の額の支払いを求める。

右金額はいずれも各別表「差額賃金合計」、「退職金差額」及び「慰藉料」欄記載の額の合計額の一割に相当する金額である。

(2) 被告の答弁・主張

原告等の主張は全部争う。

(三) 不法行為(昇格・昇進が認められなかった場合)

(1) 不法行為の成否

① 原告等の主張

被告の原告等に対する本件昇格・昇進等処遇上の差別は、原告等が女性であることを理由としたのであるから、前述した国際的条理及び条約によって確立した国際的公序に反し、憲法一四条、労基法三条、四条に違反し、民法九〇条の「公序良俗」に反する違法な行為であり、また就業規則三条に違反した行為である。

被告は、原告等を女性であるというのみの理由で係長、店舗長代理に昇進させず、副参事(課長職)に昇格させず、このことを認識しながら原告等の権利を侵害した。

本件のような女性差別事件について不法行為が成立するための故意は、害意や悪意までは必要ではなく、原告等を女性であるということをもって係長昇進・副参事(課長職)昇格・店舗長代理(課長)昇進の各措置をとらなかったことを認識しながらその権利を侵害したことで足りると解すべきである。被告には害意や悪意の存在すら十分に認定できるところであり、既に述べたような意味での故意の存在は明白である。

また、仮に、女性を差別することについての認識が被告になかったとしても、原告等に対して、職務についての差別的配置、係長昇進についての差別的排除、人事考課のうえでの差別、論文及び学科試験の試験問題における差別、これらによる副参事昇格試験における非係長女性の絶対的少なさという差別、こうした差別の累積による店舗長代理への絶対的不能という差別を放置し、女性職員が労働条件において平等に取り扱われるという権利を侵害することを知り得べきであったのに、これを知らなかったことについて過失がある。

したがって、被告は、故意又は過失により本件女性差別を惹起したものであるから、被告の行為は不法行為を構成し、被告には本件女性差別により原告等に発生した差額賃金相当額の損害を賠償すべき義務がある。

② 被告の答弁・主張

原告等の右主張は否認ないし争う。

(2) 損害について

① 原告等の主張

ア 差額賃金相当額の損害

原告等には、差額賃金に相当する損害が生じたから、仮に本件昇格・昇進が認められない場合でも、被告は原告等に対し、右差額賃金相当額の損害を賠償すべき義務がある。

イ 精神的損害(慰藉料請求)

前述したとおりである。

ウ 弁護士費用

前述したとおりである。

② 被告の答弁・反論

原告等の右各主張はいずれも否認ないし争う。

(3) 消滅時効の成否

① 被告の主張

不法行為に基づく損害賠償請求に関しては、本件提訴からさかのぼる三年以前の部分は消滅時効により消滅している。被告は右時効を援用する。

② 原告等の主張

差額賃金の項で述べたと同様である。

第三争点に対する判断

一  原告等女性職員と同期同給与年齢の男性職員との間での昇格・昇進面における格差の存否

1  格差の存否の比較方法

(一) はじめに

原告等女性職員と同期同給与年齢の男性職員との間での昇格・昇進面における処遇上の格差の存否問題は、社会的・経済的状況等を背景とした被告の人事政策との関連で職員の入職年・勤続年数・能力・担当職務等と密接不可分に関連する事柄であるから、いかなる比較対象と比較基準とを設定するかによって大きく左右されることとなるばかりか、さらに複雑困難にしているのは、原告等の被告に入職して以降今日に至るまでの長期間に及ぶ被告の人事政策そのものの在り様が検討課題となっており、しかもこの間には日本においては男女雇用機会均等法の施行、世界的には国際連合及び専門機関が採択した男女の権利の平等を促進するための決議・宣言及び勧告がなされたり、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約等の締結がなされたりして女性労働に対する価値観の変遷があり、このような背景の下で発生したとされる問題であるだけになお一層の緻密な分析が必要とされることは否定できない。

以上に加え、本件にあっての争点を複雑にしているのは原告等がいずれも従組所属の組合員であるという点である(従組執行委員長乙石一夫は、女性差別の背景には性的理由の外に従組所属の組合員であるという組合間差別問題がある旨を証言で指摘している。)。原告等の主張自体にも従組と労組との対立関係を背景とした組合間差別問題が含まれているので、この点についても必要な限りで検討を加えなければならない。

しかし、本訴の中心的争点は男性職員と女性職員との間に性的差別を理由とした昇格・昇進といった処遇面においての差別的取扱いが存するか否か、仮にこれが存した場合の救済方法如何にあるので、専らこの点を中心に検討をすることとする。

そこで、次のような比較対象と比較基準とを選択して争点となっている原告等と同期同給与年齢の男性職員との間を中心にし、さらに可能な限り原告等をも含めた女性職員と男性職員全体との間での昇格・昇進面における格差の存否を検討してみることとする。

(二) 格差の存否の比較対象

格差の存否の比較対象は、第一次的には原告等と同期同給与年齢の男性職員であるが、可能な限りで男性職員全体となるべきところ、原告等が所属している従組から労組が脱退結成されて以降、被告と従組との間には絶えず不当労働行為をめぐっての争いが存し、本件和解協定締結によって一時的には改善の徴候が見られたかのようであったが、その後も今日に至るまで被告の従組に対する対応には労組に対するそれと比較して著しい相違があることは後記認定するとおりであり、現に被告と従組との間には施設利用、従組員の男性職員の昇格・昇進等を巡っての不当労働行為の有無についての争いが当裁判所に係属(平成四年(行ウ)第二三八号不当労働行為救済命令取消請求事件)し、この決着をみていない状況にあり、本訴は、右不当労働行為の有無を背景としながら専ら男性・女性といった性的理由による差別的取扱いの存否と是非とを中心的争点とした訴訟事件であるところから、不当労働行為の有無と微妙に関連してくることは否定できない。このようなことから、本訴においては、男性職員のうちから従組員の男性職員を原則として除外して検討することとする。

(三) 格差の存否の比較基準

性的理由による男性職員と女性職員との昇格・昇進面における格差をいかなる基準で比較するかは極めて困難である。

原告等は、格差の存否の比較基準を同期同給与年齢によって根拠付けており、被告は、同期でも学歴差、入職年齢差等が存するので、同期同給与年齢といった観点での比較は困難であり、このようなことから、被告にあっては人事政策上給与年齢のみで処遇をしている旨主張し、被告の元及び現人事担当責任者も同旨及び中途採用者がいるので同期同給与年齢といった観点での比較はできない旨の証言をしている(証人丁丘六夫、同戊崎七夫の各証言、以下、証人丁丘六夫の証言を「丁丘証言」、証人戊崎七夫の証言を「戊崎証言」という。)。

そうすると、原告等の主張する同期同給与年齢の観点からの格差比較基準は被告の人事政策上の処遇の在り方とは異なった観点に立っているので、基準としては無理があるといわなければならないが、外にこれに代わるべきより良い基準を見出すこともできないので、この基準に右のような正確性に欠けるところのあることを認識した上で、取り合えず同期同給与年齢といった観点から検討することとする。

2  格差比較の実益

格差存否を確定する目的は、男性職員と女性職員との間に昇格・昇進といった処遇面において格差が存するか否か、存するとした場合のこの原因が原告等の主張するとおり男性・女性といった性的理由によったのか否かを確定し、これが肯定されたとした場合の救済方法が原告等の求めている方法で可能か否かにある。

3  格差の存否の比較資料等

格差存否の判断を主に次のような資料のもとで次のような観点からなすこととする。

(一) 年齢別人員構成

被告職員の昭和四四年度ないし四八年度、五一年度、五三年度ないし五七年度における年齢別人員構成は別表7の(1)ないし(11)「年齢別等級別男女別人員構成表」記載のとおりである。

(二) 男女別構成比

被告職員の昭和五六年度ないし六一年度の男女別構成比は、五六年度(但し、五七年一月二〇日現在)は九六五名のうち男性職員六三八名(六六・一パーセント)、女性職員三二七名(三三・九パーセント)、五七年度(但し、五七年一〇月三一日現在)一〇〇六名のうち男性職員六四四名(六四・〇パーセント)、女性職員三六二名(三六・〇パーセント)、五八年度(但し、同年一〇月三一日現在)一〇二五名のうち男性職員六四〇名(六二・四パーセント)、女性職員三八五名(三七・六パーセント)、五九年度(但し、六〇年一月二〇日現在)九七六名のうち男性職員六三五名(六五・一パーセント)、女性職員三四一名(三四・九パーセント)、六〇年度(但し、六一年一月二〇日現在)九三四名のうち男性職員六三四名(六七・九パーセント)、女性職員三〇〇名(三二・一パーセント)、六一年度(但し、六二年一月二〇日現在)九〇四名のうち男性職員六二八名(六九・五パーセント)、女性職員二七六名(三〇・五パーセント)である。

右のとおり、被告職員の右の間の男女別構成比は男性職員二に対し女性職員ほぼ一の割合となって推移している。

(三) 平均勤続年数

被告職員の昭和五〇年度ないし平成四年度の平均勤続年数は別表8「平均勤続年数表」記載のとおりである。

右事実から明らかなとおり、原告等従組所属の女性職員の平均勤続年数は男性職員の平均勤続年数より遥に長いが、原告等をも含めた全職員の女性職員の平均勤続年数は昭和五〇年度ないし五二年度で約三年(但し、従組所属の女性職員は三年ないし四年)、五三年度ないし五九年度で約四年(但し、従組所属の女性職員は一五年から二二年と年々長くなっている。)、六〇年度で約六年(但し従組所属の女性職員は約二三年)、六二年度で七年一〇月(但し、従組所属の女性職員は約二五年)、六三年度で約八年(但し、従組所属の女性職員は約二六年)、平成二年ないし四年度で約九年強(但し、従組所属の女性職員は約二八年から三〇年と年々長くなっている。)となっているものの、徐々に長くなっている傾向にあり、男性職員の平均勤続年数は、昭和五〇年度ないし五五年度で約九年ないし一〇年、五六年ないし五九年度で一一年ないし一三年、六一年度と六二年度で約一五年強、六三年度ないし平成二年度で約一七年強、三年度と四年度で一八年強と女性職員と同様に徐々に長くなっている。もっとも、昭和五〇年度と平成四年度の平均勤続年数を比較してみると、女性職員は約三倍になっているのに対し、男性職員は約二倍であって、女性職員の平均勤続年数の長期化傾向は男性職員のそれに比し著しい。

(四) 勤続一三年、一六年以上の女性職員の数

被告の女性職員の昭和五三年度から平成五年度までの三一歳(勤続一三年)、三四歳(勤続一六年)以上の女性職員の数は別表9の「昭和四三年から平成五年までの三一歳(勤続一三年)、三四歳(勤続一六年)以上の女性の数」記載のとおりである(甲二六三)。

(五) 主事から副参事への昇格試験の年度別、在職年数別の受験者数と合格(昇格)者数ならびに合格(昇格)率と副参事への昇格者の推移

昭和五八年度ないし平成元年度の主事から副参事への昇格試験の年度別、在職年度別の受験者数と合格(昇格)率は、別表10記載のとおりであり、《証拠省略》によると、昭和五八年度については、原告甲野外五名は主事在職二年の職員(受験者総数四〇名)として昇格試験を受験したが、在職二年組の職員からは女性職員のみならず男性職員からも一名の合格者もでなかったし、同じく、原告等が受験した昭和五九年度及び六一年度については、原告等と同在職年数組の受験者(但し、五九年度は三三名、六一年度は三〇名)からは、同じく男性女性職員を問わず一名の合格者も出なかったことを認めることができる。

また、被告職員の昭和五三年度ないし六三年度の副参事への昇格者の推移は別表11「副参事への昇格者推移」記載のとおりであり、この事実に《証拠省略》を総合すると、副参事昇格試験有資格者は年々急増するものの、受験者は昭和六〇年度以降微増にとどまり、昇格者数は減少傾向にあって、副参事昇格が極めて困難になっており、このようなことから職員の副参事昇格への受験意欲が減退し、未受験者が増加傾向にあったので、これを改善する必要に迫られており、このことも一つの理由となって導入されたのが新人事制度であったことを認めることができる。

(六) 全国信用金庫及び被告職員の年齢階層別構成

全国信用金庫の昭和五八年度及び平成五年度の各四月現在の年齢階層別構成は別表12の(1)記載のとおりであり、被告職員の年齢階層別構成は別表12の(2)記載のとおりである。

(七) 副参事以上の男女別構成比

被告職員の昭和五六年度から六一年度までの副参事以上の男女別構成比は、五六年度は二〇七名のうち男性職員二〇六名(九九・五パーセント)、女性職員一名(〇・五パーセント)、五七年度は二二五名のうち男性職員二二四名(九九・六パーセント)、女性職員一名(〇・四パーセント)、五八年度は二二九名のうち男性職員二二八名(九九・六パーセント)、女性職員一名(〇・四パーセント)、五九年度は二三九名のうち男性職員二三八名(九九・六パーセント)、女性職員一名(〇・四パーセント)、六〇年度は二五四名のうち男性職員二五三名(九九・六パーセント)、女性職員一名(〇・四パーセント)、六一年度は二五九名のうち男性職員二五八名(九九・六パーセント)、女性職員一名(〇・四パーセント)であり、《証拠省略》によると、副参事以上の女性職員一名は副参事であり、同女に対し従組員は組合分裂の中心的役割を果たした人間であるとの認識を抱いていることを認めることができる。

(八) 四二歳以上の副参事の男女別割合

被告職員の昭和五七年度から五九年度までの四二歳以上の副参事の男女別割合(但し、従組員を除く。)は、五七年度は総数一三二名のうち男性職員一三一名(残りの一名は主事)、女性職員は〇名(一二名全員が主事)、五八年度は総数一四三名のうち男性職員一四二名(残りの一名は主事)、女性職員〇名(一三名全員主事)、五九年度は総数一五二名のうち男性職員一五二名、女性職員〇名(一五名全員主事)である。

(九) 女性職員四二歳以上の副参事以上・以下の人数分布

被告の女性職員四二歳以上の副参事以上・以下の人数分布は、副参事以上は〇名、主事については、昭和五七年度は、総数一二名のうち四二歳が五名、四四歳が二名、四五歳、四七歳、四八歳、五二歳、五三歳が各一名であり、五八年度は、総数一三名のうち四二歳が一名、四三歳が五名、四五歳が二名、四六歳、四七歳、四八歳、五二歳、五三歳が各一名であり、五九年度は、総数一五名のうち四二歳二名、四三歳一名、四四歳五名、五六歳二名、四七歳、四九歳、五〇歳、五四歳、五五歳各一名である。

(一〇) 被告職員の職位別男女別構成比

被告職員の昭和五七年から平成七年度までの職位別男女別構成比は、別表13「職位別男女別構成比」記載のとおりである。

(一一) 被告職員の係長昇進状況

《証拠省略》によると、昭和二五年度から新人事制度導入以前の六三年度までの間に被告に入職した男性職員は延べ約一三〇〇名ないし一四〇〇名に及び、女性職員は延べ約二〇〇〇名に及んでいるところ、男性職員(但し、従組員の男性職員を除く。)については、入職後早い者で約一三年、遅い者でも約一五ないし一六年でほぼ全員が係長に昇進しているのに対し、女性職員については係長昇進状況、その後の昇格・昇進状況は別表14記載のとおりとなっている。

なお、甲塚六江は、平成三年四月一日に上席事務担当に昇進し、乙沼七江は、昭和六三年四月一日に大森支店長代理に昇進し、同支店営業課長となっている。

以上のとおり、女性職員で係長に昇進したのは九名に過ぎず、入職から係長昇進までの年数をみても、最短の甲塚六江で一二年九か月を、最長の丙丘八江で三六年を、その外の丁崎九江で一九年、戊島十江で二八年六か月、甲沼一美で一六年、乙丘二美で二四年、乙沼七江で一三年、丙崎三美で一八年を各要している。

(一二) 原告等と同期同給与年齢職員についての資格と職位との比較

《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

(1) 原告甲野

原告甲野と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和二八年度高校卒、男性職員は同年度高校卒または三二年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員は同原告のみであり、男性職員は七名(但し、うち三名が従組員)であった。

なお、右の外に女性職員一名(前述した戊島十江)が平成四年一二月に、男性職員二名のうち一名が昭和六一年九月三〇日、他の一名が平成五年三月一〇日にそれぞれ退職し、右男性職員七名は、五年一二月九日、六年四月五日、同月一三日、同月二〇日、同年九月四日、一一月二三日、七年三月二三日に各一名が退職したことにより在籍者はいない。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、女性職員は原告甲野が係長職にあり、男性職員は、副部長職が一名、次長職が二名、課長職が四名(但し、うち三名が従組員)であり、昭和五七年一〇月(大学卒であれば入職後二六年)までに従組員を除く男性職員全員(及び従組員一名)が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(入職後二八年)に従組員の男性職員二名が本件和解協定締結後の後記特別措置として副参事に昇格したことにより男性職員全員が副参事以上に昇格した。

ア 女性職員

右戊島十江は昭和五四年四月一日に主事に昇格し、平成四年一二月一〇日係長職のまま退職した。原告甲野は、前述したとおり、昭和五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格し、平成五年九月二九日係長職のまま定年により退職した。

イ 男性職員

a 主事

昭和五〇年一月までに一名(但し、従組員)が既に主事に昇格しており、五六年四月に給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により二名(但し、いずれも従組員)が主事に昇格した。

b 副参事

昭和五〇年までに四名が既に副参事に昇格しており、五七年一〇月一四日に一名(但し、従組員)、五九年一〇月一五日に二名(但し、いずれも従組員で、本件和解協定締結後の後記特別措置としてのもの)が副参事に昇格した。

c 参事

昭和五〇年までに一名が参事に既に昇格しており、五六年、六三年に各一名が参事に昇格した。

d 副参与

昭和四九年に一名が副参与に昇格した。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時、原告甲野は上級営業担当であり、男性職員は、支店長が一名、副支店長が二名、課長が一名であり、従組員を除く男性職員全員は遅くとも昭和五〇年までに店舗長代理に昇進したが、従組員の男性職員三名は各一名ずつ上級事務担当、上級営業担当、上級融資担当である。

ア 女性職員

戊島十江は、前述したとおり、昭和五六年一〇月一日付で係長に昇進し、係長のままで退職した。原告甲野は、上級営業担当であり、店舗長代理又は課長以上に昇進した女性職員はいない。

イ 男性職員

昭和五〇年までに店舗長代理に四名、次長に一名、店舗長に一名が昇進しており、次長に五六年一〇月に一名、六三年四月に一名がそれぞれ昇進した。

なお、右の外に、昭和六一年九月三〇日に一名が次長のまま退職し、平成五年三月に一名が課長のまま退職した。

(2) 原告乙山・丙川・丁原

原告乙山・丙川・丁原と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和三三年度高校卒、男性職員は同年度高校卒ないし三七年度大学卒)の平成五年四月当時の在籍者は女性職員四名(但し、うち三名は右原告等)、男性職員一七名(但し、うち二名は従組員)である。

なお、右原告等と同期入職女性職員は四〇名であり、このうち三六名が既に退職(このうち昭和六三年三月末の退職者一名)、昭和三七年度大学卒入職男性職員は二六名であった。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、女性職員は原告等三名が係長職にあるほか一名が課長職にあり、男性職員は、理事が一名、副部長職が九名、次長職が三名、課長職が四名であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和四七年(大学卒であれば入職後一〇年)の五名であり、五三年(大学卒であれば入職後一六年)までに従組員を除く男性職員全員が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二二年)に従組員の男性職員二名が本件和解協定締結後の後記特別措置として副参事に昇格したことにより男性職員全員が副参事以上に昇格したこととなった。

ア 女性職員

甲塚六江は、昭和四七年四月一日付けで主事に昇格し、前述したとおり平成二年四月二日付けで課長職に昇格し、乙丘二美は、昭和五〇年四月一日付けで主事に昇格し、同資格のまま六三年三月三一日をもって退職した。

右原告等三名は、前述したとおり、昭和五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用によりそれぞれ主事に昇格した。

イ 男性職員

a 主事

昭和四四年に九名、四五年、四六年に各二名、四七年に一名、四八年に一名、五六年四月に二名(但し、いずれも従組員)がそれぞれ主事に昇格した。

b 副参事

昭和四七年に四名、四八年に五名、五〇年、五一年、五三年、五九年一〇月一五日に各二名(但し、五九年一〇月一五日の二名は従組員で、本件和解協定締給後の後記特別措置としてのもの)が副参事に昇格した。

c 参事(次長職)

昭和四九年に一名、五二年に二名、五三年に一名、五五年に二名、五六年に三名、五八年、六〇年、六三年に各一名が参事にそれぞれ昇格し、平成二年に一名が次長職に昇格した。

d 副参与(副部長職)

昭和五一年、五九年に各一名、六一年、六三年に各二名、平成元年に二名が副参与にそれぞれ昇格し、二年に二名が副部長職に昇格した。

e 役員(理事)

平成元年に一名が理事に就任した。

なお、平成八年七月一五日現在、理事一名、常勤監査一名、副部長職八名、次長職三名、課長職三名がそれぞれ就任している。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時、女性職員は原告等三名が上級事務又は融資担当、外の一名が上席事務担当(但し、平成二年四月以前に係長に昇進)にあり、男性職員は、役員(理事)が一名、支店長が九名、副支店長が三名、課長が三名で、従組員の男性は上級営業担当及び上席事務担当であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和四七年四月(大学卒であれば入職後一〇年)の四名、最も遅く昇進したのは昭和五三年四月(大学卒であれば入職後一六年)の二名であり、従組員の男性職員二名は、右原告等と同職位にあって店舗長代理又は課長に昇進していない。

ア 女性職員

前述したとおり、甲塚六江及び甲沼一美は、いずれも昭和四九年四月一日付けで、乙丘二美は、五八年三月一日付けでそれぞれ係長に昇進し、乙丘二美は、六三年三月三一日付けをもって退職し、その後甲塚六江は、平成三年四月一日付けで上席事務担当に昇進した。

平成二年四月二日付けで原告乙山は上級融資担当、原告丁原・丙川はそれぞれ上級事務及び融資担当となった。

甲沼一美は、前述したとおり、昭和四九年四月一日に係長に昇進し、五〇年九月三〇日に退職した。

イ 男性職員

a 係長

昭和四四年に五名、四五年に四名、四六年に二名、四七年に三名、四九年に一名が係長にそれぞれ昇進した。

なお、従組員男性職員二名は現在上級担当である。

b 店舗長代理

昭和四七年に一名、四八年に四名、四九年に一名、五〇年、五一年、五三年に各二名が店舗長代理に昇進した。

c 次長(副支店長)

昭和四九年に一名、五二年に二名、五三年に一名ないし五五年に二名、五六年に三名、五八年、六〇年、六三年に各一名が次長にそれぞれ昇進し、平成二年に一名が副支店長に昇進した。

d 店舗長(支店長)

昭和五一年、五九年に各一名、六一年、六三年、平成元年に各二名が店舗長に昇進し、平成二年に二名が支店長に昇進した。

e 役員(理事)

平成元年に一名が理事に就任した。

(3) 原告戊田

原告戊田と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和三四年度高校卒、男性職員は三八年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員は同原告のみであり、男性職員(但し、うち一名は従組員)は一三名である。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、原告戊田は係長職にあり、男性職員は役員(理事)が一名、副部長職が四名、次長職が五名、課長職が三名(但し、うち一名が従組員)であり、昭和五五年(大学卒であれば入職後一七年)までに従組員を除く男性職員全員が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二一年)に従組員の男性職員二名(但し、うち一名は昭和六二年八月に退職)が副参事に昇格(但し、本件和解協定締結後の後記特別措置としてのもの)したことにより男性職員全員が副参事に昇格したこととなった。

ア 女性職員

原告戊田は、前述したとおり、昭和五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格したものの、以後これ以上には昇格していない。

イ 男性職員

a 主事

昭和五〇年までに五名、五六年四月に一名(但し、従組員)が主事にそれぞれ昇格した。

b 副参事

昭和五〇年までに既に六名が昇格しており、五一年四月、五二年四月に各二名、同年一〇月、五五年四月に一名が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日に二名(但し、いずれも従組員で、本件和解協定後の後記特別措置としてのもの、なお、うち一名が六二年七月二〇日に退職した。)が副参事に昇格した。

c 参事(次長職)

昭和五〇年までに既に二名が昇格しており、五二年一〇月に三名、五六年二月、五七年四月、五八年四月に各一名、六一年四月に一名、六三年四月に二名、平成元年四月に一名が参事にそれぞれ昇格し、二年四月に一名が次長職に昇格した。

d 副参与(副部長職)

昭和五一年二月に二名、五六年四月に一名、五九年四月に一名、六一年四月に一名が副参与にそれぞれ昇格した。

e 役員(理事)

平成元年五月に一名が理事に就任した。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時、原告戊田は上級融資担当であり、男性職員は、役員(理事)が一名、支店長が四名(うち一名は出向)、副支店長が五名、課長が二名、上席ないし上級担当が二名(但し、うち上級一名は従組員)である。

ア 女性職員

原告戊田は上級担当にある。

イ 男性職員

a 係長

昭和五〇年当時既に五名が係長に昇進していた。

b 店舗長代理

昭和五〇年当時既に五名が店舗長代理に昇進していた。五一年四月、五二年四月に各二名、同年一〇月に一名が店舗長代理にそれぞれ昇進した。

c 次長(副支店長)

昭和五〇年当時既に二名が次長に昇進しており、五二年一〇月に一名、五六年四月に一名(但し、店舗長からの降格)、五七年四月、五八年四月、六一年四月に各一名、六三年四月に二名、平成元年四月に一名が次長にそれぞれ昇進し、二年四月に一名が副支店長に昇進した。

d 店舗長(支店長)

昭和五一年二月に二名、五七年四月に一名、六〇年四月に二名が店舗長にそれぞれ昇進し、平成二年四月に一名が支店長に昇進した。

e 役員(理事)

平成元年五月に一名が理事に就任した。

(4) 原告甲田

原告甲田と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和三五年度高校卒、男性職員は三九年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員は同原告外一名、男性職員は一五名(うち二名は従組員)である。

なお、右の外に、平成二年四月一七日に男性職員一名(但し、従組員)が退職した。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、原告甲田外一名の女性職員はいずれも係長職にあり、男性職員は、副部長職が九名、次長職が三名、課長職が三名(但し、うち二名は従組員)であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和四八年四月(大学卒であれば入職後九年)の七名であり、従組員を除く男性職員全員が五六年四月(大学卒であれば入職後一八年)までに副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二〇年)に従組員の男性職員二名が副参事にいずれも昇格(但し、本件和解協定締結後の後記特別措置としてのもの)したことにより、男性職員全員が副参事以上に昇格したこととなった。

ア 女性職員

昭和五二年四月に一名(丁島四美)が主事に昇格し、原告甲田は、前述したとおり、五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格し、これ以上に昇格した女性職員はいない。

イ 男性職員

a 主事

昭和四六年四月に三名、四六年八月に二名、四七年四月に二名、四七年一〇月に一名、四八年四月、四九年四月に各一名、五六年四月に二名(但し、いずれも従組員)が主事にそれぞれ昇格した。

b 副参事

昭和四八年四月に七名、四九年四月に二名、五〇年四月に一名、五三年四月に二名、五六年四月に一名、五九年一〇月一五日に二名(但し、いずれも従組員で、本件和解協定締結後の後記特別措置としてのもの)が副参事にそれぞれ昇格した。

c 参事(次長職)

昭和五一年一〇月に七名、五五年四月に二名、六一年四月、六二年四月に一名が参事にそれぞれ昇格し、平成三年四月に一名が次長職に昇格した。

d 副参与(副部長職)

昭和五九年四月に一名、六一年四月に二名、同年一〇月に一名、六二年四月に三名、平成元年四月に一名が副参与にそれぞれ昇格し、二年四月に一名が副部長職に昇格した。

② 職位について

原告甲田外一名の女性職員はいずれも上級融資担当であり、男性職員は、支店長が九名、副支店長が三名、課長が一名、上級担当が二名(但し、いずれも従組員)であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和四八年四月(大学卒であれば入職後九年)の七名であり、最も遅く昇進したのは五六年一〇月(大学卒であれば入職後一七年)の一名であり、従組員の男性職員二名は右原告と同職位にある。

ア 女性職員

原告甲田外一名は、平成二年四月二日付けでいずれも上級融資担当及び上級事務担当となった。

イ 男性職員

a 係長

昭和四六年四月に六名、同年八月に一名、四七年四月に二名、同年一〇月、四八年四月、四九年四月に各一名が係長にそれぞれ昇進した。

b 店舗長代理

昭和四八年四月に七名、四九年四月に二名、五〇年四月に一名、五三年四月に二名、五六年一〇月に一名が店舗長代理にそれぞれ昇進した。

c 次長(副支店長)

昭和五一年一〇月に七名、五五年四月に一名、六一年四月、六二年四月に各一名が次長にそれぞれ昇進し、平成三年四月に一名が副支店長にそれぞれ昇進した。

d 店舗長(店舗長)

昭和五七年八月、六一年四月に各二名、同年一〇月に一名、六二年四月に二名、六三年四月に一名が店舗長にそれぞれ昇進し、平成元年四月、二年四月に各一名が支店長にそれぞれ昇進した。

(5) 原告乙野

原告乙野と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和三七年度高校卒、男性職員は同年度高校卒ないし四一年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者のうち女性職員は原告乙野と前述した乙沼七江の二名であり、男性職員は一七名(但し、うち一名は従組員)である。

なお、右の外に平成元年一二月に退職者一名、二年五月に死亡退職者一名がいる。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、原告乙野は係長職、乙沼七江は課長職にあり、男性職員は、副部長職が一〇名、次長職が二名、課長職が四名、係長職が一名(但し、従組員)であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和五〇年四月(大学卒であれば入職後九年)の四名であり、平成三年四月(大学卒であれば入職後二五年)に従組員以外の一名が昇格したことにより従組員を除いた全員が副参事に昇格したこととなり、従組員男性職員一名は副参事又は課長職に昇格していない。

ア 女性職員

昭和五〇年四月に乙沼七江が主事に昇格し、前述したとおり五六年四月一日に副参事に昇格し、原告乙野は、前述したとおり、同日に給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格した。

イ 男性職員

a 主事

昭和五〇年四月の昇格者を含め一〇名が主事にいずれも昇格し、五三年四月に一名が昇格した。

b 副参事(課長職)

昭和五〇年四月に四名、五一年四月、五二年四月に各一名、五三年四月に三名、五四年四月に三名、五七年四月に一名、六一年四月に二名が副参事にそれぞれ昇格し、平成三年四月に一名が課長職に昇格した。

c 参事(次長職)

昭和五九年四月に四名、六〇年四月に二名、六一年四月に三名、六三年四月、平成元年四月に各一名が参事にそれぞれ昇格し、二年四月に一名が次長職に昇格した。

d 副参与(副部長職)

昭和六三年四月に二名、平成元年四月に三名が副参与にそれぞれ昇格し、二年四月、三年四月に各一名、四年四月に三名が副部長職にそれぞれ昇格した。

② 職位について

女性職員のうち原告乙野は上級事務担当であり、乙沼七江は、前述のとおり、課長である。

男性職員は、役員(理事)が二名、支店長が九名、検印席が一名、課長が一名、上席事務担当、上席融資担当が各一名、上級事務担当が二名(但し、うち一名は従組員)であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和五〇年四月(大学卒であれば入職後九年)の四名であり、課長に最も遅く昇進したのは平成五年四月(大学卒であれば入職後二七年)の一名であり、二名(但し、うち一名が従組員男性職員)は店舗長代理又は課長に昇進していない。

ア 女性職員

乙沼七江は、前述したとおり、昭和五〇年四月一日に係長、六三年四月に大森支店店舗長代理に昇進し、同店営業課長となっている。原告乙野は、平成四年四月一日、上級融資担当(融資計算)、同年一〇月一日、上級融資担当(担保督促)となった。

イ 男性職員

a 係長

昭和五〇年当時五名が既に係長にいずれも昇進しており、五一年四月に一名、五二年四月に二名、五六年四月、同年一〇月、六一年四月に各一名が係長にそれぞれ昇進した。

b 店舗長代理(課長・推進役)

昭和五〇年四月に四名、五一年四月に一名(但し、推進役)、五二年四月に一名(但し、推進役)、五三年四月に三名、五四年四月に一名、五六年四月、同年一〇月に各一名、五九年八月、平成元年四月に一名が店舗長代理にそれぞれ昇進し、五年四月に一名が課長に昇格した。

c 次長(副支店長)

昭和五九年四月に四名、六〇年四月に二名(但し、課長が一名、推進役が一名)、六一年四月に三名、六二年四月、平成元年四月に各一名が次長にそれぞれ昇進し、二年四月に一名が副支店長に昇進した。

d 店舗長(支店長・副部長)

昭和六三年四月に一名、平成元年四月に二名が店舗長にそれぞれ昇進し、二年四月に二名が副部長に、四年四月、同年一〇月に各一名、五年四月に二名、七年四月に一名が支店長にそれぞれ昇進した。

e 役員(理事)

平成五年五月、七年五月に各一名が理事にそれぞれ就任した。

(6) 原告丙山

原告丙山と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和四〇年高校卒、男性職員は同年度高校卒ないし四四年大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員は同原告のみであり、男性職員は一二名(但し、うち一名は従組員)である。

なお、右の外に昭和六二年九月に退職した男性職員一名及び六三年四月に退職した男性職員(但し、従組員男性職員)一名がいる。

① 資格について

次のとおり、女性職員は原告丙山が係長職にあり、男性職員は、副部長職が四名、次長職が二名、課長職が三名、係長職が二名(但し、うち一名は従組員)であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和五五年四月(大学卒であれば入職後一一年)の二名であり、平成二年四月(大学卒であれば入職後二一年)に一名が昇格したことにより従組員の男性職員を除く全員が副参事又は課長に昇格したこととなり、従組員男性職員一名は副参事又は課長に昇格していない。

ア 女性職員

原告丙山は、前述したとおり、昭和五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格した。

イ 男性職員

a 主事

昭和五〇年一〇月に八名、五一年四月に二名、五六年四月に二名(但し、一名は従組員)昇格した。

b 副参事(課長職)

昭和五五年四月に二名、五六年四月に各三名、五八年四月、六〇年四月、六二年四月、六三年四月に各一名が副参事にそれぞれ昇格し、平成二年四月に一名が課長職に昇格した。

c 参事(次長職)

昭和六三年四月、平成元年四月に各一名が参事にそれぞれ昇格し、二年四月、三年四月に各一名、四年四月に二名が次長職にそれぞれ昇格した。

d 副参与(副部長職)

平成五年四月、六年四月に各一名、八年四月に二名が副部長職にそれぞれ昇格した。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時、原告丙山は上級営業担当にあり、男性職員は、支店長が一名、副支店長が五名、課長が一名、上席融資担当、上席営業担当、上級融資担当、上級営業担当が各一名(但し、上級融資担当の一名は従組員)であり、その他審査スタッフが一名であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和五六年四月(大学卒であれば入職後一二年)の一名、最も遅く上席融資担当に昇進したのは平成四年四月(大学卒であれば入職後二〇年)の二名であり、従組員男性職員一名外一名の計二名の男性職員が店舗長代理又は課長に昇進していない。

ア 女性職員

原告丙山は上級営業担当である。

イ 男性職員

a 係長

昭和五〇年一〇月に一名、五一年四月に五名、五二年四月に三名、五六年四月に一名が係長にそれぞれ昇進した。

b 店舗長代理

昭和五六年一〇月、五七年四月、五八年八月、五九年八月、六二年四月に各一名、平成元年四月に二名が店舗長代理にそれぞれ昇進した。

c 次長(副支店長)

昭和六三年四月、平成元年四月に各一名が次長にそれぞれ昇進し、二年四月に一名、四年四月に二名が副支店長にそれぞれ昇進した。

d 店舗長(支店長・副部長)

平成五年四月、同年一〇月に各一名が支店長に昇進し、八年四月に一名が副部長に一名が昇進した。

(7) 原告丁川・戊原

原告丁川・戊原と同期・同給与年齢(但し、女性職員は昭和四一年度高校卒、男性職員は同年度高校卒ないし四五年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員四名、男性職員一二名である。

① 資格について

右原告二名外一名の女性職員はいずれも係長職、外の一名は課長職であり、男性職員は、副部長職が三名、次長職が三名、課長職が六名であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和五四年四月(大学卒であれば入職後九年)の二名であり、平成四年四月(大学卒であれば入職後二四年)に二名が課長職に昇格したことにより男性職員全員が課長職以上に昇格したこととなった。

ア 女性職員

昭和五二年四月に一名(戊塚五美)が主事に昇格し、右原告外一名は、五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用によりいずれも主事に昇格し、新人事制度の導入により右女性職員全員がいずれも係長職の資格を付与され、平成七年四月に課長職に一名が昇格した。

イ 男性職員

a 主事

昭和五一年四月に八名、五二年四月に二名、五三年四月に二名が主事にそれぞれ昇格した。

b 副参事(課長職)

昭和五四年四月に二名、五五年四月、五六年四月に各一名、五八年四月に二名、平成元年四月に一名が副参事にそれぞれ昇格し、三年四月に二名、四年四月に一名が課長職にそれぞれ昇格した。

c 参事(次長職)

昭和六三年四月に二名、平成元年四月に一名が参事にそれぞれ昇格し、五年四月に一名が次長職に昇格した。

d 副参与(副部長職)

平成四年四月に二名が副部長職にいずれも昇格した。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時、女性職員は右原告外二名がいずれも上級融資・営業・事務担当であり、男性職員は、支店長が一名、副部長が一名、副支店長が一名、課長が三名、上級スタッフが一名、上席融資・営業・事務担当が四名であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和五五年四月(大学卒であれば入職後一〇年)の二名であり、最も遅く上席融資・営業・事務担当に昇進したのは平成四年四月(大学卒であれば入職後二二年)の三名である。

ア 女性職員

原告外一名はいずれも上級融資・営業・事務担当であり、平成七年四月に一名が上席事務担当に昇進した。

イ 男性職員

a 係長・考査役・推進役

昭和五二年四月に係長四名、考査役一名、五三年四月に係長三名、考査役一名、五五年四月に考査役二名、五五年四月に推進役一名、五六年四月に、五九年八月、六一年四月に各一名が係長(但し、考査役から)にそれぞれ昇進した。

b 店舗長代理(課長・推進役)

昭和五五年四月に店舗長代理に二名、五六年四月、五七年四月、五九年八月、六〇年四月に各一名が推進役にそれぞれ昇進し、平成三年四月に二名、四年四月に一名が課長にそれぞれ昇進した。

c 次長(副支店長・推進役)

昭和六三年四月に二名、平成元年四月に一名が次長・推進役にそれぞれ昇進し、六年四月、八年四月に各一名が上席スタッフにそれぞれ昇進した。

d 店舗長(支店長・副部長)

平成四年四月、五年四月、八年四月に各一名が支店長・副部長にそれぞれ昇進した。

(8) 原告甲川・乙原

原告甲川・乙原と同期・同給与年齢(但し、女性職員は昭和四二年度高校卒、男性職員は同年度高校卒ないし四六年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員三名(但し、うち二名が右原告等)、男性職員は一六名である。

なお、右の外に昭和六一年七月に男性職員一名が退職している。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、女性職員はいずれも係長職にあり、男性職員は、次長職が五名、課長職が八名、係長職が一名であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和五五年四月(大学卒であれば入職後九年)の二名であり、平成二年四月(大学卒であれば入職後一九年)に男性職員一名が課長職に昇格したが、係長職にあって副参事(課長職)に昇格しない男性職員一名(但し、中途採用者がこの外にいるが、この職員は同期とはいえないので、考慮外とする。)がいる。

なお、右一名の男性職員は、平成八年四月一日付けをもって課長職に昇格した。

ア 女性職員について

右原告等二名は、前述したとおり、昭和五七年四月一日付けで、給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格し、外の一名も同日同制度の適用により主事に昇格した。

イ 男性職員

a 主事

昭和五二年四月に七名、五三年四月に三名、五四年四月に一名、五五年四月に一名、五六年四月に二名、五七年四月に一名が主事にそれぞれ昇格した。

b 副参事(課長職)

昭和五五年四月に二名、五六年四月に二名、五七年四月、五九年四月、六一年四月に各二名が副参事にそれぞれ昇格し、平成二年四月に一名が課長職に昇格した。

c 参事(次長職)

平成二年四月に二名、三年四月に一名、五年四月に二名が次長職にそれぞれ昇格した。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時の女性職員は右原告二名の外一名がいずれも上級担当にあり、男性職員は、副支店長が三名、課長が八名、上級担当が五名であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和五六年一〇月(大学卒であれば入職後一〇年)の二名であり、平成三年四月(大学卒であれば入職後二〇年)に一名が課長に昇進し、外の三名の男性職員は店舗長代理又は課長に昇進していない。

ア 女性職員

原告二名外一名の女性職員はいずれも上級事務担当、上級融資担当である。

イ 男性職員

a 係長

昭和五三年四月に六名、五四年四月に三名、五五年四月に四名、五六年一〇月に二名が係長にそれぞれ昇進した。

b 店舗長代理(課長)

昭和五六年一〇月に二名、五九年八月に四名、六一年四月に二名、六二年四月に一名が店舗長代理に昇進し、平成三年四月に一名が課長に昇進した。

c 次長(副支店長)

平成二年一〇月に二名、三年四月に各一名が副支店長にそれぞれ昇進した。

(9) 原告丙田

原告丙田と同期同給与年齢(但し、女性職員は昭和四三年度高校卒、男性職員は同年度高校卒ないし四七年度大学卒)で平成五年四月当時の在籍者は女性職員四名(但し、従組員は原告丙田のみ)、男性職員二九名である。

① 資格について

次のとおり、平成五年四月当時、女性職員は右原告外三名がいずれも係長職にあり、男性職員は、次長職が六名、課長職が一四名、係長職が九名であり、男性職員で副参事に最も早く昇格したのは昭和五七年四月(大学卒であれば入職後一〇年)の一名、最も遅く課長に昇格したのは平成四年四月(大学卒であれば入職後二〇年)の一名であり、男性職員九名(三一パーセント)が副参事又は課長職に昇格していない。

なお、平成八年七月一五日現在副部長職二名、次長職二名、課長職一五名、係長職三名となっている。

ア 女性職員

原告丙田は、前述したとおり、昭和五八年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度の適用により主事に昇格し、外の女性職員三名も同日付けで同制度の適用により主事に昇格し、新人事制度の導入によりいずれも係長職にある。

イ 男性職員

a 主事

昭和五三年四月に二名、五四年四月に八名、五五年四月に一一名、五七年四月に五名、五八年四月に四名が主事にそれぞれ昇格した。

b 副参事(課長職)

昭和五七年四月、五八年四月に各一名、五九年四月に四名、六〇年四月に三名、六一年四月に一名、六二年四月に二名、六三年四月に三名が副参事にそれぞれ昇格し、平成二年四月、三年四月に各二名、四年四月に一名が課長職にそれぞれ昇格した。

c 参事(次長職)

平成三年四月に四名、四年四月、五年四月に各一名が次長職にそれぞれ昇格した。

② 職位について

次のとおり、平成五年四月当時の女性職員は右原告外三名がいずれも上級事務担当であり、男性職員は、副支店長が六名、課長及び上席担当が一四名、上級担当が九名であり、男性職員で店舗長代理に最も早く昇進したのは昭和五七年四月(大学卒であれば入職後一〇年)の一名、最も遅く課長に昇進したのは平成四年四月(大学卒であれば入職後二〇年)の一名であり、男性職員一〇名が店舗長代理又は課長に昇進していない。

ア 女性職員

いずれも上級担当である。

イ 男性職員

a 係長

昭和五四年四月に九名、五五年四月に七名、五六年四月に二名、同年一〇月に四名が係長にそれぞれ昇進した。

b 店舗長代理(課長)

昭和五九年八月、六〇年四月に各一名、六一年四月に四名、六二年四月に一名、六三年四月に五名、平成元年四月に一名が店舗長代理にいずれも昇進し、三年四月に一名、四年四月に四名が課長にそれぞれ昇進した。

c 次長(副支店長)

平成三年四月に四名、四年四月、五年四月に各一名が副支店長にそれぞれ昇進した。

二  男性職員と女性職員との間における昇格・昇進についての格差の発生原因

以上述べたところから明らかなとおり、原告等が本訴で求める課長職(新人事制度導入以前の副参事)への昇格と課長(新人事制度導入前の店舗長代理)への昇進について原告等と同期同給与年齢の男性職員との間においては言うに及ばず、男性職員と女性職員との間においても著しい格差の存することが明かとなったのであるが、このような格差が原告等の主張するように男性・女性といった性的理由によった現行法秩序の下では到底許されない非合理的な理由によるものであるか否かが本訴における最大の争点である。

そこで、先ず、右のような格差発生の原因について検討しなければならない。

ところで、右の格差の発生原因につき、原告等は、被告の女性職員を疎外した男性職員に対する年功的人事政策によるものである旨主張し、被告は、被告の採用している職能資格制度、とりわけ昇格試験制度を厳正に運用していることの結果によるものであって、原告等は、昇格試験を受験しないか、受験しても合格しなかったことによるのであって、女性であることを理由としたことによるのではない旨反駁する。

そこで、先ず、被告の人事制度全般をみることとする。

1  被告の人事制度

(一) 職能資格制度

被告は、前述したとおり、昭和四三年四月から職能資格制度を導入したが、この制度については、前記争いのない事実の外に、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

職能資格制度における職員の「資格」付けは、当該職員の職務遂行能力に対応して行われ、昇格についても、当該職員の職務遂行能力を基準として行われるというものであった。このようなことから、職能資格制度は、資格によって賃金体系が構成されていたことから被告が呼称しているようにまさに能力主義的な賃金体系の一態様ということができる。もっとも、職位(役職)には組織上その数に限度があるから、一定の資格を取得したからといって当然に職位が保証されるということにはならなかった。

被告がこのような職能資格制度を導入したのは、かつての多くの企業が採用していた年功序列型人事制度が職員の高年齢化、高学歴化及び技術革新等の進行により、年功(年齢、勤続年数、学歴等)の有し得た能力の代替的指標としての意味を失ったことと、昭和四八年の第一次石油ショックを契機にそれまでの高度経済成長期は終焉を告げ、低成長期・減速経済期に入り、これとともに企業の組織、職位数、人件費に割き得る額等の拡大速度が大幅に減じたため、職員の年功の進行速度に合わせた昇格・昇進が物理的にも経費的にも不可能となったことによるものであった。

(二) 昇格試験制度

被告は、前述のとおり、昭和五三年一〇月から昇格試験制度を導入したが、この制度については、前記争いのない事実の外に、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

そもそも、昇格試験制度の目的とするところは、職員の自発的な能力開発と最大限の能力発揮による上位等級への挑戦に際し、その資格・等級における職務遂行能力及びその可能性を評定し、もって人材開発の成果を活用し、組織の活力を図ることにあったのであって、その制度内容は、次のとおりである。

(1) 職員の職務遂行能力の考課査定

昇格試験制度の特徴は、職員の職務遂行能力の評定を人事考課によってなしていた従前の方法に代えて人事考課、学科試験、論文試験等により構成される昇格試験によって行うというところにあった。

(2) 試験の実施、採点及び集計

学科試験の実施はあらかじめガイダンスを行い、当該受験者に対しその出題傾向等を知らせている。論文試験の実施に際してもあらかじめ受験者に対し、ガイダンスを行っている。

採点及び集計作業については、学科試験については人事部において各出題者から提出された模範解答を基準に採点を行い、副参事昇格試験の論文問題については被告が指名する役職員が採点を行い、人事考課係数の算出は人事部において行う。そして、以上の素点をもとに人事部において前述した評価項目の比重づけをして一〇〇パーセント中の何パーセントの得点になるかを算出する。

(3) 合格者(昇格者)の決定と結果の発表

理事長を委員長とし、委員長が任命する者を委員とする選考委員会は、合格者の決定につき、毎年の問題の難易度が異なるところから一定の得点を取得すれば人数に関係なく合格させるという方法は採ることができないことと、昇格者についての給与等の予算措置が既になされていて一定の枠があること、また、副参事以外の昇格者の人数等との関係をも考慮し、上位得点者から順次合格者とし、最終的に合否の線引きを決定することとしている。

また、結果の発表の後に、被告は店舗長を通じて受験者全員に対し、昇格試験の結果についての講評を行っている。すなわち、人事部において、各受験者毎に学科試験については出題分野の出来・不出来等、論文試験についてはいかなる点に注意すべきであったか等を簡潔にまとめ、その内容を総合点とともに店舗長から当該受験者各人に告げて、今後努力すべき指針を示すなどを行っている。

(三) 給与年齢三三歳主事自動昇格制度の導入

被告が昭和五六年四月一日付けで給与年齢三三歳主事自動昇格制度を導入し、原告等についてもこの制度が適用され、この結果、原告等もそれぞれ主事に昇格したことは前述したとおりである。

なお、《証拠省略》によると、昭和五六年四月一日付けで主事に昇格した職員は六三名であって、このうち昇格試験合格者は二六名(但し、内訳は労組員の男性職員二五名と女性職員一名)、右制度の適用者三七名(但し、内訳は労組員の男性職員三名、女性職員四名、従組員の男性職員二〇名、女性職員一〇名)であったことを認めることができる。

(四) 新人事制度の導入

被告が平成二年四月一日から新人事制度を導入したことは前述したとおりであるが、被告がこのような人事制度を導入した理由及びこの制度の概要は、《証拠省略》によると、次のとおりであることを認めることができる。

(1) 新人事制度導入の理由

被告にあっては、昭和四〇年ころの人事構成のうえで業務の中心的役割を果たしていた同年代後半から五〇年代前半にかけての入職者が多かったため、主事資格者が約三〇〇名となり、しかも、当時の人事制度上では資格によって賃金テーブルが異なっていたために、賃金原資の関係からも昇格者を制約せざるを得ない状況にあって、毎年の副参事への昇格者が約一〇名となって、副参事に昇格することが至難となっていた。

また、従来の賃金体系は、資格者毎に賃金格差を持った階段型の体系となっており、昇格者にとっては年収が一挙に三五パーセントも増加する(例えば、主事から副参事に昇格することにより昭和五三年度で約七万八〇〇〇円、五九年度で八万四〇〇〇円、平成元年度で九万六〇〇〇円増額となる。)が、同一資格内では賃金がほぼ横ばいで昇給格差は極めて少なかった。このため、多くの職員にとっては、昇格についての時期の予測もできず、このままの状況が継続すると勤労意欲を減退させる恐れがあった。

さらに、従来の職位が資格に広く存在する「推進役」という職位を除いては、店舗の例でいうと店舗長、次長、店舗長代理、係長という極めて限られた職位しか存しなかったために、当該職員の能力・資格に対応した職位付与に制約があった。ところが、主事資格者(係長相当職)以上のものが五五〇名以上に達するにいたり、従来のライン職位での処遇は限界にきており、他方、ライン職位を増やすことは組織運営上非効率的なものとなるので、これも困難な状況であった。

そして、先の賃金体系の導入された高度成長期と異なり、金融環境が一変し、競争は激化して、収益環境がますます激しさを増している中、職員のモラールのなお一層の向上が必要とされる状況であった。

このようなことから、被告は、環境に適応することのできる企業経営を図るために人事制度の抜本的改訂を必要と判断するに至った。

(2) 新人事制度の概要

① 資格

資格は、能力を基本において設定し、資格格付は「資格格付基準」によることとし、職務等級は、「職群分類等級表」によることとなった。

本訴で争点となっている課長職の資格格付基準は、四等級職務を完全に習得し、その習熟も十分であり四等級職務を中心になって推進する職員、または、これと同等以上の能力のある職員か、四等級職務には若干不十分だが三等級職務の能力は十分であり、かつ係長職として相当長期の年功のある職員となっている。

② 昇格制度

昇格は、能力を基本において、被告が定める「昇格基準」に達した職員につき、昇格審査を行ったうえで決定する。この昇格審査とは従来の昇格試験制度を引き継ぐものである。したがって、昇格については、昇格審査(従来の昇格試験に対応するもの)によって決定される点は特段変わりはない。

原告等が本訴で求めている課長職についての右昇格基準については、特別選抜基準、能力昇進基準及び昇格許容基準の三つに分かれ、特別選抜基準については、ア現に四等級職務を担当し、四等級職務を十分遂行する能力のある職員、イ係長職として二年以上経過し、その成績が抜群である職員(評定基準点一・三)と定められており、能力昇進基準については、ア現に四等級職務を担当し、四等級職務を十分遂行する能力のある職員、イ係長職として二年以上経過し、その成績が抜群である職員(評定基準点一・三)と定められており、能力昇進基準については、ア現に四等級職務を担当し、四等級職務を遂行する能力のある職員、イ係長職として四年以上経過し、その成績が上位にある職員(評定基準点一・二)と定められており、昇格許容基準については、ア現に四等級職務を担当し、指導すれば四等級職務を遂行することができる職員、イ係長職として八年以上経過し、その成績が普通である職員(評定基準点一・〇五)と定めている。

③ 職位の付与

職位の付与は、従来と同じく、被告において職員の人格、識見、統率力を含む能力等を総合的に判断して行う。

具体的な職位付与に当たっては、例えば店舗の営業課に配属された「課長職」の職員には当該職員の有する資格、並にその直近上位資格、直近下位資格の三つの資格に対応する「首席営業担当」、「営業課長」、「上席営業担当」、「上級営業担当」の中から本人の能力等前述の職位付与の基準に従ってその一つを選択し、付与することとなる。

なお、原告等の職位は、全員が「上級事務担当」ないし「上級融資担当」である。

④ 人事評定

旧人事考課規程を改訂したが、基本的な考え方には変更がない。すなわち、人事評定は、能力の公平な評価を旨とし、職務分析・評価に基づく「職群別評価基準表」を基準とし、別表15「人事評定表」により行うこととし、人事評定の手続に関する細目については、別に定める「人事評定規程」によることとされた。

⑤ 基本給基準額

資格に応じた基本給の基準額は、「資格別基本給基準額表」のとおりとするとされ、この資格別基本給基準額表については、毎年世間相場を勘案して見直し改訂することを原則とするとされた。

(五) 係長の廃止

被告は、新人事制度導入後の平成四年四月一日付けをもって係長の職位を廃止したことは前述したとおりであるが、この廃止理由は、《証拠省略》によると、①係長の職務が課長の職務と重複する部分が比較的多いこと、②組織のスリム化を図ること、③資格による処遇をより重視する(同一資格同一賃金の実現)ことなどの必要性からであったことを認めることができる。

なお、被告は、「同一資格・同一処遇」を定着させるため、平成二年四月一日からそれまで支給されていた役職手当を全役職において撤廃した。

2  格差発生の原因

男性職員と女性職員との間における前述した格差の発生につき、被告は、前述したとおり、昇格試験制度を厳正に運用したことによる旨の主張をしているところ、この主張のとおりであるか否かを原告等の主張に沿いながら検討することとする。

(一) 男性職員全員についての年功的運用について

被告の人事制度は、年功序列制度に代えての職能資格制度、資格の付与を人事考課に代えて昇格試験の合否によって行う昇格試験制度、昇格試験に代えて昇格基準を設定して昇格審査によって行う新人事制度と大きく三つの変遷を経てきており、このことはそれぞれの時代の社会的・経済的状況を背景としたよりよい人事政策を図ることにあったと理解できるが、いずれの制度も資格の付与を当該職員の職務遂行能力を基準にして行うという能力主義的人事制度を根幹としていたことは不変であったということができる。

したがって、原告等の主張する年功序列の意義を右にいう職務遂行能力ないし能力主義に対比した意義に把握するならば、被告の人事制度は年功序列による人事制度ではなかったということができる。

ところで、男性職員(但し、従組員の男性職員は除く。)については、以上に述べた人事制度の下にあって、入職後平均して一一ないし一三年でほぼ全員が係長に昇進し、係長昇進後平均して四ないし五年で副参事に昇格しているのに対し、女性職員については、前述したとおり、僅かの例外を除き、圧倒的多数が昇格・昇進とは無縁な存在として置かれている。

右のような男性職員と女性職員との間における処遇上の相違の理由につき、被告は、主事資格者の職員の中から能力・識見・統率力等の優れた職員を係長等の役職に就任させていることによる旨主張し、被告の人事担当責任者も、能力の相違によるものと説明している。

確かに、人間各個には能力の面においての差の存することは公知の事実であり、被告職員各個においてもこの点は同様であると考えられるが、他方、職員の能力評価は、客観的には極めて困難な面を有することは否定することができず、被告の人事担当者の説明によれば、女性職員は、数名を除いた全員が職務遂行能力、識見、統率力等の面で劣っているということとなるが、このような説明は多くの人を納得させることはできないであろうし、右のような男性職員と女性職員との間における大きな処遇上の相違は能力の点もさることながら能力以外の原因にもあるのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。

ここで、被告の人事政策のうえで見逃すことのできないのは、原告等が主張しているように男性職員についての昇格試験制度の例外的措置の存在である。すなわち、男性職員一五名の主事から副参事への昇格、抜擢人事、政治的配慮による副参事への昇格人事である。

被告は、昭和六二年一二月一九日、五九年一〇月一五日付けに遡及させて、従組員の男性職員一四名、労組員の男性職員一名を昇格試験の合否とは関係なく主事から副参事に昇格させた。

被告が右のような特別の副参事への昇格措置をとったのは、《証拠省略》によると、従組は、本件和解協定締結後の昭和六〇年三月、東京都労働委員会に対し、被告が本件和解協定のうちの五点につき不履行等の事実があるとしてこの是正を求め、このうちの一点として本件和解協定一三条に関し、被告は従組員の男性職員一四名に副参事資格を与えることを約しておきながらこれを履行していない旨の主張がなされており、これを受けた被告は、本件和解協定一三条五項は被告の人事制度により適格と認められた者に副参事資格を付与する旨定められているのであるから、この適格と認められた者とは副参事昇格試験合格者を指すものと解していたものの、本件和解協定一二条三項後段の直近の号俸に移行させ調整給を消滅させる措置をとると現行と比較して本人給が減額となるのでこのような減額措置をとることは相当ではないと判断し、これに代えて例外的に特別号俸を設けてこれを支給する措置をなしたところ、労組から従組員に対し右のような特別措置をとりながら労組員に対しても同様の措置をとらないことは不公平であるとの要求がなされたので、右のような例外的措置をとることに代えて、従組員の男性職員一四名と労組員の男性職員一名(甲丘八夫)とを副参事昇格試験の合否とは関係なく右のように副参事に昇格させたことを認めることができる。

右事実によると、従組員の男性一四名の副参事昇格は、本件和解協定一三条に一応の根拠があるかのようであるが、これも単なる従組の主張に過ぎず、同条項自体解釈の分かれるような定め方となっているのであるから、被告としても従組の要求に応じなければならなかったいわれはなく、被告が従組の右要求を受け入れたことは被告独自の人事政策上の判断結果であったと理解せざるを得ないし、他方、副参事昇格試験制度を導入しておきながら労組の要求を容れて労組員の男性職員一名の副参事昇格の例外的措置をとったことも同様であったと理解せざるを得ない。

そうすると、副参事昇格については、右男性職員一五名については格別の例外的措置をとりながら、原告等女性職員をこのような措置の埒外に置いたのであって、被告のこのような人事政策は、当時の状況下にあってはそれ相応の理由があったものと考えられるかは疑問であり、現時点においてみるならば、原告等女性に対する明かな差別的人事政策であったとの批判は免れない。また、被告のこのような措置は、原告等が副参事に昇格しないのは昇格試験に合格しないからであるとの主張根拠をかなりの程度に揺るがしかねない。

次に、抜擢人事についてであるが、被告は、丁石二夫を昭和五六年二月二日付けで副参事から参事に、戊内三夫を六一年一〇月一日付けで参事から副参与に、甲森四夫及び乙村五夫を六三年四月一日付けで副参事から参事にいずれも昇格試験によらないで昇格させたこと、いわゆる抜擢人事をなしたことは自認しているところである。

《証拠省略》によると、抜擢人事については、規定上の根拠としては、昇格試験運用規程があり、同規程によると、「給与体系運用基準1の⑧特別昇給に基づき運用する」と定められているところ、本件で問題となっている抜擢人事は、右運用規程によるのではなく、規程上の根拠のない特別の昇格人事を指しており、被告は、業務上の必要性が存した場合に副参事以上の資格者の中で被告が必要とする以上の職務遂行能力を有すると判断した職員に対し、昇格試験制度とは全く別の人事政策により、人事部長の進言に基づき理事を構成員とする常務会の審議を経た上で理事長が昇格決定をする人事をしており、被告が自認する抜擢人事は、右のような意味合いと経緯の下でなされたのであり、この理由は、《証拠省略》によると、丁石については、昭和五九年一二月に白金支店の開設が予定されたことに伴い、この開設準備委員会委員長、支店長として予定され、次長を経験させるため不動前支店次長転出の後任として次長に任命したのであり、戊内については、昭和六一年一〇月一日付けで白金支店長が退職したのでこの後任として三田支店次長から白金支店長に昇進させるためであったのであり、同人は、その後西小山支店、新橋支店などの各支店長を経て現在は本店営業部長兼理事(但し、理事就任は平成七年五月)にあり、甲森及び乙村(但し、両名とも昭和四九年四月一日付けで副参事に昇格していた。)については、被告において抜群の能力があると評価していたにもかかわらず、長年にわたり昇格試験を受験しなかったが、被告としては、このことは同人らがいずれも組合役員をしていた関係で自ら昇格することに躊躇いがあったものと考え、特別に昇格させるべきであると判断したことによるのであり、その後、甲森は、平成三年五月に被告の理事に選任され、平成五年五月から常務理事に就任し、平成七年一一月に被告の理事長に就任しており、また、乙村は、平成三年五月に梅屋敷支店長となり、平成五年五月に被告の理事に選任され、現在融資一部長、融資二部長、管理部長、外国部長を兼任している。

右認定事実によると、被告にあっての抜擢人事は、昇格制度運用規程上の特別措置としての昇格人事と規程上の根拠のない運用上の昇格人事とを指し、本件で争点となっているのは後者の昇格人事であるが、これは副参事以上の資格者の中から必要な職務遂行能力を兼備えた者を上位に昇格させる人事であって、このような人事政策は被告の専権に属する人事権の一行使態様であって、何人もその当否を論じる立場にはないとはいうものの、副参事以上の職員を対象とした人事であるから原告等には関わりのないことであるとの言い分はそれ程合理性を有するとは考えられず、かえって昇格試験制度下にありながら右のような人事政策が採られている以上原告等が副参事に昇格しないのは昇格試験に合格しないためであるとの被告の主張根拠を揺るがしかねないということができる。

最後に、政治的配慮からの副参事昇格についてであるが、《証拠省略》によると、被告は、昭和五七年度昇格試験において、無役の労組員を昇格試験の合格点に達していなかったにもかかわらず本人の努力を認め政治的配慮という理由で副参事に昇格させたことを認めることができる。

右無役の労組員の副参事昇格は政治的配慮といった極めて漠然とした理由による副参事昇格試験制度の例外的措置であって、このような人事政策が採られていたことは当時の人事政策の上で年功的要素を完全に払拭しきれていない面が残存していたのではないかとの疑念が残り、いずれにせよ、被告がこのような例外的措置を採りながら原告等に対しては昇格試験に合格しないから副参事に昇格しないとの被告の主張には十分な合理性が存するか疑問を抱かざるを得ない。

以上説示したところからすると、被告の人事制度は、職能資格制度に立脚した能力主義を基本としていたものであって、この資格付与に客観的な運用基準を確保するための一方策として導入されたのが昇格試験制度であったところに制度的な特徴を有していたといえるところ、職員の労働条件、とりわけ資格と賃金体系との直接的な対応関係の下にあっての資格付与を昇格試験の結果によっていたところに制度的限界があり、この限界を超えた具体的発現形態が給与年齢三三歳自動昇格制度、労組員及び従組員の一部男性職員に対する特別措置としての副参事資格の付与、労組員の一部男性職員に対する抜擢人事であったと理解することができ、女性職員をこのような救済措置の埒外に置いたところに原告等から被告の人事政策は年功序列によっていたと指摘されることとなった由縁が存したと考えられる。

(二) 意図的な女性差別政策ついて

原告等は、被告は原告等女性職員に対し、原告等主張の四点にわたった女性であることを理由とした不当な差別政策をとり続けてきた旨主張する。

ところで、そもそも昇格試験制度は、職員に対する能力に応じた平等な待遇を保障する人事政策としては優れていても、この制度が十分な機能を発揮するためには職員に対しての職務配置、研修等の面において同等の機会が保障されていなければならないことは原告等の主張するとおりであって、このような機会が保障されていないところに試験結果のみによって労働条件を決定することはかえって職員に対する不平等な制度として機能する面のあることを理解しなければならない。

以上の観点に立脚しながら、以下、原告等の主張を順次検討することとする。

(1) 基幹的業務からの排除(職務配置差別)について

原告等の入職以降の職務歴は前述したとおり預金・貸付・営業管理業務を主とした事務的業務に従事してきたのであり、原告等の主張する融資受付及び得意先係には配置されたことはなかった。

《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

被告の業務は、大きく分けて融資、得意先及び事務の各業務に大別され、各支店業務も新人事制度導入前は店舗長(同制度導入後は支店長)を最高責任者として事務課、融資課、得意先係の三部門に分かれており、事務係は資金方、テラー、オペレーター、別段・為替、庶務の五つに、融資係は受付、督促(担保)、融資事務の三つに、得意先係は営業、営業管理事務の二つにそれぞれ分かれており、右各係に一ないし数名の職員が配置されている。そして、右各業務のうちで、融資受付は融資適格と融資相当性の判断を伴う高度な業務知識を必要とする業務であり、得意先係は、集金業務、サービス業務、深耕業務ないし新規開拓業務及びコンサルテング業務を内容とし(一日三〇ないし四〇軒を訪問する。)、同様に高度な業務知識を必要とし、いずれも被告の業務の中で比較的重要な部門に属する。

右認定事実によると、融資受付及び得意先係の二業務を被告の基幹的業務というのであれば、原告等はいずれも被告の基幹的業務に配置されなかったし、また、《証拠省略》によれば、被告にあっては、男性職員を従組員の男性職員をも含めて一部の例外を除き、得意先係及び融資受付の双方かいずれかの一方に配置してきたけれども、女性職員については、これまで得意先係に三名を配置したことはあったものの、その業務範囲は得意先係配置の男性職員に比し年金の集金業務とか通帳のサービス業務といったように限定されており、どちらかといえば、男性職員の補助的業務を担当していたし、融資受付には、原告乙山・丙川・丁原と同期入職の前記甲沼一美が配置され、退職した昭和五〇年九月三〇日まで融資係長に就任していたし、その外に、融資受付を担当したことのある女性職員は原告甲田(但し、昭和四〇年ころのことで、預金範囲内の貸出に限定されていた。)等二、三名いるが、これらは例外的であり、この外に融資受付には配置されたことはなかったのであり、傾向としては、勿論それ相応の高度の判断を要する職務を担当していた女性職員はいたものの、女性職員の担当業務は高度な判断を必要としない定型的、補助的な業務が中心であったというところに特徴があることを認めることができる。

ところで、被告の男性職員と女性職員とに対する右のような職務配置上の異なった取扱いは被告のみに限った特別なことではなかった。すなわち、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

金融機関にあっての被告と同様の男性職員と女性職員とに対する異なった取扱いは、従前からの一般的傾向であって、金融機関において女性を得意先係に配置しこの業務に従事させるようになったのは最近のことであり、第二地銀を例にとってみると、最も早く女性渉外制度を導入したのは昭和五五年の株式会社東京相和銀行(本店所在地東京都中央区日本橋三丁目一一番二号)であり、その後同制度を導入したのは昭和六三年まで一〇数行にとどまっていたが、平成元年度以降新たに約三〇行が導入し、三年一二月時点での女性渉外員数は約一七〇〇名に及ぶようになったが、このうちの約八〇パーセントがパート採用者によって占められており、職務内容は、集金、満期管理、通帳等の返却等といった男性渉外行員の補助的な業務が殆どで、同制度の課題としては定着性にあって、勤務期間が四ないし五年と短いところにある。

他方、女性行員による渉外係は導入四〇行で三四四名、渉外行員全体に占める割合は一・五パーセントに過ぎず、東京都内の信用金庫五三金庫のうちで平成四年当初約一一行が女性渉外員を採用しており、職務内容も右第二地銀と同様で、男性職員と全く同様の渉外業務を担当させている金庫はない。

このように金融機関にあっての男性職員と女性職員とに対する職務配置上の取扱いが異なっていたのは、女性渉外制度の課題として定着性にあることが端的に示しているように、女性職員の勤務期間が男性職員に比し一般的に短期であるために高度な専門知識を習得養成するには至らなかったことに最大の理由があったのではないかと考えられ、被告の人事政策責任者である戊崎七夫が女性職員には未だ得意先業務及び融資業務を遂行することのできるほどに能力の達した職員がいなかった旨の証言は右のような趣旨に理解することができ、その外に、これまでの日本社会のそれぞれの時代における女性労働者の社会的役割分担及び主婦としての役割分担についての考え方等が大きく影響してきたのではなかったかと考えられる。

ところで、《証拠省略》によると、被告の各店舗における職務配置は、被告の主張するとおり、各店舗長(支店長)が各職員の能力・適性等を考慮して決定しているのであり、原告等の職務配置についても同様であったが、被告が女性職員を融資受付及び得意先係に配置しなかった主な理由は右に述べたと同様の理由にあったことを認めることができる。

しかし、被告の女性職員の平均勤続年数も年々長期となってきていることは前述したとおりであり、被告が係長以上に登用した前記極く一部の女性職員は十分その職責を果たしている状況にある(戊崎証言)ばかりか、右に述べた女性労働・社会的役割分担等の考え方の変化してきた現在にあっては、男性職員には将来の幹部として養成するために定型的・補助的な業務は勿論のこと、高度な判断を必要とする融資及び得意先業務をも担当させるが、女性職員には右のような男性職員とは異なった取扱いをするという人事政策は見直しを迫られており、本訴はこの現れではないかと考えられる。

もっとも、原告等のこれまでの職務配置に限定してみれば、《証拠省略》によると、被告は職員に対し、毎年適正配置の参考資料とするために担当職務に対する評価及び希望職務等を記載させた「自己開発申告書」の提出を求め、これを参考として職務配置等をなしてきており、原告等もこれに応じて「自己開発申告書」を提出してきたところ、なるほど、原告等のうちで融資係を希望職種として記載した原告もいるが、全く記載しなかった原告もおり、また、現在の担当職務の質・量及び適性については、全く記載しなかった原告もいるが、多くの原告等は適当であり、適している旨を記載していることを認めることができ、被告の原告らに対する職務配置が原告等の希望を全く無視してなされてきたということはできない。この点につき、原告等は、仮に希望する職務を記載したとしても被告の人事政策からみて無視されることは明かな状況下にあったので記載しても無意味と考えたから記載しなかったまでのことである等と弁解供述する。なるほど、被告は、従組からの適性職務配置の要求を常に受け続けていながらこれを受け入れるようなことはしなかったことが認められるから、原告等の右弁解供述に一応首肯し得るところがある。

しかし、被告の職員に対する職務配置は、被告の適材適所という観点からなされる人事政策事項であり、このことは広く被告以外の会社等にあっても同様であって、希望するとおりの職務を担当することのできないのが常態ということができ、このことは人事政策上やむを得ないことといわざるを得ない。

以上のとおりであるから、被告が原告等に対し融資受付及び得意先係に配置しなかったことをもって被告は原告等が女性であることを理由に差別的職務配置をしていたということはできず、融資受付及び得意先業務は常時顧客を相手とした業務であるから顧客との関わりのなかで業務を遂行しなければならないという内勤業務とは異なった外勤業務としての特質及び高度な業務知識を兼備えていなければならないこと等や、前述した女性職員の勤務期間、女性労働及び主婦としての役割分担等の時代的制約の下で考慮判断されるべき問題であって、原告等女性職員を融資受付及び得意先係に配置するか否かは被告の高度な人事政策事項に属し、男性職員を右のような職務に配置しながら原告等をそのような職務に配置しなかったことをもって直ちに被告が女性であることを理由とした差別的職務配置をなしてきたものと断ずることはできない。

以上のことは、例えば、《証拠省略》によると、被告は、平成二年三月三〇日、本部営業部勤務の原告戊原に対し、得意先係は営業課に所属することとなったので他の営業課員と同様外訪活動をして欲しい旨要請したところ、従組は、新人事制度について被告と交渉中であることなどを理由に右要請に反対し、仮に外訪活動を行うというのであれば期間を限定し、保安上の問題点(外訪活動を行う場合は必ず二名一組とし、集金業務を行わせないことなど)なども要求し、右要請に応じなかったことを認めることができることをみても明らかなとおり、被告が女性職員を融資受付及び得意先係業務担当とするには保安上の問題、取引上での対顧客関係(例えば、取引の場所・時間等)等の多くの解決されるべき障害事由があり、仮に、原告戊原の要求を認め、得意先業務を担当させるとした場合には、自由競争下で金融機関として存続することができるような状況にないことは明かである(戊崎証言)から、被告が原告戊原の要求を受け入れなかったことは当然のことであったといえる。

したがって、原告等のこの点に関する主張は、原告等の積極的な職務担当意欲を示したものとして理解することができるが、原告等の活躍のできる職場は外にはないわけではないから、理由があるものとして採用することはできない。

(2) 職務配置差別を通じての研修差別について

先ず、原告等の主張する女性職員は融資受付及び得意先係に配置されていないので、これらの分野に関する研修を受ける機会を与えられていないことによる不利益取扱いの点について検討する。

被告における職員研修制度については前述したとおりであり、原告等女性が融資受付及び得意先係に配置されていないことも前述したとおりであるが、この外に《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

被告における研修目的は、被告の基本方針達成のため、職員として必要な知識・技術・心構えを修得させ、すぐれた社会人としての教養を身につけさせ、もって地域社会の信頼に応えうる有能な職員を育成することにあり(研修規程二条)、そして、この目的達成のため、研修方針として四つの方針が定められており(研修規程三条)、その一は、全職員を対象とし、公平に行い、その二は、日常業務をとおしての職場内研修に重点を置き、その三は、入職時から退職時まで継続的・組織的に行い、その四は、職員の自己啓発を促進し援助することとされている。このような研修方針の下で、被告は、別表16「研修内容表」を作成し、これに従った研修を実施することとし、研修計画については、研修課長が関係部課長と協議の上、総合研修計画を立案し、理事長の承認を得てこの実施にあたることとなっている(研修規程九条)。

ところで、被告の研修体系は、昭和六一年四月一日に男女雇用機会均等法が施行された前後によって大きく異なり、施行前は別表17記載のとおりであり、施行後は別表18記載のとおりとなった。このように被告の男女雇用機会均等法施行後の研修体系は、大別して職場外研修(OFF・J・T)、職場内研修(O・J・T)及び自己啓発の三つに区分され、このうちの職場外研修のうちの集合研修は、職務別の研修が中心となっており、被告は、この研修対象者を当該職務に就いている者の中から決定しており、その職務に就いていない者が当然に受講できることとはなっていない。しかし、右のうち自己啓発講座は、その資格・職位に関係なく本人の希望によって受講することができ、被告は、職員の自発的な意欲に基づく自己啓発講座を重視しており、このうちの通信教育に関しての原告等が任意で自己負担により受講した状況は別表19記載のとおりである。もっとも、《証拠省略》によると、原告等は、被告が平成三年度に新人事制度導入にともない「係長職」の職員(男性職員四名と原告等一三名)に義務として被告の負担で労働省認可の管理者としての能力開発のための通信教育「管理者能力開発講座」(この講座内容は、ワークブックとテキストの二冊による六回にわたる通信教育で、金融機関における中間管理者の役割、管理者としての能力開発、部下の能力開発、職場の活性化というものであった。)の受講を申入れたが、従組が新人事制度を認めていないことを理由に右受講を拒否(拒否者は従組員の男性職員四名と原告等一三名)している。

右認定事実によると、被告の研修体系は男女雇用機会均等法施行前にあっては新入職員に対する研修についても男性職員と女性職員とにそれぞれ異なった研修を実施しており、男性職員に対しては被告業務のほぼ全般にわたった研修を実施していたのに対し、女性職員に対してはオペレーター業務に配属し、これを中心とした研修を実施していたのであり、このような研修は将来の担当職務を予定して、男性職員に対しては被告業務の広範囲にわたった研修を実施していたのに対し、女性職員に対しては比較的定型的・単純業務に対応した研修を実施していたということができるし、研修内容も、とりわけ集合研修にあっては資格及び職位によって研修内容が異なっていたから、当該資格及び職位にない職員には研修の機会が与えられていなかったといえる。

その後の男女雇用機会均等法施行後にあっては新入職員に対する右のような差別的研修を廃止し学歴別の研修を実施するようになったのであるから、この限りにおいては男性職員と女性職員との間に存した差別的研修はなくなったといえる。しかし、とりわけ職場外研修(OFF・J・T)は職位別研修が実施されているのであるから、当該職位にない職員には当該研修の機会が与えられていないといえる。

このように、融資受付及び得意先係に配置されなかった原告等がこれらに関する研修を受ける機会を与えられなかったことは原告等の主張するとおりであるが、資格及び職位によって研修内容を異にし、当該資格及び職位者に在る職員のみを対象とした研修を実施すること自体には当該職位の職務遂行能力向上という観点から合理的であるということができるから、このことをもって差別的研修であると非難することはできない。

原告等の主張は、女性であることを理由に融資受付及び得意先係に配置しないことが不当な差別であるというに帰着し、このことは研修自体の当不当の問題ではなく、右のような原告等に対する職務配置の当不当の問題であるから、この点に関する原告等の主張は採用しない。

次に、原告等女性職員は融資受付及び得意先係に配置されていないので、これらに関する通達類に接する機会がなく、これら通達類を通じて得られる業務知識を身につける機会が与えられていないとの点について検討する。

なるほど、《証拠省略》によると、被告の発する通達類は部門長・支店長宛であり、これらが部門長・支店長の判断で必要な部署にのみ伝達され、全職員に伝達されるようにはなっていないことを認めることができるから、それら通達類に最初に接することのできるのは当該部署に配置されている職員のみであり、融資受付及び得意先係に配置されたことのない原告等女性職員にはそれらに関する通達類に接する機会がなかったといえる。

しかし、融資受付及び得意先係に配置できる職員数には限度があるから、人事政策ないし能力の点を別にしても、原告等全員をそれに常時ないし一時的にせよ配置することのできないことは明かであり、原告等の主張するところは、何も原告等に特有の問題ではなく、原告等以外の全職員についても同様のことがいえるのであり、そもそも融資受付及び得意先業務に関する通達類に接する機会が与えられているか否かは職務配置とは関係のない通達類の配付ないし伝達の方法の在り方の問題に過ぎないのであって、この点を工夫さえすれば容易に解決することのできる問題である。

以上のとおりであるから、この点に関する原告等の主張には理由がない。

(3) 管理職にしないための差別的職務配置について

《証拠省略》によると、被告は、昭和四六年度から、金融環境の厳しさに対処することのできる職員の育成、戦力構造の偏向是正、採用難に伴う職員の早期戦力化等の目的をもって職務履修体系を導入し、これを同年度の入職職員から適用してきた。しかし、右職務履行体系は、被告の戦力構造の偏向、管理者層の理解の不十分などによって満足できる成果を得ることができなかった。このようなことから、被告は、昭和五〇年四月から被告の創立五〇周年を起点として右体系を改訂し、同制度適用について諸原則を定め、このうちの一つに管理者(管理者を便宜営業管理者と事務管理者とに分けるが、これは専門分野とは関係がない。)の必要職務履修条件として、営業管理者は、得意先、融資係(受付)、オペレーター、ロビーヤーテラー、融資係(担保・督促)、営業三課のうち四ポジションを履修したもの、但し、得意先、融資係(受付)及びオペレーターは必須のポジションとする、事務管理者は、庶務係、為替、オペレーター、資金方、ロビーヤーテラー、融資係(受付)、融資係(事務)のうち四ポジションを履修した者、但し、これらのうちオペレーター、融資係(受付)を必須ポジションとすることを定めた。

また、被告は従組に対し、本件和解協定締結交渉過程においても、管理者の必要職務履修条件として、営業管理者については、得意先係、融資受付、オペレーター、ロビーヤーテラー、融資(担保督促)のうち四ポジションを履修したもの、但し、得意先、融資受付、オペレーターは必修ポジションとすること、事務管理者については、庶務、為替、オペレーター、資金方、ロビーヤーテラー、融資受付、融資事務のうち四ポジションとすることを提案したことがあったが、これは本件和解協定の内容には取り入れられず、本件和解協定三三条二項として「本件和解協定に基づき必要となる研修については、組合員が適正に能力を発揮して職務を遂行できるように、被告は特別な職務ローテーションを組んで行う。」との定めとなり、同条項については「その実施に当たり、被告は、従組及び従組員の意見を聞く」との確認がなされ、その後、被告と従組とは、昭和五五年一〇月二一日、本件和解協定についての確認がなされ、このうちで研修に関しては、「在籍者も復職者と同一のカリキュラムで研修を行う。在籍者についてはできるだけ早く研修を実施する。三か月の特別休暇取得者も特別研修を受講する。効果測定については特別研修後一月実施分から受ける。」とされたが、集合研修については、その後職場での研修(O・J・T)に委ねることが合意された。

以上のとおり、被告は、右のような職務ローテーションを履修することが管理者となるために必要であると判断していたのであり、このような運用は管理者としての能力養成・向上等の観点から優れて合理的な制度と理解することができるところ、《証拠省略》によると、実際の運用面においては右の必須ポジションを完全に履修した職員のみが管理者に就任したということはなく、必須ポジションの全てを履修しない職員も管理者に就任してきた。もっとも、これらの職員についても得意先係と融資受付の両方かこのうちのいずれかを原則として履修させてはきた。例えば、営業課長乙崎九夫(昭和四九年四月一日入職)は、得意先係の配置が昭和四九年一〇月から五六年四月までで融資受付及びオペレーターには配置されていないが、五八年一〇月に本部係長に昇進している。事務課長丙島十夫(昭和四八年四月二日入職)は、四八年一〇月から五〇年四月までオペレーター、同月から五七年四月まで得意先係に配置されているが、融資受付には配置されないで五八年四月得意先係長に昇進し、融資課長丁塚一男(五〇年四月一日入職)は、殆どが得意先係と融資受付に配置され、オペレーターには配置されていないが、六〇年四月に融資係長に昇進したことを認めることができる。

ところが、原告等については、原告等の入職以来の職務歴からも明らかなとおり、入職以来の殆どの担当職務が事務課、融資課及び営業課であって、原告等の主張する融資受付及び得意先係には配置されていなかったし、原告等以外の女性職員についても、その殆どが事務課、融資課に配置され、融資受付及び得意先係には配置されなかったし、右配置された融資課の業務内容も事務的作業が中心の融資事務とか担保督促であったし、とりわけ、原告等が右の間に配置された営業管理係は、証拠によると、被告が本件和解協定締結後に原告等従組員を配置するために各店舗に特別に新設した部署であって、その担当職務内容は格別特定されておらず、各店舗によっては多少異なるものの、いわば雑用係ともいうべきものであって、新年にあたってのカレンダー巻等の作業程度であって、このような部署に原告等で長期の者は一〇年以上にわたり、短期の者でも三年間にわたり配置されていたことを認めることができる。

他方、男性職員については、《証拠省略》によると、被告に入職後約一〇年間にその多くが被告の業務の全般をほぼ経験することができるように配置され、原告等の主張する融資受付及び得意先係もその例外ではなく、仮に業務全般を経験するように配置されない事情が存したとしても、融資受付か得意先係かのいずれかに配置されるように配慮されてきた。このようなことから被告に入職した男性職員は、その殆どが被告の業務全般を経験することができたのに対し、女性職員は、長期間に亘り事務課、融資課に配置され、しかも、与えられた職務内容も比較的判断を要しない定型的・単純作業が多かったことを認めることができる。

そうすると、被告は、男性職員に対しては管理者となるために必修ともいうべき職務ローテーションを実施していたのに対し、女性職員に対してはこれの対象外としていたのであるから、この点においても男性職員と女性職員との間における差別的取扱いをしていたということができ、このことはとりもなおさず被告には女性職員を管理者に登用する意思がなかったことを推測させるに十分である。

しかし、被告の女性職員に対する右のような人事政策も、前述した女性職員の勤続期間の長短(もっとも原告等については当てはまらないが)、それぞれの時代の下での経済的・社会的諸事情を背景としてなされていたのであって、このような諸事情を考慮対象外として是非善悪を軽々に判断することができないということができるが、男女雇用機会均等法施行後も依然として改善された形跡の窺えないのは女性職員に対する人事政策上の対応の適切さにおいて些か疑問を禁じ得ないところである。

(4) 係長への昇進差別について

新人事制度導入後の平成四年四月一日に係長の職位が廃止されたことは前述したとおりであるが、それまでの間の係長(但し、《証拠省略》によると、係長には六つの部門、すなわち、営業企画係長、得意先係長、融資係長、ロビー係長、事務係長、外国為替係長に分かれていたことを認めることができる。)に昇進させるか否かの判断は、《証拠省略》によると、店舗長、部門長からの係長に昇進させることが相当であるとの進言により人事部において検討し、最終的には理事長が決定することとなっていたが、ここでの判断要素となるのは、職務遂行能力は勿論のこと、係長という管理者としての適性を人物・識見から総合的に考慮することにあったことを認めることができる。

ところで、被告職員の係長への昇進状況は前述したとおりであり、このことからも男性職員と女性職員との間には著しい格差の存することは否定できないが、このような著しい格差の生じた原因は、女性職員の勤続年数が平均的に短いので、係長昇進年齢に達するまでにその多くが退職することにあると考えられるが、勤続年数の長い女性職員についての説明とはならない。この点につき、被告は、被告において右に述べたような観点からの判断結果によったこと以外には説明していないことを認めることができる(被告の元人事担当責任者であった丁丘六夫は、女性職員は係長という職位に就任させるだけの能力がなかったからである旨証言している。)。

そうすると、従組員の男性職員全員と極少数の女性職員を除いた原告等女性職員とには、右のような観点から係長という管理者としての適性が認められなかったということとなる。

しかし、右従組員の男性職員全員と原告等女性職員とが係長に昇進した男性職員に比し能力的に劣っていたと認めるに足りる証拠はないし、かえって、証拠(原告等の各供述)によると、原告等女性職員はこれらの職員と同等あるいは同等以上の能力を有しているのではないかと認めることができ、これらの諸点を考慮すると、被告の係長登用が被告の主張するように職務遂行能力、係長としての適格性という観点によってのみなされたといえるか、疑問を抱かざるを得ないが、係長に昇進させるか否かは被告の人的組織の観点からなされる被告の専権的判断事項に属するから、係長昇進に右のような差別が存するからといって、職員にはこの是正を求める権限が当然にあるとはいえない。

(三) 副参事昇格試験について

原告等は、昇格試験制度、争点との関連においての副参事昇格試験の不公正・不公平であることを縷々主張するところ、試験制度が十分に機能するためには試験そのものが公平に実施されなければ試験制度自体が正当性を有し得ないことはいうまでもないところである。

以下、原告らの主張を右のような観点から検討することとする。

原告らの昭和六二年度の副参事昇格試験の結果は前述したとおりであり、この外に、《証拠省略》によると、原告等の副参事昇格試験の有無及びこの結果は別表20「昇格試験受験の有無一覧」記載のとおりであり、原告らの昭和六二年度と平成元年度の副参事昇格試験結果と合格最低点の比較などは別表21の(1)及び(2)、原告等の昭和五九年度及び六三年度の昇格試験での学科・論文の合格必要点数は別表22の(1)及び(2)各記載のとおりであり、主事から副参事への昇格試験の年度別、在級年数別の受験者数と合格(昇格)者数及び合格(昇格)率は前掲表10記載のとおりであることを認めることができる。

右のことから明らかなとおり、副参事昇格試験は、合格率が一〇パーセント前後(但し、昭和六一年度と六三年度は五パーセント台)で非常に難関な試験である。

(1) 副参事昇格試験の運用について

原告等は、副参事昇格試験に合格するためには係長に就任していることが絶対的条件となっている旨主張する。

係長に就任していることが副参事昇格試験合格の要件とはなっていないことは前述したところから明かであるが、副参事昇格試験の合格者は、《証拠省略》によると、昇格試験制度発足以降今日に至るまでの副参事昇格試験に合格して副参事に昇格した職員は、係長になっていない多数の職員も受験はしているものの、推進役に昇進していた六名の職員(昭和五六年度一名、但し、同人は五〇年度に係長に昇進していた。五七年度二名、但し、うち一名は五〇年四月に係長に昇進していた。五九年度一名、但し、同人は五三年四月に係長に昇進していた。六一年度二名、但し、うち一名は五六年四月に係長に昇進していた。)と係長に昇進していた職員のみであったことを認めることができる。

そうすると、副参事昇格受験資格は係長に就任していない主事にもあるとはいっても、副参事昇格試験制度の運用面をみる限りにおいては、主事資格取得後係長に昇進した職員がさらなる上位の資格を取得するための試験制度としては機能していたものの、係長に昇進していない主事資格者がさらなる上位資格取得のための制度としては全くといってよいほど機能していなかったということができる。

このような観点から原告等は、係長就任が副参事昇格試験合格の絶対的条件であると主張していると理解することができ、この主張にも機能的側面からみる限り真実な点を含んでいるということができ、このようなことから、被告職員の間においては係長に昇進していない職員は副参事に昇格することができないという共通認識ができあがっていたことも理解できる。

そうすると、昇格試験制度が能力試験とはいっても、係長に昇進させられることのなかった職員、とりわけ、係長昇進状況からも明らかな原告等女性職員にとっては厳しい試験であるということができる。

(2) 人事考課について

原告等は、被告の女性職員に対する人事考課は不公正・不公平であるとし、その理由を縷々主張している。

ところで、人事考課制度については、前述したとおりであり、評価方法は、《証拠省略》によると、業績考課は相対的評価でなされ、能力考課は絶対的評価でなされるのであり、評価分布は、業績考課でSが五パーセント、Aが二五パーセント、Bが四五パーセント、Cが二二パーセント、Dが三パーセントとなっており、能力考課はSABCDについて格別の定めはなされていないものの、これまでの結果をみると、A以上が約三割を占めている状況にあることを認めることができる。

そして、原告等の昭和五九年度から平成五年度までの人事考課についても前述したとおりである。

ところで、副参事昇格試験において人事考課の占める割合が五〇パーセントとなっていることは前述したとおりであるから、職能資格制度を能力主義的に運用するためには人事考課は不可欠の制度といえるとしても人事考課でいかなる評定を受けるかが副参事昇格試験に合格するか否かにとって決定的意味を持つことは原告等の主張するとおりであるし、さらにいえば、人事考課の評点は学科・論文試験の実施前に当該受験者には分かるので、悪い評点となっておれば学科・論文試験で極めて優秀な成績を収めたとしても合格できないのであるから、人事考課の評点の悪い職員には勉強意欲を失わせることは被告の元人事担当責任者の任にあった者も認めている。例えば、昭和五八年度、五九年度、六二年度の副参事昇格試験をみてみると、五八年度は、人事考課がS(三年連続)の場合は論文・学科試験で平均点(二六・一五)より下回っても合格することが可能であり、Aの場合は平均点を約三点上回る程度で合格可能である。これに対し、Cの場合は学科・論文試験が四六・三(一〇〇点満点に換算すれば九二・六)得点しなければ合格できないし、Dの場合には学科・論文試験を満点以上取得しなければ合格できない。人事考課が全てBの場合でも、学科・論文試験は五〇点満点で五八年度で平均点(二六・一)より一一・八五も高い三八点を、五九年度で平均点(二六・二九)よりも一三・九一も上回る四〇・二を取得しなければ合格できないし、BやCでは学科・論文試験を受けるまでもなく合格できない。他方、被告職員全体の能力考課は、A以上の者は昭和五八年度で三〇・八〇パーセント、五九年度で二九・四四パーセント、六一年度で三六・二七パーセント、六二年度で三六・三八パーセントであるから、他の年度についてもほぼ同様ではないかと推測でき、また、業績考課については前述のとおりS五パーセント、A二五パーセントであり、A以上の占める比率は三〇パーセントであるから、業績考課、能力考課ともに、A以上の者が約三割存することとなる。

ところで、副参事昇格試験は、昭和五八年度から平成元年度までの受験者の合格率は最低の昭和六一年度で五・一パーセント、最高でも平成元年度で一三・四パーセントというように極めて合格率が低い厳しい試験であるから、人事考課でAランクの評価を受けると、Bランクと評価された職員と比較して極めて有利な立場になることは明らかであり、人事考課でB以下の評定を受けた職員にはこのことだけで合格の可能性が全くなくなることは明らかである。

以下、原告等の主張に沿いながら人事考課制度の問題点について検討することとする。

① 評定要素について

原告等の人事考課は、全員が主事であるから、定期昇給の場合は「副参事・主事(係長・代理)」用、臨時給与の場合は「主事(一般職)」用によってなされることは前述したとおりである。

先ず、原告等は、評定要素は男性職員に比し女性職員は圧倒的に不利となっている旨主張するが、評定要素自体には男性職員と女性職員との間に何らの差別をも設けていないのであるから、評定要素が右のような男性職員と女性職員との間で有利・不利ということにはならない。

したがって、この点に関する原告等の主張は理由がない。

次に、原告等は、原告等に対する評定は係長に就任している男性職員に比して圧倒的に劣位に立たざるを得ない旨主張する。

原告等に対する能力考課の評定要素は、《証拠省略》によると、業務管理能力(仕事の側面)、人事管理能力(人の側面)、執務態度、基本的能力に分かれ、そして、業務管理能力の評価項目は、目標設定計画能力、組織化能力、問題解決能力、日常業務管理能力(職務遂行能力、判断力、企画力、折衝力)と、人事管理能力の評価項目は、伝達能力、部下育成能力、統率力と、執務態度は、責任感、積極性、協調性、規律性、原価意識、経営参画意識と、基本的能力は、業務知識、専門的知識、識見とそれぞれなっており、また、原告等に対する業績考課の評定要素は、仕事の実績、人事管理能力(人の側面)、執務態度に分かれており、そして、仕事の実績の評価項目は、仕事の質、仕事の量、目標達成度と、人事管理能力は、伝達能力、部下育成能力、統率力と、執務態度は、責任感、積極性、協調性、規律性、原価意識とそれぞれなっていることを認めることができる。

そうすると、主事という管理者とはいっても無役で部下のいない原告等に対しては、右の評価要素のうちでもとりわけ人事管理能力についての評定の仕方を如何にするかについては疑問を抱かざるを得ない。

この点につき、被告の人事担当責任者は、部下のいない職員については後輩に対する接し方等を観察することによって十分推測できる問題であるから、日常業務の中で捉えるように指導している旨証言しているが、定型的・補助的な業務しか担当していなかった原告等に対し、管理者の立場にあると称して右のような観点からの評定をなすことには疑問を抱かざるを得ないし、戊沼証言(第一回)も、全くできないということはないとの曖昧な証言をしつつも、困難なことを認めている。

さらに、右の評定要素は、原告等も指摘するように係長の職務権限と密接な関連を有することは否定できないから、無役である原告等の右のような考課査定を行うことにはそもそも無理があるのではないかとの疑念を否定できない。

したがって、評定要素に関しての原告等の指摘については以上の限りで肯認することができる。

② 評定者について

先ず、第一次評定者についてであるが、原告等主事資格職員に対する第一次評定者が副参事昇格試験のライバル的立場にある係長であったことは争いがなく、昭和五五年九月一二日制定・施行にかかる「人事考課規程」によると、評定は第一次評定、第二次評定を経て最終評定がなされることとなっており、原告等主事資格職員に対する第一次評定は係長、第二次評定は代理、最終評定は店舗長がなすこととなっており、新人事制度導入後の平成二年一一月一日制定・施行にかかる「人事評定規程」五条には、人事評定は第一次評定、第二次評定、全社調整を経て行い(一項)、第一次評定は直属上司(但し、係長ではなく、直属の課長となった。)が行い、第二次評定はその直属上司が行うことを原則とし(二項)、全社調整は店舗間、部門間の評定基準の不一致をチェックするために行い、調整を行う場合は店舗間、部門間の一律修正のみを行うことを原則とする(三項)とし、全社調整にあたるメンバーは理事長が決定する(五項)ことが定められており、上級・初級職員に対する第一次評定者は課長、第二次評定者は支店長であり、人事部長が各部門長からの具申を受けて調整・決定することが定められている(五項)ことを認めることができる。

このように原告等に対する第一次評定者が新人事制度導入後の平成二年一一月一日制定・施行にかかる「人事評価規程」までは原告等とともに副参事昇格試験を受験する立場にあった直属の上司である係長であったことは評定が公正かつ客観的になされるかにつき疑問を抱くことは首肯できないわけではないが、しかし、《証拠省略》によると、評定者は、人事考課の目的を十分に理解し、主観的判断を排除し、公正かつ客観的に評定をしなければならない責務を負っており(人事考課規程二条)、人事部は、定例的に評定者訓練を行うほか、評定者において特に問題があると認めた場合には本人に通知し、個別的指導がなされ(人事考課規程一七条)、実際このような評定者訓練を実施していたのであり、また、評定は、第一次から第三次まで行われ、店舗長代理が第二次評定者で店舗長が最終評定者となって、主観的評定のなされるのを排除し、公正かつ客観的に評定がなされるように運用されていることを認めることができるから、第一次評定者が係長であるということのみによって評定全体が原告等の主張するように不公正・不公平であると即断することはできないし、平成二年一一月一日以降は係長ではなく課長となったのであるから、この面からも公正さは一応担保されることとなったといえる。

また、評定者にいかなる職員がなるかは人事政策上の事柄であって、評定制度は、人事考課制度を採用している以上一つの合理的な制度であることは否定できないし、原告等とライバル的関係にあるとはいっても係長に就任している職員が第一次評定者となることは原告等に対する直属の上司が係長である以上は十分に合理性を有するし、やむを得ないところである。

原告等の主張は、結局のところ評定制度を否定することに帰し、採用できない。

次に、評定者が労組の元幹部である点についてであるが、《証拠省略》によると、原告等に対する昭和六一年度から六三年度までの評定者は別表5の(1)及び(2)記載のとおりであることを認めることができる。

右認定事実に、後記認定の従組と労組との対立関係の存在、被告の従組に対する対応と労組に対する対応とには著しい相違のあること等を総合考慮すると、被告にあっては役職者が殆ど労組出身者で占められており、従組員に対し労組員の殆どが排他的な考え方で接している状況下にあって、原告等に対する評定者が労組の元役員であったり、現役員であることは評定自体の公正・公平に疑念を抱く原告等の主張・供述にも首肯し得ないところがないわけではない。

しかし、核心は評定者に如何なる立場の職員がなっているかにあるのではなく、原告等に対し如何なる評定がなされたかにある。

原告等の主張は、結局のところ、組合間対立が存する場合には少数組合所属組合員に対する多数組合員の役職者ないし役職経験者が評定すること自体が不公正・不公平であるというに帰し、このことは職員の圧倒的多数が労組員である被告にあっては評定制度自体を否定することに帰することとなるのであって採用できない。

(3) 論文試験について

論文試験の比重が昇格試験全体の二〇パーセントであり、出題については被告において各級毎にテーマを決定していることは前述したとおりである。

原告等は、論文試験は不公正・不公平であると主張し、その理由を縷々述べる。

そこで、先ず、争点と関連する副参事昇格試験の論文試験問題をみてみるに、《証拠省略》によると、昭和五八年度から平成二年度までの論文試験の出題内容は、「自己啓発・自己研鑚を現在、あるいはこの一年間どのような方法で行ってきたか、それを仕事の上でどのように生かしていますか述べて下さい。」(昭和五八年度)、「金庫の収益向上を図る上で、業務推進上の課題は何か。自分の担当業務を通じて、どういう努力をしてきたかを述べて下さい。」(五九年度)、「金融自由化が進む中で、あなたは管理者としてどう対応しようと考えているか述べて下さい。」(六〇年度)、「あなたが副参事支店長代理として、どう支店(あるいは部・課)を運営していこうとするのか考えを述べて下さい。」(六一年度)、「あなたの担当職務をより金庫に役立たせるためには、どのような目標をたて、仕事の進め方をどのように改善したらよいと思うか、所信を述べよ。」(六二年度)、「管理者は部下を啓発し、育成する任務を負っています。部下を立派に育成するには、あなたは指導者としてどんな能力をもつべきかを述べ、あわせて今後、あなたがやろうとしている部下育成計画について論じて下さい。」(六三年度)、「① あなたが仮に店舗長代理または、現在所属する部門や役席に任命されたとしたら、現在の係りの活動をどのように改善し、方向づけていきますか。その抱負・所信を具体的に述べて下さい。② 生産性向上が自由化時代の金庫発展の重要なポイントになる。そこで、職員の意欲を高めるには、どうすればよいか、あなたの意見を具体的に述べて下さい。」(平成元年度、但し、一題を選択)、「① あなたの所属する課の翌年度の方向につき、(1) 重要課題(テーマ)、(2) なぜ、それが重要課題(テーマ)であるかの理由、(3) 重要課題を実行するための具体策の三つの観点で所見をまとめて下さい。② コミュニケーションの強化は組織にとって大切です。コミュニケーションをよくするにはどうすればよいか。上下左右のコミュニケーションの必要である課長職の立場で所見を述べて下さい。」(二年度)であったことを認めることができる。

右認定したところによると、論文試験各出題内容は副参事となった場合の管理者としての管理能力を問うものであって、このことは副参事昇格試験としての性格上至極当然のことであったということができる。

原告等は、管理者の立場からの回答を求めるものであるから無役である原告等には明らかに差別的である旨の主張をする。

なるほど、これまでの論文試験問題は管理者としての立場からの回答を求める出題内容が多いところから、いずれも管理者的立場での職務ではなく、定型的・補助的な業務にのみ携わってきた原告等女性職員には回答が極めて困難な問題であることは率直に認めざるを得ず、反面、係長に就任している職員は管理者としての研修、定期的な会議等において出題内容に関連した議題の検討等に関わっているところから、日常不断に出題傾向に沿った問題を考える機会に恵まれているということができ、この面において係長に就任している職員にとっては有利といえる。

しかし、被告も原告等に対し、前述したとおり、原告等が申入れを拒否したが、管理者としての能力開発のための通信教育の受講を申し入れて能力向上を図ろうとしたのであって、このことは率直に評価しなければならず、そもそも能力向上は意欲と努力とによって図られるべきことであって、被告から与えられなければ能力向上が図られないなどとの他力本願の考え方には賛同できないし、論文試験問題も管理者としての立場から回答を求めているのが多いとはいっても、書物や新聞等によって管理者としての意識を高める機会はいくらでもあるのであるから、この点に関する原告等の主張には全面的に賛同することはできない。

次に、原告等の主張する問題内容が抽象的であるとの点は、何をもって抽象的と評するのか明かではないが、副参事としての管理者能力を問う論文試験の性格上ある程度の抽象的出題内容となるのはやむを得ないところがあり、出題内容自体を抽象的と批判する原告等の主張は相当でない。

さらに、原告等の主張する採点者の主観により採点が大きく左右されるとの点は、原告等の主張する主観の意味内容が明らかではないが、主観を採点者の価値観、世界観、人生観等といった内面的精神活動を意味するものとするならば、論文試験の目的とするところは学科試験では評価することのできない受験者の総合的な知識・判断力を試験するところにあるから、右のような内面的な精神活動を捨象したうえで採点することを採点者に期待することはそもそも無理ではないかと考える。

もっとも、《証拠省略》によると、被告にあっては、論文試験の採点が不公平とならないように採点者として役職者を二名任命し、それぞれが受験者全員の回答を採点し、両者間に著しい格差が発生しないように協議・調整の場を設けて公平を期するように運用していることを認めることができる。

最後に、原告等は、係長が非係長に比し圧倒的に有利である旨主張する。

なるほど、出題内容は管理職に就任している職員は相対的に有利であることを否定できないことは前述したとおりである。

しかし、係長は原告等にとって日常の職務遂行過程における直属の上司であるから、その職務遂行過程において問題意識を有しているならば格好の検討材料ともなり得るということもできるのであって、このような観点から管理者意識を高めることも可能であるということができるし、そもそも原告等に前述したような能力向上の意欲と努力とがあるならば書物、雑誌等によって勉強することによって克服できないわけではないから、この点に関する原告等の主張にも全面的に賛同することはできない。

また、原告等は、係長は各種研修を受ける機会があり、出題内容はこの研修内容と密接に関連しているので、係長にとって極めて有利である旨主張する。

なるほど、係長研修については前述したとおりであり、このような研修を受けている係長にとっては回答することに有利な立場であることは否定できない。

しかし、この点に関する原告等の主張も前述した原告等の意欲と努力とによって克服することができる問題であるから、全面的に賛同することはできない。

(4) 学科試験について

学科試験の比重は昇格試験全体の三〇パーセントであり、業務知識と専門知識との二つに区分され、業務知識は事務編、融資編、得意先編の三分野から出題され、専門知識は金融法務編、税務編、財務分析編の三分野から出題されること及び全体に対する比重が業務知識二〇パーセント、専門知識一〇パーセントであり、配点割合は、業務知識につき、店舗在勤者については担当職務編を四〇点、他の二編を三〇点とし、本部在勤者については選択した編を六〇点、他の二編を各二〇点とし、得点の二〇パーセントの数値を全体の評価項目中の得点とし、業務知識につき、三編を各三〇点の合計九〇点満点とし、得点の九〇分の一〇〇を乗じて換算し、この一〇パーセントの数値を全体の評価項目の中の得点とすることも前述したとおりであり、そして、原告等全員が受験した昭和六二年度と平成元年度との副参事昇格試験の学科試験の結果も前述したとおりである。

先ず、原告等は、原告等女性は融資受付及び得意先の職務に配置されないので、これら係に配置されている男性職員あるいは配置されたことのある男性職員に比し、融資及び得意先に関する業務知識習得のうえで不利な立場にあるばかりか、これらに関する知識習得の機会をも奪われている旨主張する。

なるほど、業務担当をすることによって当該業務担当職員は当該業務遂行過程において当該業務に関する知識を習得していなければならないから、習得するように努力しなければならないであろうし、業務遂行過程において生起するであろう諸問題について解決を迫られることもあろうことからこれらに関する勉強をする機会に恵まれているということもでき、また、同僚・諸先輩から指導を受けたりすることの機会に恵まれているということができるのであろう等から、当該業務を担当している職員はこれを担当していない職員に比し、当該業務に関する知識習得の機会に恵まれているということが一般的にはいうことができ、また、業務知識の習得も当該業務を担当していく過程での方が単に解説書等によるよりも一層身に付いたものとなることも異論のないところであろう。原告等の主張がこのような観点からなされているのであればもっともなことであるといえるが、業務担当しているかしたことのある業務範囲以外からの出題については業務担当しているかしたことのある職員に比し不公正・不公平といえるかはなお検討を要するところである。

そこで、原告等が全員受験した昭和六二年度と平成元年度の副参事昇格試験学科試験問題と試験結果とを検討してみるに、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

昭和六二年度業務知識事務編は、二〇問で、被相続人の一人に対する残高証明書の発行と守秘義務、仮払金勘定の意義、定期預金の期限前解約、預金と差押え、紛失届と小切手の提示、総合口座、普通預金の意義等に関する問題であり、融資編は、二〇問で、相殺の差押債権者に対する対抗力、債務者の変動、法的整理の態様等に関する問題であり、得意先編は、しばしんスイスフラン通知預金の意義、事業者カードローンの意義、債権者利回りと価格、定期預金払込関連事故防止策等の問題である。専門知識の財務分析編は問一、二(但し、二〇の小問に分かれている。)に分かれ、固定化比率、固定長期適合率、自己資本比率と会社の安全性、資本構成、勘定科目性格別分類等に関する問題であり、税務編は、五問(但し、問一が四つの小問に分かれ、問五が空欄四つに数値を記入するようになっている。)で、配偶者控除、相続税の課税価格の合計額算出方法、受贈財産と贈与税額の算出方法、法人税法上の損金不算入科目と引当金等に関する問題であり、金融法務編は、五問で、遺言の効力、利息及び割引料、根抵当権と極度額、買戻請求権、代位弁済に関する問題である。

平成元年度業務知識事務編は、二〇問で、定期預金、手形不渡、預金口座、白地手形等に関する問題であり、融資編は、二〇問で、信用状付輸出手形買取り、中小企業金融公庫の特別融資、全国信用金庫連合会の事業資金、地上権、登記、抵当権の効力、共同担保等に関する問題であり、得意先編は、満期管理、大口定期預金、店舗業務の向上の基本課題、相続税の基礎控除額、民法上の法定相続分等に関する問題であり、専門知識の財務分析編は、問一、二(但し、問一は空欄一〇に下記語群から選択記入形式で、問二が五つの小問に分かれている。)に分かれ、損益計算書の仕組み、貸借対照表からの安全性、活動性の比率計算に関する問題であり、税務編は、六問(但し、問六は空欄一〇に数値の記入形式)で、雑所得と税額控除、寄付金控除の対象、譲渡資産の取得費、相続税・法人税の課税標準と所得、土地譲渡と所得税・住民税額の算出方法に関する問題であり、金融法務編は、五問で、債務引受け、相殺、連帯保証と時効中断、根抵当権と元本確定、信用金庫取引約定書に関する問題である。

そして、試験結果(但し、単純に正解問数で必ずしも採点とは一致しない。)は、別表23の(1)及び(2)記載のとおりである。

以上の認定事実によると、試験問題は単なる常識の範囲を超えたかなり高度な専門的知識を問うものであるから、事前の十分な準備を必要とすることは否定できないが、原告等の試験結果は、受験者全体の得点を認めることのできる証拠がないので受験者全体との比較はできないものの、良好な得点をした原告もおれば極めて低い得点しか得られなかった原告もおり、原告等間にかなりの得点差が存するのであり、総体的にみるならば、一部の原告を除き、専門知識の得点が低いといえる。

ここで、原告等が問題としている業務知識の融資編及び得意先編の得点をみると、他の編との比較で総体的に高得点にあるということができ、両年度の試験結果をみる限りにおいては原告等が融資及び得意先係に配置されたことのなかったことが必ずしも直接的に試験の合否に影響を及ぼしていると認めることはできない。

以上のことの外に、学科試験については次のような事情も考慮されるべきである。すなわち、《証拠省略》によると、被告にあっては、毎年度、昇格試験受験者の便益に供するために、論文試験のみならず学科試験についても出題範囲につき各等級とも昇格試験学科試験ガイダンスを試験の一ないし二か月前に配布し明示しており、例えば、昭和六二年度の副参事昇格試験学科試験ガイダンスによると、融資編には、約定相殺の留意点(昭和四五年六月二五日最高裁判決)、債務者の変動(個人債務者の死亡を含む)、法的整理の態様、得意先編には、事故の未然防止について、スイスフラン通知預金について、事業者カードローンについてとなっていることを認めることができ、平成元年度についても同様のことが認められるから、右ガイダンスに沿って準備をすればある程度の回答をすることも可能ではないかと考えられるし、そもそも知識習得の機会は何も融資や得意先の職務に配置されていないからといってこれらに関する知識を習得することができないというものではなく、書物や雑誌等によって勉強するという本人の意欲と不断の努力とによって習得することも可能であると考えられるし、《証拠省略》によると、本部勤務の男性職員は現場の経験がなくとも事前の準備をして受験しているのであるから、原告等と条件が著しく異なるということはなく、被告も、業務知識の三分野の配点を直接業務に接する機会のないことを考慮して受験者の負担を軽減する目的で、店舗在勤者については平素担当している分野については四〇点、その外の分野については三〇点、三〇点の配点にしており、本部在勤者については、融資及び得意先業務とは関係がなく、コンピュータ部門とか経理証券部門等に配置されていることから、選択した分野については六〇点、その外の分野については二〇点、二〇点と配点して配慮していることを認めることができる。

以上認定した事実を総合考慮すると、当該受験者の担当業務如何によって一般的に学科試験の難易度に有利・不利の生じることは認めざるを得ないが、このことが試験結果の合否に直接大きな影響を及ぼすほどのことではなく、受験者の不断の努力によって補うことができ、合格点を得ることも可能ではないかと考えられ、これまでの合格者はこのような努力を積み重ねることによって合格することができたものと容易に推測することができる。

もっとも、学科試験受験前に受験者に人事考課の結果が給与明細書に基づいて換算計算することにより分かることから、人事考課の結果の良くない受験者にとっては学科試験でいかなる高得点を得ようと合格しないのであり、例えば、原告等全員が受験した昭和六二年度と平成元年度の副参事昇格試験をみると、仮に学科・論文試験が満点として合格最低点を得ることのできる原告は、昭和六二年度で原告乙山、丙山の二名、平成元年度で原告乙山、乙原、丙田の三名のみであり、外の原告は不可能な満点以上の得点を得なければ合格しないし、そもそも満点を得ることは奇跡に近いことは明かであるから、原告等は人事考課の評点のみで副参事昇格試験に合格しないことが明かであり、このような原告等に対し事前に十分な準備を期待することは酷である等の原告等の主張ももっともなことであるが、このことは人事考課自体の問題であって、仮に人事考課が極めて不当になされたとしても学科試験自体が直ちに原告等の主張するように不公正・不公平であるとまでいうことはできない。

よって、この点に関する原告等の主張は、心情的には同情することができるものの、全面的に肯認することのできるところではない。

次に、原告等は、融資受付及び得意先係に配置されていない原告等女性職員は、それらに関する研修を受けられず、通達類が配布されないから知識修得の機会を奪われているとか、学科試験の出題内容が係長、とりわけ、融資係長及び得意先係長の職務に関連する問題が圧倒的に多いうえに、係長研修が行われていることから、係長に圧倒的に有利である旨主張する。

そこで、先ず、係長の職務権限に関してみるならば、《証拠省略》によると、係長の共通職務権限は、店舗経営計画(例えば、「上司に対し、店舗経営について積極的に意見具申を行う」、「店舗経営計画・予算の立案に関し、建設的な進言を行う」等)、業務活動(例えば、「担当業務の推進を通じて、会員・取引先の繁栄に協力する」、「諸文書、報告、統計、資料及び情報への作成・閲覧・活用を統括する」等)、係の運営管理(例えば、「係員の職務分担を立案する」、「係員各自の職務遂行基準または目標を調整・立案する」等)及び人事管理(例えば、「係員の職場内教育訓練実施計画を立案し、実施する」、「係員の職務習熟の把握と業務管理を行う」等)にあって、いずれも管理者としての職務権限が内容となっているのであり、また、各係の係長の職務権限も各係員の指揮・監督といった管理者としての内容となっているのであり、これらの職務権限と副参事昇格学科試験問題、例えば、前述した昭和六二年度及び平成元年度の副参事昇格学科試験問題とは直接的な関連性があるとはいえないことを認めることができる。

また、係長研修も、《証拠省略》によると、右の係長の職務権限を中心として実施されていることを認めることができるから、係長研修が行われていることが係長にとって副参事昇格学科試験に直接的に有利・不利に働くということはできないことを認めることができる。

以上のとおりであるから、係長に就任していることがこれに就任していない職員に比し副参事昇格学科試験のうえで直接的に原告等の主張するほどに有利であるということはできないから、原告等のこの点に関する主張は理由がない。

次に、通達類に関してみるに、通達類は、これに関する部門長・店舗長宛に発せられることは前述したとおりであるから、それら職務を担当していない職員には通達類を閲覧する機会がないということができ、この観点からいう限りは原告等は、その担当職務以外の分野についてその通達類に接する機会に恵まれていないということができる。

しかし、通達類に接する機会に恵まれていたか否かという観点からみる限りにおいては、原告等以外の職員(例えば、本部勤務職員や他の係に配置されていた職員等)についても同様のことがいえるのであって、ひとり原告等のみが不利な立場に置かれていたということにはならないし、なるほど、通達類を閲覧していたとするならば過去の学科試験問題の回答で有利となった問題が一部あったことは認められるが、しかし、このことによって試験結果にまで影響を及ぼすことになったとは考えられず、また、このような証拠もなく、そもそも学科試験の準備は前述したとおり本人の意欲と努力とによってなすべきものであって、被告から与えられるのを待つという受動的態度であってはならず、また、受験準備も書物、新聞雑誌等によって十分可能であるから、この点に関する原告等の主張には賛同できない。

(四) 原告等の勤怠関係及び能力等

(1) 原告等の勤怠関係

原告等の勤怠関係については前述したとおりであり、これによると、原告等はいずれも無断遅刻・無断早退・無断欠勤をしてはいないからこの点においては何ら問題はなく、平成二年度ないし五年度までの間の勤務状況をみても、欠勤した原告等はおらず、遅刻は、原告乙野が二三回で一番多く、次いで原告乙山の一一回、原告丙山の八回が多く、原告丙川は一回もなく、その余の原告等は三ないし四回であり、早退は、原告丙山の一九回が一番多く、次いで、原告乙野の一二回、原告甲田、丁川の各八回が多く、その余の原告等はいずれも一ないし二回程度である。また、懲戒処分については、前記のとおり、原告甲野が懲戒解雇処分を受けたが、本件和解協定一一条でその処分日に遡って撤回され、原告丙山は、保養所の利用者名が異なった者で利用したことを理由に寮利用禁止の処分を受けたが、本件和解協定一〇条で今後不利益取扱いの対象としないことが確認され、その余の原告等は懲戒処分を受けたことはなく、懲戒処分以外の始末書・顛末書提出は、原告甲野、丁川、乙原がそれぞれ一回あるが、その余の原告等は一度もない。

なお、原告等の健康状態についても特別問題とすべき点は本件証拠上認められない。

そうすると、原告等の勤怠関係については、原告等のうち原告乙野、乙山、丙山の三名の遅刻の多いことと、原告丙山、乙野、甲田、丁川の早退の多いことが注目されるところであるが、このことが被告職員全体の中でどのような評価となるかは本件全証拠から窺い知ることができないので、原告等の勤怠関係は普通以上であったものと認める。

(2) 原告等の能力等

原告等の珠算資格(但し、原告乙山については、弁論の全趣旨によると、日本商工会議所の珠算二級取得者であることを認めることができる。)、社団法人全国信用金庫主催の証券業務外訪担当者研修認定終了については前述したとおりであり、また、原告丙田、甲川は簿記二級の、原告丁川、戊原、乙原は簿記三級の資格をそれぞれ取得しており、原告甲川は、平成二年度全信協上級実務試験に合格していることも前述したとおりである。

ところで、被告は、原告等の職務遂行能力に関し、主に原告等の違算について指摘しているところ、原告等の提出した出納過不足金報告書については、前記争いのない事実の外に、《証拠省略》によると、被告の右指摘にかかる事実を認めることができる。

そうすると、原告等のうちで比較的過剰金及び不足金を発生させたのは原告戊原、乙原、丙田の三名であるが、《証拠省略》によると、金融機関である被告に勤務する職員にとっては多様な違算事故の発生は不可避的な面があり、これを零にすることは極めて困難であること、原告戊原の昭和五四年度から五五年度にかけての過剰金及び多くの不足金の発生は同原告が四九年四月一日から五五年三月三一日までの五年間に及ぶ沼袋支店などにおける営業管理係から入職以来初めての経験の預金課係(資金方)に配置されたことによる不慣れによるものであることを認めることができ、右原告三名の違算事故発生が被告職員全体の中で多いのか少ないのかを判断するに足りる証拠はないから、右原告三名の違算事故の発生を同原告等の職務遂行能力の消極的要素として考慮することができるものの、これが同原告等の職務遂行能力の欠如と判断することは困難である。

次に、原告等の職務遂行能力に関して被告の指摘する違算事故以外の点をも含めて検討する。

① 原告甲野について

原告甲野の職務歴は、前述したとおり、預金係等の融資関係業務が一三年七か月、住宅金融公庫等の個人融資関係業務が八年一〇か月、営業管理的業務が九年一〇か月の従事となっており、昭和五一年八月一六日に被告から懲戒解雇処分を受けて本件和解協定により右処分が撤回され職場復帰するまで四年三か月の期間が存する。

右懲戒解雇処分の存在については、本件和解協定において今後不利益取扱いをしないことが協定されており、原告甲野については、右各職務遂行において格別その能力不足を窺わせるような証拠もない。

② 原告乙山について

原告乙山の職務歴は、前述したとおり、預金係等の事務関係業務が九年八か月、融資係(担保督促)等の融資関係業務が一二年六か月、営業管理業務が七年六か月で、その間に二年六か月間の業務上疾病による休業期間が存する。

原告乙山は、上井草支店勤務中の昭和六一年に、店舗長から、担保督促の仕事を良くしていると褒められたとか、平成四年当時も、支店長から担保の仕事は完璧だと褒められたとか、不動前支店勤務中の現在も支店長から、火災保険関係の業務を良くしているといわれている等と供述(第三回)しており、原告乙山については右の間に職務遂行能力につき、これが格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

③ 原告丙川について

原告丙川の職務歴は前述したとおり、預金係(普通預金等)等の事務関係業務が三年一一か月、融資係(担保督促)等の融資関係業務が二二年九か月、営業管理業務が五年であり、融資関係業務に従事した期間が比較的長い。

原告丙川の右の間の職務遂行能力については、これが格別劣っている等の事情を認めるに足りる証拠はなく、同原告は、右の間普通ないしこれ以上に創意工夫をこらして努力して処理してきた旨を供述している。

④ 原告丁原について

原告丁原の職務歴は前述したとおり、預金係(定期預金等)等の事務関係業務が一六年六か月、融資係(担保等)の融資関係業務が一二年、営業管理業務が三年八か月である。

被告は、原告丁原については、三田支店で融資係として勤務中の平成六年四月当時のキャリヤとしての物足りなさがあると指摘されたことがある旨主張する。

しかし、右の点は抽象的で漠然としているし、原告丁原は、支店長からもっと広く深くといわれたが趣旨が分からなかった旨供述している(第二回)ように具体性に欠けるし、他にこの点を明らかにすることのできる証拠もないから、右のことをもって同原告の職務遂行能力を消極的に評価することは困難である。

他に、原告丁原が右の間に職務遂行能力につきこれが格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

⑤ 原告戊田について

原告戊田の職務歴は前述したとおり、預金係(当座預金等)等の事務関係業務が一三年八か月、融資係(担保等)等の融資関係業務が一一年八か月、営業管理業務が一四年四か月であり、営業管理業務に従事した期間が比較的長い。

被告は、原告戊田は大森支店で融資係(事務)として勤務中全体の業績・業務面に対する配慮に欠如していた旨主張する。

しかし、右の主張自体抽象的で漠然としているし、これを認めるに足りる証拠がないばかりか、原告戊田は、与えられた仕事は十分に遂行していた旨供述しているのであるから、右の点を同原告の職務遂行能力の消極的要素として評価することはできない。

他に原告戊田につき、右の間の職務遂行能力につきこれが格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

⑥ 原告甲田について

原告甲田の職務歴は前述したとおり、貸付係(受付等)等の事務関係業務が二一年八か月、融資係(担保督促等)の融資関係業務が一五年三か月、営業管理業務が一〇年六か月であり、営業管理業務に従事した期間が比較的長い。

被告は、原告甲田は西小山支店で事務課に勤務中の平成五年当時、迅速性に欠け、係長として要求される積極性、意欲に欠けていた旨主張し、平成三年当時の上司も積極性に欠けていた旨の陣述書を提出している。

しかし、右の指摘も抽象的で漠然としていて具体性に欠けるばかりか、原告甲田は、上司の課長から仕事は良くやっているが指導性を発揮して欲しい旨述べられたが、部下がいないので、言われた趣旨が良く理解できなかった旨供述している(第二回)から、右の点を同原告の消極的評価とすることはできない。

他に原告甲田につき、右の間の職務遂行能力につきこれが格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

⑦ 原告乙野について

原告乙野の職務歴は前述したとおり、預金係(当座預金等)等の事務関係業務が八年、融資係(担保督促等)の融資関係業務が一七年二か月、営業管理業務が三年、本部勤務が四年である。

原告乙野は、前述したとおり融資係(主に融資事務)の職務が長く、融資事務に関しては自他共にベテランであると認められ、上司の課長からも後輩等の指導を依頼されるほどである(原告乙野の第一回供述)。

ところで、被告は、原告乙野については、雑色支店で融資課に勤務中の平成五年一二月当時に休暇が多いことによるチームワークの欠如が見られた旨主張する。

しかし、右主張は、主張自体抽象的で具体性に欠けるばかりか、原告乙野は、言われたことはなかったとの否定的供述をしている(第二回)から、右の点を同原告の消極的評価とすることはできない。

⑧ 原告丙山について

原告丙山の職務歴は前述したとおり、預金係(テラー等)等の事務関係業務が七年六か月、融資係(担保等)の融資関係業務が八年六か月、営業管理業務が一一年一〇か月、本部勤務が一年四か月であり、営業管理業務に従事した期間が比較的長い。

原告丙山は、右の間、同原告なりに創意工夫をこらして努力してきた旨供述しており、同原告に関し、格別能力的に問題となるような点は本件証拠上認められない。

被告は、原告丙山は西小山支店で融資係(担保)として勤務していた昭和五五年当時店舗長から自己啓発、協調性に欠ける点を指摘された旨主張する。

しかし、右主張自体抽象的で漠然としており、原告丙山は、荏原町支店から梅屋敷支店に転任となった昭和六一年頃、顧客から勤務中良くしてもらったことの謝礼として送別会までして貰ったとか、梅屋敷支店勤務中の上司の課長から仕事が早く良くできる旨褒められた旨供述しており、他に同原告につき、職務遂行能力の上で格別問題となるような事情の存することを認めるに足りる証拠はない。

⑨ 原告丁川について

原告丁川の職務歴は前述したとおり、預金係(当座預金等)等の事務関係業務が七年六か月、融資係(担保督促)の融資関係業務が一三年二か月、営業管理業務が七年六か月である。

被告は、原告丁川については、昭和六一年一〇月一日から平成三年三月までの西小山支店融資係として勤務していた当時、積極性に欠けていたので同支店融資課長に指導された旨主張する。

しかし、右の点も抽象的で具体性に欠け、他に原告丁川につき、右の間の職務遂行能力の点で格別問題となるような事情を認めるに足りる証拠はない。

⑩ 原告戊原について

原告戊原の職務歴は前述したとおり、預金係(出納補助等)等の事務関係業務が一〇年七か月、融資係(担保督促)の融資関係業務が一年九か月、営業管理業務が九年六か月、本部決済関係業務が六年四か月である。

被告は、原告戊原は平成三年四月一日から六年三月までの日本橋支店上級事務担当として勤務していた当時、同支店支店長から違算零目標を掲げていたのに二件の違算を発生させたのでもう一段の努力を要することを指摘されるとともに、仕事に対する改善努力が希薄なことを指摘する中で評定は「C」であることを伝えられたとか、平成六年四月一日から梅屋敷支店での勤務中注意力不足による調査表の入力ミスがあったとか、主張する。

しかし、右の点も抽象的で具体性に欠け、他に原告戊原につき、右の間の職務遂行能力の点で格別問題となるような事情を認めるに足りる証拠はない。

⑪ 原告甲川について

原告甲川の職務歴は前述したとおり、預金係(普通預金等)等の事務関係業務が五年、融資係(担保等)の融資関係業務が七年八か月、営業管理業務が五年一〇か月であり、この間の昭和四七年四月から八年八か月にわたり業務上の疾病で休業している。

被告は、原告甲川は新城支店で融資課勤務中の平成四年当時の係長職としての不十分さが存した旨主張する。

しかし、右の指摘も抽象的で具体性に欠けるばかりか、原告甲川は、平成四年当時、支店長から融資係の勤務が長いので安心して任せられると述べられた旨の供述をしているから、右の点を同原告の消極的な評価とすることはできない。

他に原告甲川につき、右の間の職務遂行能力の点で格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

⑫ 原告乙原について

原告乙原の職務歴は前述したとおり、預金係(為替等)等の事務関係業務が一九年八か月、融資係(事務)の融資関係業務が一年、営業管理業務が六年六か月である。

被告は、原告乙原は西小山支店勤務当時戊内支店長から常々上級事務担当として期待はずれであり、不十分であるという指摘を受けていた旨主張するが、右の点も抽象的で具体性に欠けるばかりか、これを認めるに足りる証拠もない。

原告乙原は、戊内支店長から臨給受額の際、早くて正確であるとの評価を受けていたばかりか、西小山支店から梅屋敷支店に勤務することになったが、同支店長から一二月の臨給を受領する際、非常に高い職務遂行能力を持っている旨述べられたというのである。

他に原告乙原につき、右の間の職務遂行能力の点で格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

⑬ 原告丙田について

原告丙田の職務歴は前述したとおり、預金係(当座預金等)事務関係業務が一五年八か月、融資係(担保等)の融資関係業務が五年八か月、営業管理業務が四年一〇か月である。

原告丙田につき、右の間の職務遂行能力の点で格別劣っていた等の事情を認めるに足りる証拠はない。

(3) 原告等に対する考課査定

原告等に対する昭和五九年度から平成五年度までの人事考課は前述したとおりであり、この考課の相当性も副参事昇格試験との関連で本訴における重要な争点となっているので、以下、この点について検討する。

原告等の勤怠関係と能力等については前述したとおりであるが、原告等の人事考課を全職員との対比で昭和五六年度、五九年度、六一年度、六二年度の四年間に限って検討してみると、《証拠省略》によると、次のとおりであることを認めることができる。

① 定期昇給

ア 昭和五六年度

a 全職員

Sが〇・四パーセント、Aが三〇・四パーセント、Bが五九・一パーセント、Cが六・二パーセント、Dが三・九パーセント

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが一名(七・七パーセント)、Cが五名(三八・五パーセント)、Dが七名(五三・八パーセント)

イ 昭和五九年度

a 全職員

Sの該当者はいない。Aが三〇〇名(二九・四四パーセント)、Bが五六五名(五五・四五パーセント)、Cが一二九名(一二・六六パーセント)、Dが二五名(二・四五パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが四名(三〇・七七パーセント)、Cが八名(六一・五四パーセント)、Dが一名(七・六九パーセント)

ウ 昭和六一年度

a 全職員

Sが三名(〇・三三パーセント)、Aが三二六名(三五・九四パーセント)、Bが四八〇名(五二・九三パーセント)、Cが八九名(九・八一パーセント)、Dが九名(〇・九九パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが三名(二三・〇八パーセント)、Cが八名(六一・五四パーセント)、Dが二名(一五・三八パーセント)

エ 昭和六二年度

a 全職員

Sが五名(〇・五四パーセント)、Aが三三四名(三五・八三パーセント)、Bが四六九名(五〇・三二パーセント)、Cが一一七名(一二・七七パーセント)、Dが七名(〇・七五パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが四名(三〇・七七パーセント)、Cが九名(六九・二三パーセント)

② 臨時

ア 昭和五八年度(期末)

a 全職員

Sは該当者がいない。Aが三〇〇名(二九・四パーセント)、Bが五六五名(五五・四パーセント)、Cが一二九名(一二・七パーセント)、Dが二五名(二・五パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが三名(二三・一パーセント)、Cが七名(五三・八パーセント)、D三名(二三・一パーセント)

イ 昭和五九年度(期末)

a 全職員

Sの該当者はいない。Aが二七五名(二七・二パーセント)、Bが六〇三名(五九・七パーセント)、Cが一〇九名(一〇・八パーセント)、Dが二三名(二・三パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが四名(三〇・八パーセント)、Cが七名(五三・八パーセント)、Dが二名(一五・四パーセント)

ウ 昭和六一年度

(夏期)

a 全職員

Sが二名(〇・二パーセント)、Aが二一八名(二二・三パーセント)、Bが六〇九名(六二・五パーセント)、Cが九九名(一〇・二パーセント)、Dが四六名(四・八パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが五名(三八・五パーセント)、Cが六名(四六・一パーセント)、Dが二名(一五・四パーセント)

(冬季)

a 全職員

Sが二名(〇・二パーセント)、Aが二四四名(二五・八パーセント)、Bが五六四名(五九・五パーセント)、Cが一二五名(一三・二パーセント)、Dが一二名(一・三パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが四名(三〇・八パーセント)、Cが七名(五三・八パーセント)、Dが二名(一五・四パーセント)

(期末)

a 全職員

Sが三名(〇・三パーセント)、Aが二四一名(二六・八パーセント)、Bが五五五名(五九・九パーセント)、Cが一一〇名(一一・八パーセント)、Dが一一名(一・二パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが三名(二三・一パーセント)、Cが九名(六九・二パーセント)、Dが一名(七・七パーセント)

四 昭和六二年度(期末)

a 全職員

八名(〇・九パーセント)、Aが二四一名(二六・八パーセント)、Bが五二〇名(五七・九パーセント)、Cが一一六名(一三パーセント)、Dが一二名(一・四パーセント)

b 原告等

S及びAの該当者はいない。Bが五名(三八・五パーセント)、Cが八名(六一・五パーセント)

(五) 労組の結成経緯、労組と従組との対立関係、被告の従組に対する対応関係について

従組が昭和二八年七月に被告の職員によって結成された労働組合であり、昭和六二年八月末の組合員数が三三名で、全国信用金庫信用組合労働組合連合会に加盟しており、他方、四三年九月、被告の職員によって結成された労組が併存していることは前述したとおりであり、労組の昭和六二年八月現在の組合員数が七九〇名であることも前述したとおりである。

そこで、労組の結成の経緯、労組と従組との対立関係及び被告の労組に対する関係についてみると、《証拠省略》によると、次のとおりであることを認めることができる。

従組の活動方針に不満を持っていた一部職員は、昭和四三年一月、「芝従組誠和会」を結成し、同年二月、職員である係長以上の職制六九名が連名で、「……誠和会を全面的に支援」する旨の声明を発表し、支店長、次長も従組員に対し誠和会加入を勧めた。このようにして、同年九月二八日、誠和会のメンバーが中心となって労組が結成されたが、労組に参加した者は三九〇名で、従組に残留した者は二九〇名であった。

このようにして被告には、従組と労組といった二つの労働組合が併存するようになったが、被告は、昭和四四年一月、従組の定期大会について、「依然として階級闘争至上主義を擁護し、預金増強運動に対する批判を述べる等……」と記した「労務ニュース」を配布し、一部の店舗長、次長は従組員に対し、労組加入の勧誘を行った。

また、被告の理事長は、昭和四六年四月、社内報「しば」で、従組の幹部を「一部の過激な闘争主義者」と呼び、また、被告は、同社内報で、「一方ここで忘れてならないのは、労組の『限りなき前進』と従組の業績伸展を妨害する一部悪質分子の存在であり、この悪質分子の被告からの徹底的な排除であります」と述べた。また、労組は、「旧労(従組を意味する)を被告から一日も日く排除しよう」、「不要家族旧労被告を去れ!」と記載した組合機関誌を配布した。

その後、被告が行った社内報「しば」や「労務ニュース」による従組非難記事掲載等が不当労働行為事件として争われ、これについて東京都地方労働委員会は、昭和五一年二月三日、被告の行為を正当な組合活動に対する介入と認定・判断し、被告に対し「しば」及び「労務ニュース」において、従組を非難・中傷してはならないとの救済命令を発した(都労委昭和四六年不第一〇一号事件)。

なお、右事件において、被告が従組の掲示板を移動したこと、従組に対する被告施設の利用拒否、職員慰安旅行に従組員の参加を拒否したことが同時に争われたが、同委員会は、これらをもいずれも不当労働行為と認定し、救済命令を発した。

このような状況の中で従組と被告との間には数多くの労使紛争が発生し、本件和解協定が締結されるまでの間、労働委員会関係一一件、裁判所関係九件の審査争訟事件が係属していたが、前述したとおり、昭和五三年三月、東京都労働委員会の勧告により全面解決のための和解交渉が開始され、五五年一〇月一五日、本件和解協定が締結された。

被告は、本件和解協定締結日付で「和解に伴う談話」と題する文書を各店舗宛に発行し、本件和解協定の内容を全職員に説明した。この中には、「被告はこの和解において、職場秩序の維持には特に気を配ったのであり、もし職場秩序を乱す者がある場合には就業規則等被告の諸規程に従い、厳正公平に対処する所存である。」等と表明している。

ところが、労組は、昭和五七年一二月九日付「芝労組ニュース」で「……旧労(従組を指す)とは絶対に口をきかない、あいさつをしないを厳守しよう。」と労組員に呼びかけ、また、六〇年八月六日付同ニュースでも同様の呼びかけをなし、被告は、これらに対し被告の方針に反すると申入れをすることすらせず傍観者立場に終始してきた。さらに、五九年一一月一日付同ニュースでは、甲崎常務の発言内容を掲載しているが、この内容は、「旧労は政治闘争の場として被告の労使関係を捉えており、片寄った政治思想の導入の場としている、この旧労の姿勢と方針は今後とも被告としては絶対に受け入れない……」とか、「今後の労使関係のあり方については、労組とこれまで以上の信頼関係を築き十分対話を深めていく」とか、「今後の旧労問題については、経営の責任において経営・階層との意思統一をより強化し、管理体制を充実強化して対応していく……」等というものであり、その表現は本件和解協定の基本姿勢に疑問を抱かせるものであり、労組も、その後、労組員に対し、「芝労組ニュース」で、従組所属組合員とは絶対に話をしてはならないとか、挨拶をしてはならない等ということを呼びかけている。このような状況下にあって、従組は被告に対し、五八年五月、「労使関係正常化」の要求として全職員に従組員とも挨拶を交わすように求めたが、被告は、「今後も継続して指導していく」と答えてはいるものの、現在に至るまで右のような状況に変化はなく、従組員とは挨拶をしない支店長すら存するし、また、被告は、六〇年一月に行われた被告創立六〇周年記念式典に労組には協力要請や出席要請を行っているが、従組にはこれをしておらず、社内報「しば」の六二年新年号においては、各支店所属職員の新年挨拶を掲載しているにもかかわらず、従組員のみが本件和解協定締結前と同様除外されている。

そこで、従組は東京都労働委員会に対し、昭和六二年、従組と労組との平等取扱い、従組員男性の副参事への昇格、店舗長への昇進等を求める不当労働行為救済命令の申立てをなした(都労委同六二年不第四五号事件)ところ、同委員会は、平成元年五月二三日、従組の申立てを認め、救済命令を発した。しかし、これを不服とした被告は中央労働委員会に対して再審査の申立てをなした(中労委平成元年不再第六六号事件)ところ、同委員会は、四年八月五日、基本的には被告の不当労働行為を認めたものの、右命令を一部変更したので、これを不服とした従組は、当裁判所に右命令の一部取済を求める訴訟を提起し、当該訴訟は当裁判所に係属中である。

以上のとおり、本件和解協定締結前の被告の従組に対する対応には労組に対するそれと比し著しい相違が存したのであり、これは本件和解協定の締結により一旦は改善の方向に向かったかのように見えたものの、その後も改善の形跡は窺えず、従組員に対する挨拶もしない課長が存するというほど異常な労使関係が継続しているというのであるから、このような不正常な労使関係が継続している限り原告等に対する業務指導の面においても職場内研修の面においても十分にその効果を発揮することができないことは明かである。本訴は、男性職員と女性職員との処遇上の不当な差別問題が直接的な争点とはなっているものの、このような労使関係を背景として提訴されていることに留意しなければならない。

3  本件和解協定の効力について

本件訴訟が本件和解協定の効力によって制約を受けることとなるかは問題の存するところである。

被告が従組との間で締結した本件和解協定の内容は前述したとおりであり、これによると、本件和解協定一四条には原告等の資格・賃金の是正措置が定められており、四〇条には被告、従組及び関係当事者は本件和解協定で定めたこと以外についての一切の請求権の消滅の確認と今後争わないことが定められているから、本件和解協定の右定めが本訴請求に消長を及ぼす旨の被告の主張には一応理由があるかのようである。

そこで、本件和解協定締結に至る経緯をみるに、《証拠省略》によると、次の事実を認めることができる。

従組の申し立てた不当労働行為救済の内容は、従組員のうち懲戒解雇処分を受けた一七名を除く二二名(懲戒解雇処分を受けていた原告甲野を除く原告等全員も含まれていた。)につき、従組所属を理由に不当差別扱いを受けたとして昇格・昇給等の是正等を求めるということであった。この申立てを受けた東京都労働委員会は、昭和五三年一〇月三〇日、当事者双方に対し、和解による解決を勧告し、この勧告を受け入れた従組と被告とは、その後精力的に和解交渉をし、従組は被告に対し、この和解交渉で四項目の要求、すなわち、被告が従組に対するこれまでの不当な行為を謝罪すること、従組員一七名に対する懲戒解雇を撤回すること、昇格・賃金差別を是正すること、解決金を支払うことを中心的要求項目として掲げたが、被告は、容易にこれら要求を受け入れようとはしなかった。しかし、交渉は、その後も自主交渉を交えて精力的に行われ、最終的にはトップ交渉により歩み寄りを図り、なお、未解決の問題については労働委員会の裁定に従うこととして本件和解協定が締結されたが、従組は、最後まで従組所属の原告等女性職員の男性職員との差別の是正要求をしたものの、労働委員会も従組に対し、不当労働行為問題を先ず解決すべきであると勧めたこともあって、原告等は、いずれも当時書記一級であったが、資格は、据え置いて賃金のみを是正する措置を講じることとし、本件和解協定一二条、一四条で定める内容となった。

右認定事実によると、本件和解協定は不当労働行為の是正措置を主眼とした内容であって、本件争点の原告等の男性職員と女性職員との間における資格及び職位についての差別是正については合意の対象とはなっていなかったということができるし、また、このことを従組が本件和解協定四〇条で放棄の対象としたということもできない。

したがって、本件和解協定の存在が本訴請求に何らかの影響を及ぼすということはないから、この点に関する被告の主張は採用しない。

4  昇格・昇進確認請求について

被告が導入している職能資格制度にあっての昇格は、職位と区別された資格が上位等級に進級することであって、このような昇格は、昭和四三年四月の職能資格制度導入以降五三年一〇月の昇格試験制度導入以前にあっては専ら人事考課に基づいてなされていたのであり、この人事考課に代えての昇格試験制度が導入された以降は原則として昇格試験に合格することが昇格するための要件となっていたのであり、一定年齢に達した場合に昇格する給与年齢三三歳主事自動昇格制度、本件和解協定締結後の特別措置としての副参事昇格、抜擢人事等は、あくまで昇格試験制度の例外的措置に過ぎなかったものと理解すべきであり、また、平成二年四月一日の新人事制度が導入された以降は能力を基本において「昇格基準」に達した職員について昇格試験制度を引き継いだ昇格審査を経たうえでなされているのであるから、昇格するためには右のような昇格要件を充たさなければならず、原則として毎年四月一日付けの辞令交付という手続きを経ることによって昇格発令がなされてきたのである。

他方、昇進は、昇格とは区別された職位が上位の役職になることであるが、原則として特定の職位ごとに一定以上の資格を要するという資格に対応した職位付与をしており、この職位付与につき、被告は、職能資格制度導入以降新人事制度を導入した今日に至るまで、適材適所、すなわち、職員の人格、識見、統率力等の能力を総合的に判断していかなる職員をいかなる職位に就任させるかを決定し、昇進辞令の交付という手続きを経ることによって昇進発令をなしてきたのである。

翻って、職員の待遇の面からみると、給与体系は、新人事政策の導入されるまでは各年度ごとに各資格別に定められた「普通職員本人給表」によって支給される本人給と昇格基準に基づき取得した職能資格等級に対し支給される資格給とが定例給与のうちの本給となっており、新人事制度導入以降は、満五年の移行措置期間が存したものの、基本給と資格給となったのであるから、資格と定例給与とは対応関係にあり、資格付けの目的も、職位付与の基準とはなっていても、主にいかなる職員にいかなる給与を支給するかということにあって、昇格するか否かは定例給与に直接影響を及ぼすこととなる。例えば、原告甲野と同期同給与年齢で昭和五四年一〇月一四日に副参事に昇格した従組員乙石一夫と同原告との年収を比較してみても、平成元年当時で同原告が約一五六万円少なく、原告甲田と同期同給与年齢で昭和五九年一〇月一五日付けで副参事に昇格した従組員乙島二男と同原告との年収を比較してみても、六二年度当時で同原告が約一四三万円少ないし、原告戊原についてもほぼ同様となっている。この面からは、資格は、職員の労働条件のうちでも最も基本的な部分と密接不可分の関係にあり、職員の待遇そのものということができる。

他方、昇進は、上位職位に就任することであるが、役付の職員に対してはその所属及び責任の種類・程度に応じて定例給与としての責任加給が支給されていたが、新人事制度導入以降は、移行措置はなされたものの、この措置期間の終了した現在はこの支給も廃止され、職員の労働条件と密接不可分の関係にあるとはいえない。

このようにみてくると、昇格は、能力のうえでの位置付けの上昇とはいっても、賃金体系と対応関係にあるため職員の労働条件上の問題であるのに対し、昇進は、被告の経営目的を最大限に達するためにいかなる組織の下でいかなる職員を配置するのが最適かという組織運営上の事柄に属した職務や役職上の配置であり、両者は明確に区別されなければならないものの、いずれも、被告の決定によってなされており、この決定過程に一般職員が団体交渉等によって関与することはあっても、決定自体をなす権限のないことは勿論のこと、このような手続根拠規程もないのであるから、昇格・昇進は被告の専決事項に属するということができる。

したがって、職員の昇格・昇進は、被告が当該職員を特定の資格に昇格させ、あるいは特定の職位に就任させることの決定がなされ、これが当該職員に昇格・昇進辞令の交付という手続過程を経ることによってなされるのであるから、このような被告の決定権限を離れての職員の昇格・昇進は、特段の事情の認められない限り、そもそもあり得ない。もっとも、職員の昇格・昇進は被告の専決事項に属し、被告の決定権限事項であるとはいっても、昇格・昇進にその都度個別的・明示的な決定を要するかは別個に検討されるべき問題であって、例えば、給与年齢三三歳主事自動昇格制度のように昇格を職員に対し制度的に保障しているような場合にあっては、この制度で定められた要件に該当することとなった当該職員はその該当当時に当該資格に当然に昇格したこととなるということができ、昇格辞令の交付は形式的意義を有するに過ぎないと解すべきであり、このようなことは、労働協約ないし労働契約で定められている場合は勿論のこと、就業規則によって定められている場合も同様と解すべきであり、さらには、確立した労使慣行となっているような場合にも同様に解することができる。

もっとも、ここにいう確立した労使慣行となるためには、被告の昇格・昇進に関する個別的・具体的な人事政策事項がある一定期間継続反復されることによって一般化し、共通性を有するようになり、このような取扱いが労使間の共通認識事項とまでになっていることが必要であると解すべきである。

そこで、以下、右のような観点から昇格と昇進とについて個別に検討することとする。

(一) 昇格について

昇格について検討されなければならないことは就業規則三条と労使慣行の存否についてである。

就業規則三条は、「職員は、人種、思想、宗教、政治的信条、門地、性別または社会的身分等を理由として、労働条件について差別的取扱を受けることはない。」と定めており、同条は、被告の職員に対する労働条件についての均等待遇を保障した就業規則上の制度的保障規程と解することができる。

したがって、被告は職員に対し、労働条件の面において右に例示された人種、思想、性別等を理由とした差別的取扱いをしてはならない就業規則上の義務を負担し、この義務は、合理性を有するから、労働契約の面からみると、職員は被告に対し、右に例示された事柄を理由に均等待遇を求める労働契約上の権利を有していると解することができる。

もっとも、右の権利義務といっても、例えば、給与年齢三三歳主事自動昇格制度のように具体的・個別的な要件を定めてはいないから、一般的・抽象的な権利・義務に止まり、個別的・具体的な権利を保障し、義務を負担させた規程とまで解することはできない。

したがって、就業規則三条の定めが存することをもって、同条を具体化した制度等が存するとか新設されたならば格別、そうでない限り、同条自体から直ちに本件昇格請求権が発生すると解することはできないから、これと異なる原告等の主張は採用できない。

そこで、さらに検討するに、被告の人事制度自体は前述したとおり大きな変遷を経ているところ、これらの制度及び人事政策を通しての職員の処遇面をみると、男性職員については、入職当初から将来の幹部職員として養成し幹部職員としての職責と権限とを与えてきたということができ、この具体的な現れが男性職員と女性職員との資格分布、すなわち、新人事制度導入前は副参事以上、新人事制度導入後は課長職以上の資格者は、女性職員は数名に過ぎないのに、男性職員が圧倒的に占めているということや、職務配置、すなわち、男性職員については入職以後職務配置を業務全般を経験し習得することができるように配置してきたのに、女性職員については、社会的・経済的状況を背景とした女性労働価値の把握の相違とか、女性職員の勤続年数の比較的短期なこと等の諸事情から入職当初から必ずしも幹部職員として養成することをせず、極く一部の女性職員を幹部職員に登用はしたものの、圧倒的多数は比較的定型的・補助的な業務に長期間従事させてきたし、研修制度についても、男性職員については男女雇用機会均等法施行後にあっては学歴の相違による研修体系に改訂したものの、その施行前は業務全般にわたる業務知識を習得することができるようにあきらかに将来の幹部職員養成を目指した研修体系となっていたのに、女性職員についてはオペレーター業務に配属してこれを中心として研修を実施していたこと等となっていたものと理解することができる。

以上のことを本件で争点となっている副参事又は課長職に限定してみても、前述したとおり、男性職員と女性職員との間には明らかな格差となって現われている。すなわち、副参事以上の男性職員と女性職員との構成比は男性職員が約九九・六パーセントであるのに対し、女性職員は僅か〇・四パーセントに過ぎないし、男性職員については、昭和五六年度から六一年度までの間で副参事以上に昇格している職員は一名を除き全員であり、五七年度から五九年度までの間の四二歳以上の男性職員の副参事以上の昇格者は、五七年度と五八年度とで一名を除き全員であり、五九年度では全員であり、また、五七年度から平成元年度までの間の男性職員全員の年齢別副参事以上の昇格状況は五七年度は三九歳であるが、翌年度以降は四〇歳から四六歳となっていることからも明かである。このことを原告等と同期同給与年齢についての本訴で争点となっている男性職員の副参事への昇格状況についてみると、原告甲野についてみれば、昭和五七年一〇月(大学卒であれば入職後二六年)までに従組員を除く男性職員全員が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二八年)に遡及となって従組員の男性職員三名が副参事に昇格したことにより男性職員の全員が副参事に昇格し、原告乙山・丙川・丁原についてみれば、五三年(大学卒であれば入職後一六年)までに従組員を除く男性職員全員が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二二年)に遡及となって従組員の男性職員二名が副参事に昇格したことにより男性職員の全員が副参事に昇格し、原告戊田についてみれば、五五年(大学卒であれば入職後一七年)までに従組員を除く男性職員の全員が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二一年)に遡及となって従組員の男性職員二名が副参事に昇格したことにより男性職員の全員が副参事に昇格し、原告甲田についてみれば、五六年四月(大学卒であれば入職後一八年)までに従組員を除く男性職員の全員が副参事に昇格し、五九年一〇月一五日(大学卒であれば入職後二〇年)に遡及となって従組員の男性職員三名が副参事に昇格したことにより男性職員の全員が副参事に昇格し、原告乙野についてみれば、従組員の男性職員一名が副参事又は課長職に昇格してはいないものの、平成三年四月(大学卒であれば入職後二五年)までに右従組員の男性職員一名以外の男性職員の全員が副参事に昇格しており、原告丙山についてみれば、従組員の男性職員一名が副参事又は課長職には昇格してはいないものの、二年四月(大学卒であれば入職後二一年)までに右従組員一名を除く男性職員の全員が副参事に昇格しており、原告丁川・戊原についてみれば、従組員の男性職員がいないことから四年四月(大学卒であれば入職後二四年)までに男性職員の全員が副参事に昇格し、原告甲川・乙原についてみれば、男性職員一六名中の一名(但し、従組員ではない。)が副参事又は課長職に昇格してはいないものの、二年四月(大学卒であれば入職後一九年)までには右一名以外の全員が副参事に昇格し、右一名も平成八年四月一日付けをもって課長職に昇格したというのである。

もっとも、原告丙田については、平成四年四月(大学卒であれば入職後二〇年)までに男性職員二九名中二〇名が副参事に昇格したものの、その理由は入職年が外の原告等と比較して最も遅いということ以外には見当たらないが、男性職員九名、率にして三一パーセントもの職員が未だに副参事又は課長職に昇格していないというのである。

以上のことからすると、被告の男性職員に対する昇格の取扱い、とりわけ副参事までの取扱いは、従組員と原告丙田と同期同給与年齢の男性職員とを考慮対象外とした場合、入職後大学卒であれば最短で一六年、最長で二六年、平均して二〇年強で、原告甲川・乙原の関係での男性職員二名を除き、全員が副参事に昇格しており、従組員の男性職員をも含めてみても、原告甲野・乙山・丙川・丁原・戊田・甲田の関係では入職後大学卒であれば最短で二〇年、最長で二八年、平均して二二年強で全員が副参事に昇格している。このように、原告丙田を除いた原告等と同期同給与年齢の男性職員の副参事昇格への昇格状況は、前述したところからも男性職員全体における副参事昇格状況とほぼ同傾向にあるということができる。

以上のことは、右のような男性職員優位の昇格状況は昇格試験の結果によるものであるということもでき、同旨の被告の主張もこの限りでは合理性が存するかのようであるが、昇格試験制度下にあっても、被告は男性職員に対しては昇格試験制度とは相容れることのできない特別措置ないし政治的配慮といった副参事昇格をなしており、副参事以上の資格者を対象としているとはいうものの、抜擢人事をなしているのであって、これらの措置は、その理由はどうあれ、男性職員に対しては格別の救済措置によって労働条件を向上させた面、すなわち、年功的要素を加味した副参事昇格を実施したことは否定できない。

このようなことから、原告丙田の関係を除き、その余の原告等の関係では、同期同給与年齢の男性職員の副参事への昇格については、昇格試験制度の下にありながら男性職員については年功的要素を加味した人事政策によってほぼ全員が副参事に昇格したものであって、原告甲川・乙原の関係での男性職員二名はあくまで例外的措置と理解することができ、このような人事政策は、長期間継続してなされたことによって一般化し、共通性を有するようになっており、労使間の共通認識事項となっていたということができるから、前述した労使慣行として確立していたものということができる。

ところが、被告は、右のような男性職員に対する労使慣行の適用を女性職員に対しては適用せず、この埒外に置くという人事政策をなしてきたのであるから、このような措置は就業規則三条に違反することは勿論のこと、現行法秩序のうえからも到底許されることではないといえる。

そうすると、被告の原告丙田を除いた原告等に対する右のような人事政策上の措置は、原告等の勤怠状況には格別問題とすべき点はなく、原告等の能力及び勤務実績等の面においても一部指摘できる原告もいないではないが、これとても格別昇格障害事由となるとは考えられず、その外に格別問題とすべきところのないことは前述したとおりであるから、相当性を欠いた措置であるとの評価は免れないが、この是正措置として、原告丙田を除いた原告等は被告に対し、右のような男性職員に関する労使慣行を就業規則三条を根拠に援用することができるものと解すべきである。

そうすると、原告甲野・乙山・丙川・戊田・甲田については、昭和五九年一〇月一五日付けで従組員の男性職員全員を本件和解協定締結後の特別措置として副参事に昇格させ、これにより同原告等と同期同給与年齢の男性職員全員が副参事に昇格したのであるから、同原告等も同時期に副参事に昇格したものと主張することができるところ、被告における昇格人事発令時期は毎年四月一日付けをもってなされ、右特別措置による昇格発令年月日はあくまで例外的措置ということができるから、同原告等には当てはまらず、同原告等は、翌年の六〇年四月一日付けをもって副参事に昇格したことを請求することができる。

原告丁川・戊原については、同期同給与年齢の男性職員全員が副参事に昇格した平成四年四月一日に、同原告等も副参事に昇格したことを請求することができる。

原告乙野については、従組員の男性職員一名を除き、同期同給与年齢の男性職員全員が副参事に昇格した平成三年四月一日に、原告丙山については、従組員の男性職員二名を除き、同期同給与年齢の男性職員全員が副参事に昇格した二年四月一日にそれぞれ副参事に昇格したことを請求することができる。

原告甲川・乙原については、平成二年四月一日までに一六名中一名を除きいずれも副参事に又は課長職に昇格している(この一名も平成八年四月一日には課長職に昇格した。)のであるから、遅くとも同原告等の主張している四年四月一日にそれぞれ課長職に昇格したことを請求することができる(右一六名中の一名が右のように昇格していないのは例外的措置とみることができるから、被告においてこれについての合理的事情を反証すべき責任があるというべきである。)。

問題となるのは原告丙田についてである。

原告丙田については、同期同給与年齢の男性職員二九名中九名(三一パーセント)もの男性職員が、しかも、この男性職員は従組員ではないから組合間差別問題を考慮する必要もないのに、未だ副参事又は課長職に昇格していない状況にあるから、原告丙田の関係においては未だ右に述べたような労使慣行が確立しているということはできない。

原告等の主張するとおり、国際人権規約、ILO一〇〇号「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」及び女子差別撤廃条約が尊重されなければならないことはいうまでもないが、これら国際人権規約等は一般的効力を有するに過ぎないから、本件昇格請求権の根拠規定とはなり得ず、このことは憲法一四条、男女雇用機会均等法についても同様である。

また、原告らの主張する労働条件に関する差別的取扱いを禁じている労基法三条及び四条は、原告丙田に関して適用ないし準用の前提を欠くことは右に述べたところから明かである。

したがって、原告丙田についての主張は理由がない。

(二) 昇進について

職位は、被告の経営目的を最も効率的に運営するにはいかなる職員をいかなる職位に就任させるか、すなわち、職員の適材適所の配置という組織運営上の事柄であるから、職員の処遇とは直接的な関連性がある事柄ではなく、また、職位就任には当該職位に対応した一定の資格を要することとはなっているものの、職位には組織上その数に限度があるから、一定の資格を取得したことによって当然に職位が保証されることとはなっていないことも前述したとおりである。

もっとも、職員の適材適所の配置とはいっても、職員の労働意欲、自尊心等の内面からみれば、上位職位の付与は、当該職員の労働意欲を向上させ、名誉心等を満足させることとなるのが通常であるが、このような配慮をすべきか否かは被告の専権に属する人事政策事項であって、被告は、右のような経営目的を最も効率的に運営するための人的組織を構築することができるのであって、このような観点からすれば、職位付与を被告の専権事項に属するとすることに合理性を認めることができる。

このようにみてくると、就業規則三条は職員の労働条件面の保障規程であるから、同条と職位付与とは直接的な関係はないということができる。

もっとも、従組員以外の男性職員は、入職後早い職員で約一三年、遅い職員でも約一五ないし一六年でほぼ全員が係長に昇進し、係長に昇進した後平均して四ないし五年でその多くが店舗長代理に昇進し、以後、多数とはいえないものの店舗長以上に昇進していっており、このような男性職員の昇進状況をみる限り、被告は、従組員以外の男性職員に対しては、とりわけ店舗長代理まではほぼ年功的な昇進をさせていたことを全面的に否定することは困難ではないかと考えられる。

しかし、職員に対する職位の付与についての労使慣行の成立は、右に述べた人事政策上の理由から、特段の事情の認められる場合は格別、そうでない限りその余地はないと考えられ、本件にあっての男性職員に対する右のような処遇の在り様を特段の事情ということはできないし、外に右特段の事情の存することを認めるに足りる証拠はない。

そうすると、職位付与については制度的保障は存しないし、労使慣行として確立もしていない。

原告等の主張する国際人権規約、ILO一〇〇号「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」及び女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約は、前述したと同様の理由により本件昇進請求権の根拠規定とはなり得ず、憲法一四条及び男女雇用機会均等法についても同様である。

また、原告等の主張する労基法三条、四条は、労働条件に関する差別的取扱いを禁止しているのであり、本件職位の付与は右の労働条件には該当しないから、同条が本件昇進請求権の根拠規定として適用ないし準用される余地はない。

以上のとおりであるから、本件昇進請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

5  差額賃金請求権の存否

(一) 差額賃金額について

原告丙田を除くその余の原告等は、前述した年月日に副参事又は課長職にそれぞれ昇格したのであるから、被告は同原告等に対し、同日以降副参事に昇格したものとしての差額賃金を支払うべき義務がある。

そうすると、右差額賃金額は、前記争いのない被告の給与体系に基づき計算すると、別紙計算書のとおりとなる。

なお、右差額賃金算出については、次のことを前提とした。

人事考課における決定評語については被告の定めたところに従った。

原告等は、被告のなした人事考課の決定評語は女性であることを理由とした不当な差別であったとして、平均的な決定評語である「B」として賃金等の計算をすべきであると主張しているが、なるほど、被告のなした原告等に対する評定が低く理解に苦しむことは前述したとおりであるが、被告のなした評定が仮に不当であったとしても、このことが不法行為の対象とはなり得ても、右評定を左右するにはそれ相応の請求根拠が必要であり、この点については原告等は何ら主張立証をしていないから、原告等のこの点に関する主張は理由がない。

(二) 消滅時効について

賃金は、当月一日から当月三〇日までの分を当月二〇日に支給することとなっているので、当月分の賃金の弁済期は当月二〇日となる。

そうすると、本訴提起は昭和六二年六月一八日であるから、労基法一一条により昭和六〇年五月二〇日支給分の賃金以前の賃金請求権については時効により消滅したことになる。

原告等は、被告の原告等に対する女性であることを理由とする差別行為は差別意思に基づいた継続的行為であるから消滅時効は進行しない旨主張するが、賃金の弁済期は毎月二〇日に到来し、この到来日の翌日から消滅時効は進行することとなるのであるから、原告等の右主張は理由がない。

また、原告等は、不当な差別行為をなしてきた被告が時効を援用することは著しく正義に反し権利の濫用であると主張するが、原告等の権利行使が遅延した責任を被告に転嫁することはできないから、原告等の右主張も理由がない。

6  慰謝料請求について

原告等の主張する被告の違法行為の具体的な日時・場所・行為態様は必ずしも明確ではないが、原告等が女性差別政策として主張する行為全体を違法行為の対象として主張しているかのようである。

そこで、検討する。

(一) 基幹的業務からの排除(職務配置差別)について

被告が原告等を女性であることを理由とした基幹的業務からの排除をしたと認められないことは前述したとおりであるから、この点に関して被告に違法行為が存したとする原告等の主張は、その余の点について判断を進めるまでもなく、理由がない。

(二) 職務配置差別を通じての研修差別について

原告等の主張する研修差別は、前述したとおり、職務配置の問題に帰着し、研修自体の差別問題ではないから、この点に違法行為が存するとの原告等の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

原告等の主張する通達類に関しても、これらの伝達・配布方法の問題に過ぎず、これらの点に関し被告が女性であることを理由とした差別的取扱いをしたことを認めるに足りる証拠はないから、理由がない。

(三) 管理職にしないための差別的職務配置について

被告が男性職員に対しては管理者となるための必要職務ローテーションを実施していたのに対し、原告等女性職員に対してはこのようなローテーションを実施していなかったことは前述したとおりであるが、被告のこのような人事政策の当否も女性職員の勤続期間の長短等を総合考慮したうえで判断しなければならないことも前述したとおりである。

しかし、女性労働に対する価値観の変化、雇用機会均等法で女性労働者の男性労働者との均等待遇を図ろうとしている昨今、被告の右のような人事政策が相当性をもって主張することはできないというべきである。

したがって、被告の原告等女性職員に対する右のような処遇の在り方は相当といえるか問題のあるところであるが、このような人事政策が著しく不当で違法とまでいえるかは躊躇するところである。

したがって、この点に関する原告等の主張は採用しない。

(四) 係長への昇進差別について

前述した男性職員と女性職員との係長への昇進における著しい格差の存在は女性職員の勤続年数の長短のみによって合理的に説明することのできないことは前述したとおりであり、このような処遇の在り方については前項の管理者にしないための差別的職務配置について述べたと全く同様のことがいえる。

しかし、被告の職員に対する職位付与は前述した判断の下でなされた被告の専権的判断事項に属することであり、原告等職員には職位を求める権利がないことも前述したとおりであるから、被告の原告等に対する右のような人事政策がその判断を著しく逸脱した違法な措置であるとまでいえるかは躊躇するところである。

したがって、この点に関する原告等の主張は採用しない。

(五) 副参事昇格試験の運用について

副参事昇格試験は、それ自体職員に対する処遇の一方法として合理性を有するが、この制度も徐々に十分な機能を発揮することができなくなってきたことは前述したとおりであるが、その制度の運用においてはその運用が違法であるということはできないし、その外にこの運用が不法行為を構成することを認めるに足りる証拠もない。

したがって、この点に関する原告等の主張は採用しない。

7  弁護士費用請求について

原告丙田を除くその余の原告等については、その主位的請求が実質的には債務不履行に基づく履行請求であり、これが一部とはいえ認容されたのであるから、これ以外に弁護士費用を不法行為に基づく損害として請求することのできる理由はない。

原告丙田については、主位的請求が認められず、予備的請求の認められないことは次に述べるとおりであるから、これらとは別個に弁護士費用を不法行為に基づく損害として請求することのできる理由はない。

したがって、この点に関する原告等の主張は採用しない。

8  予備的請求―原告丙田の不法行為に基づく損害賠償請求権の存否

原告丙田が被告から女性であることを理由とした労働条件面においての差別的取扱いを受けたことの認められないことは前述したとおりであり、職位請求については、職員にはそもそも特段の事情の認められない限り、このような請求権がなく、右特段の事情の認められない本件にあっては原告丙田に職位請求権のないことも前述したとおりである。

そうすると、原告丙田の本件不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

(裁判長裁判官 林豊 裁判官 合田智子 裁判官 蓮井俊治)

〈以下省略〉

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